第13話 フォルマの悪事と盾アタック(男)
「はははははは! 英雄だか何だか知らないが調子に乗りすぎたなエイリット!」
確か俺は超最高級羽毛とやらを取りにきたはずなんだが、なんだろうこの状況。
目の前に迫る全長25メートルを超える巨大亀「ベルヒタートル」。重さはキロ超えてトンの世界。
この亀は魔晶列車を超える速度で転がることが出来、時速80キロ以上は出ているだろうか。
そしてその背後から黒フードの男フォルマとやらが放った巨大炎が飛んできている。
うむ、素晴らしい二段攻撃だが……
「これだけは使いたくなかった……この技はあまりにも危険で封印したのだが……やるしかあるまい……! おおおおお! 見るがいい俺の暗黒大剣シュヴァルツイグニスから溢れ出る暗黒オーラを……一度この力が放たれるとその世界は暗黒で覆われ二度と太陽の光が地上に届くことがなくなるという……」
「……だからさっさとしなさいエイリット。私が怪我したら一生責任を負って、ずっと側にいてもらいますからね」
……ちっ、こういうのはフレーバーテキストでの盛り上げが重要だってのにぃ。
「もうちょっとお前らに付き合ってやってもよかったんだが、これ以上はユーベルがマジギレしそうなんでな……ええと、ほい暗黒斬りぃぃ! ああ、言葉の盛りが足りねぇ……!」
俺が目の前まで亀が迫っているからこそ出来る緊急暗黒パワーの解放をやろうとしたら、ユーベルがマジギレ寸前の顔。
こりゃヤベェとユニークスキル『大体なんでも真っ二つ』起動、最高速度で転がってくる巨大な亀と、その後ろから飛んできていた炎の魔法を一撃で真っ二つに切り裂く。
二つに割れた亀が岩山にぶつかり、その速度と質量の大きさに比例した轟音が鳴り響く。
「ははははは! 安心しろエイリット、お前は善良な一般市民を守って死んだってことにしてやるからよ! せっかく国の混乱に乗じてこの亀で列車襲わせて荒稼ぎしてたのによ……俺たちの仕事を邪魔しやがって! ああ、女のほうは死ぬまで俺が抱いてやるから安心しな! ぎゃははは……」
「随分おしゃべりだな。まるでこれから捕まるテンプレート悪役キャラみたいだぞ。つかユーベルを力でなんとかしようとか不可能だぞ。出来るなら俺がとっくに手を出してるっての」
どうやら土煙とかで俺たちが見えていなかったようで、勝利を確信したっぽいフォルマが狂気の笑顔で何やら語りだす。
ユーベルはなぁ、襲いたくなる気持ちは男としてとてもよく分かる。こいつマジで美人だし、体つきが超エロいんだ。
でもこいつキレたら超怖いし、レベル100のこの俺に微量とはいえダメージ通してくるビンタの持ち主だぞ。悪いことは言わん、無理矢理とかはこっちの寿命が縮まるからやめとけ。
「……混乱に乗じて亀で列車襲わせて荒稼ぎ? さてそれはどういう意味でしょうか『シェルウォーク』のギルドマスター、フォルマ。そして……エイリット、この私を襲おうとしたことがあったのですか? ……それ詳しく聞かせてもらいましょうか」
うげ、なんでユーベルの怒りがこっちに向いてんだよ。
美人でいい女を抱きたいとか思ったっていいだろうが。実際に行動はしていないんだし、妄想だけだから俺無罪。
「ば、ば、ばかな……うそだろ……強固な甲羅を誇るベルヒタートルの最高速度と俺の炎魔法の連続攻撃を……くそっ!!!」
まったくの無傷で立っていた俺たちを見たフォルマの顔がみるみる青ざめ、周囲に魔法の炎をばらまき走り出す。
うむ、いい逃げ方だ。ただ逃げるより、目くらましなどの工作をしてから逃げたほうが成功率は上がる。
……が、俺にはそんなの意味ないぞ。
「……殺さないでくださいよエイリット。その人、なにやらやっていたようですから、それを聞き出さないと」
ほいよ、そういやさっきなんか言っていたよな。
「おーい待てって、なんかお前にお礼がしたい女がいるってさ。あんまり俺の相棒怒らせんなよ? その後大変なのは俺なんだからっと」
「……!? なんで追いつけるんだ……! 俺の早足の魔法は魔晶列車を超える速度を……ぐはぁああ……!」
俺は瞬時にフォルマに追いつく。
魔法とか使われたら面倒なんで、みぞおちに重ーい一撃、暗黒重打撃二式を食らわせる。
「……彼、10年ぐらい前から本当にモンスターを使って魔晶列車を襲わせていたそうよ。そうやって陸路を潰しギルドで運び屋をやって多額のお金を得ていたとか……」
シルビドの街に戻り、フォルマと剣士4人を街の騎士に突き出した。
俺たちは事情説明のため詰め所的なところに呼ばれ、起こったこと全て話した。
犯人たち、最初は黙秘していた5人だったが、俺が鬼気迫る感じで脅したらポロポロと喋りだした。
俺は途中退席したから詳しくは分からないが、どうやら岩山で言っていたことは本当だったのか。
ユーベルが握りこぶしを作り怒りをあらわにする。
……魔晶列車が巨大亀ベルヒタートルに襲われた事故は過去に多数あり、そして多くの人命も失われている。
それを人間が引き起こしていたなんてな……俺も怒りでどうにかなりそうだが、これ以上は王都に戻って裁判なりの公的な断罪に任せよう。
フォルマは『シェルウォークⅢ』という三軍に所属し、新人を育てつつ自分の思い通りに動く優秀な手下を探し、秘密裏に悪事を働いていたそう。
リカルテもフォルマのギルドにいたが、彼女は『シェルウォークⅠ』所属で、そこはいわゆる外向け健全ギルドアピール用らしく、リカルテはフォルマの悪事を全く知らなかったそうだ。
「……エイリット」
ユーベルがなんとも言えない表情で俺を見てくる。
魔晶列車を襲うベルヒタートルはこの5年間で俺があらかた倒した。そしてその主犯だったらしいフォルマも捕まえた。
今はそれでいいじゃないか。
「……私はもう騎士ではないので彼らの罪をどうこう出来る権利はありません……ありませんが、エイリットが5年間の行程のいつどこで何回ぐらい私を襲おうと思ったのか聞かせてください。詳しく、です」
無表情でユーベルが言い、俺の腕にしがみついてくる。
え? ぉ、おおお……お胸様の感触が腕にモロに……くそ柔らか……これじゃあいくらレベル100の俺でも動けないじゃないか……!
「……つまりエイリットは私のことが好きだということですよね? それはいつからですか、どこでそう思いましたか、何をしたいと思いましたか、今はどうですか」
ユーベルが早口でまくし立て、ぐいぐいと体を寄せてくる。
な、なんだよ、怒りはアイツらじゃなくて俺に向いてんのかよ……!
「あああ~! ユーベルがエイリット襲ってる~! ずっる~い、私もやる~!」
「ユーベル、そういう抜け駆けはお姉さん良くないと思うの。やるなら3人で行きましょう、そのほうが成功率高いかと……!」
「さすがにモテるっすねエイリットさん! よし、俺もエイリットさんのこと尊敬してるからアタックを……」
同じく事情を聞かれていたリカルテと盾妹ディアージュに盾兄ホスロウが開放されたらしく、建物から出てきた。
え、あ、ホスロウ君さ、俺を尊敬しているってのはいいんだけど、なんで盾構えてんの。
普通尊敬している人に盾構えてアタックしてこないよね?
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