第11話 地味な羽毛集めと派手な爆発音


 翌朝5時、シルビドの街の高級宿屋前。



「ねむ~い」


 猫っぽい雰囲気のリカルテが頭を不安定に左右に揺らしながら俺に寄りかかってくる。


 街は湖から流れてきた朝霧で覆われ、そこに朝日が差し込みちょっと幻想的。



 夜に宿を抜け出して湖に行こうとしたが、酔ったホスロウが俺に抱きついて離れなかったので断念。


 せめて女性に抱きつかれて動けないとかなら快く諦めるのだが、筋肉ゴツゴツ男ホスロウに抱きつかれて、だからな……超悔しい。



 今から向かう先はS級モンスター『大怪鳥ブランシュバード』の棲み家で、目的は討伐ではなく、大怪鳥が落とす羽毛。


 これを材料に寝具を作れば、超最高級クラスのものが出来上がる。


 普通に買えば寝具一式13万Gなり。日本感覚だと1300万円以上の代物。


 5年間休みなくモンスター討伐をし得たお金がそこそこあるので買えなくはないが、俺のユニークスキル『食堂』を駆使すれば作れると分かりここまで材料を求めやってきた。



 俺はこないだまで国の依頼で国内の危険な上位クラスモンスターの討伐をやっていた、が、今から向かう先にいる『大怪鳥ブランシュバード』はリストに入っていなかった。


 リカルテや街の人に聞くと、その大怪鳥は人を襲うことはなく、街の側にある大きな湖によく飛んできて魚などを捕らえて巣に帰っていくだけのモンスターらしい。


 よほどのこと、例えば巣に入り込み寝込みを襲ったりさえしなければ、人に対しては無害とのこと。


 羽を広げると50メートルは超えるという大怪鳥のダイナミックな姿を見ようと街に観光客が増え、さらにS級モンスターであるブランシュバードが近くにいるおかげなのか、今まで一度も他の凶悪なモンスターに街を襲われることがなかったそうだ。


 うむ、うまく人とモンスターが共生出来ている珍しいパターンなのだろう。


 最初は街に被害があるのなら討伐も考えたが、それを聞き、今回は討伐でなはく本当に落ちている羽毛だけを静かに拾って帰る予定。


 それにここは師匠のお気に入りの場所っぽいし、騒ぎは起こしたくない。



「2時間ぐらいかな~。んでそこからは山道だから歩きだね」


 駅前から馬車に乗り、案内役のリカルテが南東方向を指す。


「うへ、馬車だけでは行けないのか。この辺は岩山だから落石とか面倒だなぁ」


 俺は地図を確認するが、このシルビド周辺は標高の高い岩山に囲まれていて、山では結構な頻度で落石被害があるそうだ。


「あ、大丈夫っすよエイリットさん! そういうのは俺の自慢の盾で弾き返しますから!」


「そうだよエイリットくん。ここまで盾だけで生き抜いてきた私たちの防御力を舐めないで欲しいな。そうだ、石弾くたびに抱きついていいってのはどう? わ、これ名案だ!」


 盾兄妹が自慢の大盾を振り回しアピールしてくるが、せまい馬車内で盾振り回すなよ。


 あとディアージュさんよ、あなた今日は完全戦闘仕様で重鎧装備なんだから、俺に抱きつくのは禁止です。鎧の突起物が刺さって痛いし。


「……そんなことしなくても、エイリットはバカみたいな火力の大剣振って真っ二つにしますよ」


 大きなキャスケット帽をかぶったユーベルが本から一切視線を外さずに言い切る。


 うむ、まぁ今までそういう場面に何度か出くわしたが、ユニークスキル『大体なんでも真っ二つ』で突破してきたからな。まぁ大丈夫だろう。




「じゃっっ、ここからはご期待通りの徒歩だね~」



 馬車を降り、リカルテの案内で山道を歩くこと一時間ほど、周囲の景色は岩岩岩。


ピュロロー……ロロー


 草木もほとんど生えていないこの岩山はそこらじゅうに大きな岩が転がっていて、地震や風化で偶然出来上がった岩の隙間に風が通ると、笛の要領で音が鳴る。


「なんとも不思議な場所だな」


「なんかこの音のなる岩がこの地方の名前の由来らしいよ。んで、このあたりは草木が生えないから風がよく通る。軽いものなんて風に飛ばされて結構遠くまでいくんだ」


 俺が周囲を警戒しながら景色の感想を言うと、地元っ子リカルテが豆知識を披露。


「……なるほど、その『音の鳴る岩』が目印ってわけですか」


 大きなキャスケット帽を飛ばされないようにしていたユーベルが、リカルテの言葉に納得したように音の鳴る岩を見る。


 え、何? 目印? どういうこと?


「うわ、正解っっ! ユーベルって頭良いんだね~」


 なんだよ、俺はさっぱり分からないんだが。ユーベルが超頭良いのは知っているが。



「ほら見てよ。何もないと舞うだけなんだけど、こういう岩の付近が吹き溜まりになって軽い物が集まるんだ」


 リカルテに手招きされ音の鳴る岩に近づくと、岩の隙間に何かが詰まっている。


 白い羽根?


「それ。それが超最高級羽毛、ブランシュバードの抜けた羽さ~。今あたりが羽の生え変わる時期で、多分あっちこちにたくさん落ちていると思うよ。さぁみんなで集めよ~っっ!」


 隙間にあった白い羽根をつまむが、たしかに柔らかく、程よい弾力の肌触りの良い羽毛だ。少し砂などで汚れているが、洗えば問題なさそう。


「ふぅん。なんか結構簡単に手に入るんだね。もっとこう罠とか強敵がわんさかで次々と仲間が倒れていって、最後に残った私とエイリットくんが愛の力で切り抜ける展開を期待していたんだけど」


 盾妹のディアージュが不満そうに羽をつまむ。


 なんだよそのラスボス戦みたいな展開。苦労するよりは楽に手に入ったほうがいいだろ。


「……脳内お花畑のディアージュさんの話はいいとして、ではなぜ簡単にみつかるのに市場での取引額が高いのでしょうか」


 ユーベルがディアージュを押しのけ俺に集めた羽を数枚渡してくる。


 うん、そういやそうだな。特に危険もなさそうな場所だし。


「え~? そんなの集めるのが大変だからに決まっているでしょ~。見てよこの広大な岩山を。ここの岩のどこかの吹き溜まりによくて数枚落ちているだけなんだよ? それを布団作るだけの量を集めるってどんだけかかると思っているの~? たぶん毎日ここに通っても数ヶ月かかるよ。モンスターも出るし」


 リカルテが周囲の広大な岩山を指し、あっけらかんと言う。


 な、なるほど……そういやベッドなりマクラ作る羽毛の量って結構だよな。それだけの量を拾い集めるのってとんでもない日数と作業量になるな。


 野球のボール1個ぐらい集めるだけでも結構な小遣いになるそう。


 リカルテはこの街から王都に出る資金稼ぎでやって、そのボール1個分だけで一週間かかったそうだ。




「ピロピロ、ピロロー……」


 みんなで無言で羽集め。


 周囲の岩の小さな穴だったり、微妙な隙間から出るピュロローという音にも慣れ始めたころ、盾兄であるホスロウが両手の人差し指を顔の横に立て例の不思議な口笛を発しだした。


 なんだ? 岩の笛の音にライバル心でも湧いたのか?


「エイリットさん! 何かくるって言ってるっす!」


 ホスロウが急に真面目な顔になり叫ぶ。


 誰が言ってんだよ、と聞こうと思ったら、上の方から爆発音。


「うわわっっ! 落石だよエイリット!」


 リカルテが上を指し真っ青な顔になる。


 見ると、巨大な岩というか、岩山の一部が崩落し俺たちのいるあたりに向かってきている。


「……魔法……?」


 ユーベルが不審な顔で見上げ、崩落したあたりの場所を睨む。


 ふむ、明らかに爆発音がしたからな。いわゆる発破音。



「どうやらディアージュの妄想が当たったみたいだな。大きさは……まあまあか。でも真っ直ぐ向かってくるだけの岩とか、ただの的でしかねぇんだよな!」


 俺はアイテムボックスから自慢の黒い大剣を取り出し構える。


 崩落した岩山の一部は30メートルぐらい。



 さぁて、なにやら不自然な崩落、これは面白い羽毛集めになりそうだぜ。





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