第10話 シルビドの美味しいお魚鍋と盾兄ホスロウのヤバい特技


「んん~っっ、そうこれこれ! やっぱこれ食べないと帰ってきたって気がしないんだ~。ほらエイリットも食べてみてよ!」



 俺たちは王都ラムレグルスから魔晶列車に乗り5時間、大きな湖の側にある街シルビドというところにいる。



 街についた瞬間、暗黒騒ぎが起こり参ったが、街の警備の騎士がおさめてくれ助かった。


 そのうちの一人の女性騎士はユーベルの知り合いでメイシエさんといい、彼女は王都での騎士研修が終わったら地元であるこの街シルビドの勤務を志願したとか。



「ほらエイリット、キサン魚、おいしいよっっ!」


 お昼に宿に入り、軽く休んでいたら夕飯のお時間に。


 宿の人が俺に気付き「英雄であられる暗黒騎士様にふさわしい高級なコースを」とか言い、次々とシルビドの特産品を使った料理を運んでくれた。


 隣に座った猫耳パーカーに短パンの女性、リカルテが満面の笑顔で鍋に入った白身魚を勧めてくる。


 リカルテもこの街出身だが、彼女は逆にシルビドを出て今現在王都ラムレグルスを拠点に活動をしている。


 ま、地元に戻るか王都に行くか、考えは人それぞれだわな。



「キサン魚。ええと、街の側にある月鏡の湖で獲れる背びれ付近に黄色のラインが縦に3本入っている魚、黄三魚。キサン、か、なるほど。うん、うまいな」


 スキル『食堂』の検索で調べていたら、リカルテが箸でつまんだ白身魚をぐいぐい俺の口に押し付けてくるので、勧められるまま食う。


 うん、鍋の魚介のダシが染み込んでいて最高。


「でっっしょ~? これ刺し身もいけるんだよ~」


 ほうリカルテさん、刺し身ですか。日本出身の俺には魅惑のワードだぞ。



「…………エイリット」

「エイリットくーん……」


 俺とリカルテの様子を睨むように見ていた女性二人、大きめのキャスケット帽をかぶったユーベルと、国内トップレベルを誇る『炎狼の二枚盾』兄妹の妹ディアージュが、女性とは思えない低い声で唸る。


「……間接……」

「うん、間接」


 顔を寄せ合い二人が同じ言葉をつぶやく。あれ、君等いつも仲悪い感じなのに、急に仲良しになったのな。


 間接? 


「よく分からんが食いたいなら遠慮せず食えって、ほら」


 俺もリカルテに習い、鍋から一口大に分けた白身魚キサンを二人の口元へ運ぶ。


「……え! あ……お、美味しい、です……」

「あ、だめだよエイリットくん、そんな強引に口に……むぐぅ、おいし!」


 二人が顔を赤らめダシのよく染み込んだ白身魚を飲み込む。


 そんな顔を赤くさせるほど熱かったか? 悪いことしたかな。



「いっすねいっすね! 酒飲み放題とか最高っす! 英雄『暗黒騎士エイリット』さんに乾杯! はい暗黒ー、いひひひひ!」


 盾の兄の方、ホスロウが高級ワインを浴びるように飲み始め、夕飯開始5分で酒乱完成。コース外の追加注文についても俺がお金出すけど、いきなりギアMAXで飲み始めるなよ……。


「暗黒~! あっははは、ホスロウもう酔ってる!」


 猫耳パーカーのリカルテが酔ったホスロウを指差し笑い、ジュースの入ったグラスで応える。リカルテってまだ19才だから飲めないのか。


 ん、つか何その『暗黒~』って言いながらグラス合わせる挨拶。


 俺はもう暗黒騎士辞めたんだし、変な呼び方の挨拶とか急遽創作して広めないで欲しい。


「あっはは、ほらエイリットも~はい暗黒~!」


「あ、暗黒~……って何やらせんだ!」


 リカルテが爆笑しながらグラスを掲げてきたので、つい応じてしまった。くそ、言葉では否定していても、体がつい暗黒を求めてしまう……危うく左目を開眼させるポーズ取りながらやるところだった。ギリギリセーフ。


「……エイリット、左手」


 ユーベルがため息を吐き俺の左手を指してくる。


 うむ……見ると見事に俺の左手が上がり、左目の前で横ピースサインをしているな。


 バッチリ体は動いていたが、脳内では否定をしていたのでセーフ、暗黒セーフ。




「とりあえず明日は朝5時宿の前に集合な。目的を忘れるところだったぞ」


 俺たちは観光でここに来たわけではないのだ。



 なんだかすっげぇ高級な羽毛、それを取りに来た。この街出身のリカルテ曰く、目的の場所までは馬車で数時間、そこから徒歩で移動、だそうだ。


 なら早めに行動開始が吉。


「エイリットく~ん、私起きられるか自信ないな。だから今日は二人一緒の部屋で一戦交えて寝て、エイリットくんが朝起こして欲しいな」


「……別に起きてこなくてもいいんですよ。私とエイリットの二人で行きますから」


 盾妹のディアージュがウインクをしながら言うが、ユーベルがバッサリ切り捨てる。


「ええ~っっ? 私がいないと場所とか分からないと思うけど?」


 一度高級羽毛採取をやったことがあるというリカルテが、すぐさまユーベルに反論。


 うむ、俺がここに誘ったのは経験者のリカルテのみ。正直リカルテだけいれば目的は達成出来そうだし、無駄なトラブルも起こらなそうなんだよなぁ。


「大丈夫っすよエイリットさん! 俺こういう宝探し的なイベント大得意で、場所とか知らなくてもなんとなく風まかせにフラフラしていたらなぜか目的地にいる、とかよくあるんで! なんというか声が聞こえるっていうんですかね、頭にピロピロ~って来るんすよ!」


 盾兄ホスロウが意味不明な発言をし、顔の横に両手の人差し指を上に向けて立てる。


 顔を左右に振り、舌を出し恍惚の顔に……っておいヤメロ。マジもんのヤバイやつだぞそれ。


「ピロピロ……あ、見えたっす。ここから南東の方角っすかね。でけぇ鳥……あ、ピロロ……でもその手前でなんか起こりそうっす」


 リカルテに聞くと、マジで南東の山らしい。


 ……なにこの人、怖いんだけど……


 

「…………」

「…………」

「…………」


 俺が有名な暗黒騎士であると周囲の人にバレているらしく、バカ騒ぎをしている俺たちをチラチラと見てくる人がいる。


 お、サインなら20人までしようじゃないか……って一番俺たちから遠くにいるフードを深くかぶった5人パーティー、鋭いというか、殺気を込めて睨んできているぞ。


 さすがに騒ぎ過ぎで迷惑だったか。


 ん、はて…………この視線、どこかで……







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