第6話 甘いのはクレープ?それとも・・・





 さやかは先ほど言っていたように、家の用事があるからと駅で別れた。


 残された俺とアリスと亮は、そのまま駅前をブラブラする事にして、今はショッピングモールに来ている。


 そこにあったクレープ屋がふと目に入ると、さすがにクレープの魅力には勝つ事が出来ずに買い食いする事にした。


「ほい、アリスはイチゴとアイスのクレープでよかったんだよな?」

「うん、ありがとう♪」


 俺は店員から受け取ったクレープをアリスに手渡した。

 ちなみに、俺はチョコバナナクレープだ。


「おい、蒼太。俺の分は?」

「あん?何で俺が男の分も払わにゃならん?」


 そう、俺が注文して金を払ったのは、自分とアリスの分だけである。


 何が悲しくて、男におごらないといけないんだよ。


 男は自分で払う!

 これ常識!


 え?常識ではない?

 ・・・あ、そうですか。


 いや、まあ元々アリスも自分で払うと言っていたんだけど、別にそのくらいなら痛手でも何でもないから、俺が注文するときにアリスの分も一緒に注文しただけ。


 亮の分?

 そんなもん知らん。


 つーか、そもそも俺が注文する時には亮はまだ悩んでいたしな。


 結局の所は、亮が悪いんだ。

 という事にしておこう、うんうん。


 そんな事を考えている間に、亮もクレープを買い終えていた。


 そして、3人で適当に空いているベンチを見つけて、アリス・俺・亮と並んで座り食べ始める。


「う~ん、美味しい♪」

「ああ、たまに食うと美味いな」


「ねえねえ、蒼ちゃんのも食べたいから一口ちょうだい?あ~ん」

「ああ、いいよ。ほらっ」


「はむっ・・・うん、こっちも美味しいねぇ♪じゃあ、蒼ちゃん!はい、私のもあげるから口開けて~」

「ん・・・やっぱりイチゴもいいな」


 俺とアリスは互いのクレープを食べさせ合う。

 俺にとっては前世から含めて、あまりに普段通り過ぎる行動なため、何一つ違和感も疑問も抱かない。


 しかし・・・


「・・・・・」


 亮はいぶかしげな目で俺達を見ている。


「ん?亮、どうかしたのか?」

「いや、ほんと・・・お前も何だかんだ言って、アリスちゃんとそういう事を平然とするよな?」


「はっ?なんの事言ってんだ?」

「いや、普通は食べさせ合うなんて事、中々やらんぞ?」


 ・・・・・な、なんだと!?


 た、確かに、前世も含めて他の女子とそんな事をした記憶は・・・


 ・・・

 ぬがああああああ!!


 なんてこった!!


 やべえ!

 やべえよ俺!!


 完全に陽奈に毒され過ぎじゃん!!


 そのせいでアリスと何をしていても、それほど違和感を受けなくなってしまっている・・・


 さ、さすがにこのままではまずい!


 そう思った俺は・・・


「アリス・・・こういうのは今日限りだ・・・」

「ええ~!?なんでぇ~?」


「いいか?俺は普通に彼女がほしいんだ」

「うん、それで?」


「それでって・・・アリスとこんな事をしてたら、俺に彼女が出来ないだろうが・・・」

「うんうん、なるほどなるほどぉ・・・で、言いたい事はそれだけ?」


「いや、それだけって・・・」

「じゃあ、はい!蒼ちゃん、遠慮なくどうぞ~!」


 俺が必死に説明しているのに、アリスは更に俺に密着しながら再びクレープを差し出してくる。


「いや、だから話聞いてた!?」

「うん、ちゃんと聞いてたよ?だから、はい!」


「聞いてねえじゃん!てか、ちょっ、ほらっ!周りに見られてんじゃん!」

「ええ~!?別にいいじゃん!もっと見せつけちゃおうよ♪」


 周りに見せつけるとか、そんなバカップルっぽい事出来るかよ!

 そもそもだ・・・


「だから、ダメだっての!俺に女の子が寄り付かなくなっちゃうだろが!」


 そう・・・

 ただでさえ俺の周りには、アリスとさやかしか女の子が居ないってのに・・・


 それを必死に訴えたのだが・・・


「うん、そうだね!だって、それが一番の目的だし♪」


 と、アリスは平然とのたまいやがった。


「だあああああ!!お前、俺に彼女作ってもいいって言っただろが!」

「うん、蒼ちゃんに出来るものなら別にいいよ?」


「言ってる事と、やってる事が違うだろう!」

「そりゃあそうだよぉ」


 なんだよそれ!


 彼女を作ってもいいけど、俺に女性を近寄らせたくもないってか!?

 意味わかんなさすぎだろが!


「そりゃそうって・・・」

「だって、蒼ちゃんに彼女が出来ないならそれに越したことはないもん。だから当然だよね!」


 いや、アリスにとって当然なのかもしれないが・・・

 俺にとっては、彼女作っていいけど女性を俺に近づけさせないとか、意味がわからない・・・


 もう言っている事が滅茶苦茶すぎる・・・


「いや、当然って言われてもな・・・」

「ふふん、それでも蒼ちゃんが私以外の彼女を作りたいと言うのなら、蒼ちゃん自身が頑張らないとね~」


 いや、俺が頑張るにしても女性が近寄ってきてくれなかったら・・・


 その時点で無理じゃん・・・


 どう考えても、アリスは俺に彼女を作らせないようにしているよな・・?

 本当に彼女を作っても怒らないのか疑問に思ってきた・・・


 そう思って、俺はアリスに尋ねる。


「つーかさ、本当に俺が彼女作ってもいいんだよな?な?」


 俺は念を押して訴えかける。


「うん、そんなに念を押さなくても大丈夫だよ?・・・ただし」

「ただし?」


 なんか嫌な予感が・・・


「その子が私と勝負して勝ったらね♪」

「なんじゃそりゃああああ!」


 なんだそれ!なんだよそれ!!


 なんで俺の彼女になる娘は、アリスと勝負しないといけないんだよ!!


「・・・ち、ちなみに、どういう勝負する気なんだ?」

「それはね・・・蒼ちゃんの事をどれだけ知ってるか対決だよ♪」


「・・・・・おいいいいいい!!お前に勝てる奴いるわけねえだろが!」

「うん!全戦全勝だよっ♪」


 ・・・はっ?

 全戦・・・全勝・・・?


「ちょ、ちょっと待て・・・全戦全勝って、まさか・・・中学の時も俺と良い感じになった女子が、急に離れていったのは・・・」

「残念だったねぇ。だって私の出した蒼ちゃんクイズに、全然答えられないんだもん」


 うぎゃあああああ!!


 だからかよ!!

 だからなのかよ!!


 せっかく仲良くなった女子が、急によそよそしくなったりしたのは!

 しかも何人も・・・


 俺がそんな事を嘆いていると、蚊帳の外に置かれていた亮が呟く。


「・・・いや、ほんと・・・お前ら、ほんと似た者同士だよ」

「はあ!?やめろや!!つーか、どこがだよ!!」


「だって、お前もアリスちゃんと似たような事言ってたし、現に行動起こしてるじゃん」

「・・・」


 いや、確かにアリスに纏わりつく悪い虫を排除してたけど・・・

 それは、俺がアリスと付き合いたいわけじゃなくて、アリスの為を思ってだな・・・


「え?何々?蒼ちゃん何言ってたの?亮くん教えて、教えて~!」

「ああ、いいよ。蒼太はな、アリスちゃんと付き合いたいなら俺の屍を乗り越えて行け!って言ってたんだわ」


 俺が亮にやめろ!という間もなく、アリスに教えてしまった・・・


 ・・・てか。


 おいいいいいい!!

 ちょっと違う!ちょっと違うぞ!!


 脚色して伝えるんじゃねえ!!


「ムフッ!もう、蒼ちゃんてば・・・アリスの事好きすぎて困っちゃうよぉ♪」

「違う!・・・いや、違わないけど・・・違わないけど違うんだよ!」


 そう・・・

 何度も言うが、俺はアリスを陽奈として好きというだけなんだ!


 そこに恋愛感情はない!

 妹を女性として見てはいないのだ!!


「いいか?アリス・・・」

「ん~?なに?蒼ちゃん」


 今日こそ・・・

 今日こそは、アリスを説き伏せてやるぞ!


「いつも言っている事だけどな・・・俺は確かにアリスが好きだ。でもな、それは家族のような感覚としてなんだよ!わかったか?」


 俺はアリスの肩に手をやりながら、真剣な目で訴えかける。

 絶対にアリスの心に響いてくれると信じて・・・


「うん、わかったよ・・・」


 ほらっ、俺の真摯な気持ちがアリスに伝わって・・・


「そんな、真剣な目で告白された上にプロポーズされちゃったら・・・断れないよぉ!ねえねえ亮くん、これはもう結婚するしかないよねぇ!?」


 なかったよ!!

 いつもの如く、全く伝わってねえよ!!


「だあああああ!だから、違うっての!夫婦じゃなくて妹だっつってんだろ!!」

「んもう、蒼ちゃんたら~照れちゃってぇ!」


 そもそも、この手の話がアリスに通じるわけがなかったよ!!


「あ~、まあ、うん。いいんじゃないか?勝手に結婚すれば・・・お似合いだし」


 そしてアリスに話を振られていた亮は、適当に返事をしていた。


「おい、亮!他人事だと思って、適当な事言ってんじゃねえよ!!」

「え?だって実際、他人事だし・・・正直どうでもいいわ」


 くそっ!

 投げやりに言いやがって!


 俺が困ってると言うのに、友達がいの無い奴め!!


「ほらほら、亮くんも祝福してくれてるし♪・・・ねえ、蒼ちゃん?いつ結婚式挙げる?」

「だああああああ!!祝福してねえだろが!!そして、俺は結婚しねえっていってんだろが!!」


「やっぱり蒼ちゃんが生まれてくれた事に感謝して、蒼ちゃんの誕生日がいいかな?」

「おい!話を聞けって!俺はアリスと結婚しねえの!」


「私ね私ね、式はやっぱり洋式がいいなぁ♪教会で結婚式を挙げるのって憧れだよねぇ♪」

「だから!話を・・・話を聞けって!いや、聞いてください!!」


 1人妄想を膨らませて全く話を聞いてくれないアリス。

 そんなアリスに何とか話を聞いてもらおうと頑張る俺。


 そして、その俺達のやり取りに溜息を吐きながらも、亮は温かく見守っているのであった。



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