第5話 攻める蒼太





 亮と2人で次の移動教室へと向かう途中。


「しかし、蒼太はあんな事言ってよかったのか?」

「はっ?なんの事だよ?」


 亮が唐突にそんな事を言いだした。

 何の事を言っているのかわからん。


「いや、お前にはアリスちゃんがいるのに、さやかに告白めいた事を言ってただろ?」

「ああ、別に告白したつもりはないけど・・・まあ、そう捉えられてもそれはそれで構わないんだけどな」


「なんでだよ?」

「だってアリスには、俺は絶対に別の彼女を作る!と宣言してるからな」


「・・・それで、アリスちゃんは納得してるのか?」

「いや、アリスにそう言ったら、あいつなんて言ったと思う?『ふふ~ん、蒼ちゃんには私以外に彼女が出来るわけないでしょ?作れるものならどうぞ~!頑張ってねぇ♪』だってよ!」


「・・・それはまた、蒼太の事を信頼してるのか貶しているのか、微妙な所だな」

「いや、あいつは俺のモテ具合を舐め切っているのだ!だから、俺がその気になれば彼女の1人や2人簡単に出来ると思い知らせてやるのだ!」


「・・・さすがに1人はともかく、2人は常識的にダメだろう?お前がモテるかは、この際置いといて」

「いや、置いとくなや!頼むから、肯定するなり否定するなり反応して!!」


「しゃあないな・・・わかった、はっきり言おう!お前はモテない!」

「はっきり言うんじゃねえ!!」


「くくっ、反応しろっていうから反応してやったんじゃないか」

「うっさい!こういう時は、嘘でもモテると言うのが友人ってもんだろう!」


「・・・ああ・・・お前はモテるよ」

「やめろ!憐みの目で見るんじゃねえ!!」


「どっちにしても怒るんじゃないかよ。まあ、冗談はこの辺にして・・・お前はさやかの事、本当に狙っているんだな?」

「ああ、アリス以外で考えた時、俺はさやかが一番好意持ってるのは間違いない」


「いや・・・まず第一前提として、アリスちゃん基準になってるじゃないか・・・」

「はっ!?マ、マジだ・・・」


「いや、まあそれはいいとして・・・お前がさやかを狙っているというのなら、俺とはライバルになるな」

「な、なに!?・・・という事は、お前もさやかの事・・・好きだったのか?」


「ああ、俺はさやかと付き合いたいと思っている」

「そうか・・・そうだったのか・・・」


 まさか、亮がさやかの事を好きだったとは。


 ・・・


 ふっ・・・そうか。

 そうだったのか・・・


 まさか亮がねぇ。


 ・・・


「わかったよ、亮・・・そんなにもさやかの事が・・・」

「ああ、俺は本気だ」


「そっかそっか・・・・・じゃあ、遠慮はしねえ!俺はさやかに猛アタックするぞ!」

「んなっ!!」


 亮の想い・・・俺にはそんなの関係ねえ!


 最低?クズ男?

 ・・・うっさい!


 恋は戦争なんじゃあああああ!


 特に親しい友人が少ない(悲しい・・・)俺にとっては、数少ないチャンスなのだ!

 ここを逃してしまえば、後がなくなってしまう。


 だから、いくら友人とはいえ譲れない!

 いや、友人だからこそ、俺も本気でぶち当たろうじゃないか!


 気長に行くつもりだったが、それを聞いたら俺も負けられんのじゃ!


 というわけで、移動教室に到着後・・・


 俺と亮とアリスとさやかの4人で1つのテーブルを囲んでいる。


 のだが・・・


「ちょっと、蒼ちゃん!?何やってるの!その腕を離しなさい!」


 アリスは俺の左側に座り、俺の左腕を取りながらも逆の手で俺の右腕をパシパシ叩いている。


 なぜなら・・・


「ちょ、ちょっと・・・これ、どういう状況なの・・・?」


 と、困惑するさやかの左腕を俺が取っているからだ。

 要は、アリス・俺・さやかの3人がぴったりくっ付いて互いの腕を取り、対面に亮が1人で座っているのである。


「・・・すまん、多分俺のせいだ・・・ただ、どうしてそうなっているのかは俺にもよくわからん」


 対面に座る亮も、困惑しながら首を横に振る。


 そしてその後も、アリスは俺がさやかの腕を離すまでずっとパシパシ叩き続けるのであった。



 ・・・・・



 放課後。


「さやか、今日どっか寄っていかないか?」


 俺はさやかを遊びに誘う。


「う~ん、行きたいのは山々だけど、今日は家の用事があるんだよねぇ」

「そっか、それじゃあ仕方ないな」


「うん、でも家に帰るだけだから、駅までなら一緒出来るよ?」

「じゃあ、そうすっか」


 最初は、さやかは俺を避けるために用事があると言ったのかと思ったが、途中まで一緒に帰ってくれると言ってくれたので、拒否されたわけではない事がわかり安心する。


「じゃあ、帰るか」

「うん」


 と、俺がさやかを促して歩き出した所。


「おい、ちょっと待て!」

「ん?」


 亮が俺の肩を掴んで、俺の歩みを止める。


「なんで俺を誘わないんだ!?」

「なんで俺が男を誘わないといけないんだ?」


 当たり前だよな?

 普通、帰るにもしても遊ぶにしても、男なんて誘わないだろう?


 ・・・え?誘う?

 あ、そうですか・・・


「おい!サイテーかよ!」

「ははっ、冗談だっての。まあどうせ今日は、さやかは遊べないらしいし亮も一緒に帰るか」


「おい、それって・・・さやかが遊べるなら、俺を誘わないって言ってるように聞こえるんだが?」

「え?そう言ったつもりなんだが?」


「・・・あ?」

「・・・お?」


 俺と亮は睨みあう。


 そりゃ、俺もさやかと付き合いたいし、さやかを狙ってる亮を誘うわけないじゃん?


 恋は非情なのだ!!


 いや、まあ冗談なんだけどね。


 言っておくけど・・・

 これが俺達の日常なんで、本気で喧嘩したりはしていない。


 仲が良いからこそ、互いに冗談半分・半分本気の攻防をやりあえるのだ。


「ちょっと蒼ちゃん!?亮くんの事は置いといて、何で最初に私を誘わないの!?」


 急にアリスが来たかと思うと、俺に擦り寄りながら文句を言ってくる。


「いや、アリスちゃんも大概俺の扱い酷くない?・・・置いとかないでくれるかな?」


 そして、俺のとばっちりを受けた亮がシクシクと泣いている。


 まあ、そんな亮は置いといて・・・


「いやいや、ずっとアリスと一緒にいたら、いつまで経っても俺に彼女出来ないし?」

「うん、全然それでいいよね?」


「いや、いいわけないじゃん!そもそも、お前は俺に彼女作ってもいいって言ったよね!?」

「うん、言ったよ?でも、それは蒼ちゃんが頑張るだけの話であって、アリスが蒼ちゃんと一緒にいてはいけない理由にはならないよね?」


「・・・確かに・・・おっしゃる通りで」

「でしょ?だから、蒼ちゃんは私を最初に誘わないといけないの!」


「いや、そのこじつけはおかしい!俺が頑張らないといけないのに、アリスを誘ったら本末転倒じゃん!」

「えへっ!ばれた?・・・でも、それはそれ、これはこれだよ♪」


「いや、それもこれ、これもそれだっての!」

「言ってる意味わかんないもん。それよりも、蒼ちゃんの行くところにアリス有りだよ♪」


「それこそ意味わからんし・・・」

「いいからいいから!そんな事より、2人が待ってるから早く行こうよ!」


 俺とアリスにぞんざいに扱われて泣いていた亮もいつの間にか復活しており、さやかと二人で俺達のやり取りを微笑ましそうに笑いながら見ていた。


「はあ、わかったよ」


 俺はアリスに手を引かれながら、そんな2人の元に向かった。

 そして・・・


「悪い、待たせた・・・よし、じゃあ帰ろうか」


 そう言って、俺はさやかの腕を取って進む。


「ええ!?すごいナチュラルに腕を組まれたんだけど!?」


 俺があまりに自然にさやかの腕を取った事で、さやかは驚きを隠せないでいる。


 そして、それを見たアリスは・・・


「ちょっと、蒼ちゃん!その手を離しなさい!」


 握っていた俺の手を離すと腕を組みなおし、さやかの腕を取っている俺の手をパシパシ叩くのであった。


「いや、俺が頑張るのは構わないとアリスが言ったんだろう?」

「うん、そうだよぉ!でも、私の目が黒い内は蒼ちゃんの好き勝手はさせないよ?」


「なんだそりゃ!!」

「ぷぷっ。まあ、さやに対してなら多少は大目にみてあげるけど、何でも蒼ちゃんの思い通りにはならないと思う事だね♪」


 アリスはパシパシ叩くのをやめて、笑いながらそう言った。


 何だかんだ言って、アリスも俺達4人の関係を気に入っているらしい。

 そして何かあったところで、俺達の関係が変わらないと感じているようだ。


 そこは不思議なところで俺自身もそう思うし、さやかや亮も同じように感じている気がする。


 だから・・・


「さっきもそうだけど・・・これって、どういう状況なの?」

「さあ、俺にもよくわからん・・・」


 さやかも亮も困惑しながら、さやかは俺の腕を払う事もないし亮も俺を咎める事はせずに帰路に向かうのであった。



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