第4話 クラスの友人




 俺とアリスは同じクラスである。

 従って、学校に着いて靴を履き替える時以外は、結局アリスは教室まで俺の腕にしがみついたままだった。


「ほらっ、もう教室だから離れて自分の席に行きなさい」

「ええ~?私の席まで送ってよ~!」


 俺の席は窓側、アリスの席は廊下側と真逆なのだ。

 だからといって、なんでこの距離で送らにゃならん!


「いや、意味わからんし・・・すぐそこだし、送るほどの事じゃないだろ」

「そこは、愛しのアリスに対する蒼ちゃんの男の見せどころだよっ♪」


「もっと意味わからんし・・・つーか、大した距離じゃないんだから、いいから離れて席に行けっての」

「ムフフッ、アリスの事が愛しいのは否定しないんだね♪」


「まあ、お前の想いとは違う愛しさだけどな」

「またまた~、そんなに照れなくていいんだよ?」


「照れてねえし!もうわかったから、とりあえず席に行けって」

「んもう、しょうがないなぁ」


 アリスは渋々ながらも、ようやく俺から離れる。


「じゃあね、蒼ちゃん。また後でね!」

「あ、ああ」


 つーか、また後でも何も・・・

 同じクラスにいるじゃんよ・・・


 そう思いながらも俺は俺で、自分の席へと向かう。


 すると・・・


「相変わらずお前達夫婦は、本当に仲がいいよな」


 俺が席に着くなり、隣の席に座っている早乙女亮さおとめりょうがそんな事をのたまいやがった。

 ちなみに俺の数少ない友人の1人で、イケメンと言うよりは爽やか系の奴だ。


「やめろ!開口一番、変な事を言うんじゃねえ!」


 この前、アリスに言われたことを思い出すじゃねえか!!

 俺達は結婚なんてしないの!!


「だって、いくら幼馴染とはいえ・・・教室まで腕を組んでくるなんて、普通は付き合ってなきゃ有り得ないだろう?」

「な・・・なんだ・・・と!?」


 い、言われてみると、た、確かに・・・


 どちらかというとしがみつかれていたとはいえ、腕を組むなんてのは恋人同士の特権じゃなかろうか・・・?


 ・・・・・


 なんてこったあああああ!!


 やばい・・・やばいぞ俺!

 今世も俺の感覚がおかしくなってきている・・・


 このままではいかん!


「ち、違うんだ!言い訳を・・・言い訳をさせてくれ!・・・普段、あまりにも抱きつかれているから、腕くらいなら“まあ、いっか”ってなっただけなんだよ!」

「なんだよそれ・・・なあ、それって惚気のろけか?俺は惚気を聞かされているのか?」


「何言ってんだよ!何をどう聞いたら惚気に聞こえんだよ!どっから聞いても困ってんだろが!」

「いや、どこからどう聞いても惚気にしか聞こえないわ」


 はあ?

 ふざけんなよ!?


 俺がどれだけ本気で困ってると思ってんだよ!


「なあ蒼太、よく聞いてくれ・・・腕を組んで登校した理由が、普段から抱きつかれているからだ!と訳の分からない明言をされて、これが惚気以外の何になるって言うんだ?」


 ・・・・・


「のおおおおおおおお!!」


 やべえ!

 言われてみれば、確かにその通りじゃねえか!


 完全に墓穴った!


 俺はなんちゅう言い訳にもならない言い訳をしてんだよ!!


「おはよう。ふふっ、朝からなに楽しそうな夫婦漫才してるのかな~」


 俺の前の席にカバンを置いた女子生徒が、俺と亮の話を聞いていたらしく笑いながら話しかけてきた。


 彼女は桃瀬さやか。

 ほんわかというか、ゆるふわの癒し系女子だ。


 彼女とは、元々アリスが仲良くなっていて、その繋がりで俺も仲良くなったのだ。


 まあ、席替えで俺の前の席になったから、というのも理由の一つだが。


「だあああああ!!今度は亮と夫婦扱いかよ!そっちの方が嫌だよ!!」

「おいおい、つれないじゃないか・・・俺はこんなにも愛しているというのに・・・」


「やめろ!フリじゃねえんだよ!そのノリに乗るんじゃねえ!!」

「ははっ、なんだ。嫁扱いしてほしいのかと思ったよ」


「してほしくねえよ!てか、よりもよって俺が嫁なのかよ!!だとしてもお前みたいな夫は絶対にいらねえ!!」

「がーん・・・俺は深く傷ついた・・・」


「うっさい!それはもういいっての!」

「くくっ、やっぱりお前の慌てる姿は見てて楽しいな」


 ったく、人で遊ぶのもいい加減にしやがれっての!


「ふふっ、やっぱり夫婦漫才だったのね?」

「ちっがあああああう!!俺は漫才師じゃねえの!!しかもこいつとだけは、夫婦扱いしてほしくねえの!」


 マジでやめてくれ!

 俺はノーマルなの!


(中身が)実妹とか、男とは恋愛の対象にはならないの!!


 それに、どうせなら・・・


「さやかと夫婦と言われる方がいいわ・・・というか、むしろ言われたい」


 と、わりと本気で思う。

 何だかんだで、さやかは俺のストライクゾーンど真ん中なのだ。


 だから、それを心で呟いていたつもりだったのだが・・・


「えっ?・・・あっ・・・ちょ、ちょっとぉ、な、何を言ってるの!?」

「えっ!?あっ、やべ!俺、声に出してた!?」


「だ、出してたどころじゃないよ・・・もう、れ漏れよ!漏らし過ぎよ!」

「マジかぁ・・・」


 声に出してしまっていたらしい・・・

 しかも、それを聞かれるとか・・・


 ・・・てか、その言い方!

 なんか違う意味に聞こえるし、卑猥に聞こえるからやめて!!


 何にしろ、聞こえてしまったものは仕方がない。


「ま、いいけどさ」

「いいの!?」


「うん、わりかし本気だし、俺はそういうの隠さないタイプだからねぇ」

「・・・そ、そんな事・・・いきなり言われても・・・」


 俺の言葉に、さやかは相当動揺しているようだ。

 いや、別に告白したわけじゃないし、そこまで悩まなくてもいいんでない?


 まあ仮に告白したとして付き合えないとか言われたとしても、今の関係が壊れる事はなさそうだから別にそこまで気にしないし。


「おいおい、早速浮気か?」

「いや、浮気じゃねえよ!アリスとは付き合ってねえって言ってんだろ!?マジで勘弁してくれよ・・・」


「そんな事言って、アリスちゃんに本当に彼氏が出来たらどうするんだよ?」

「はあ?あいつに彼氏?・・・んなもん、祝福するに決まってるだろう」


「本当か?」

「ああ、もちろんだ!ただし・・・俺を倒していく事が条件だがな」


「いや・・・そりゃ、無理でしょ・・・お前、アリスちゃんの事になると、すげえ力発揮するじゃん・・・この前だって、アリスちゃんに絡んできた5人組の不良を、全員フルボッコにしてたよな」

「あ?当たり前だろう!?アリスに悪い虫が近づいたら叩き潰す!これ、社会の・・・いや、世界の常識!」


「いや、なんの常識なんだよ・・・」

「何言ってんだ!世界の常識も知らんのかよ」


「いや、初めて聞いたし・・・そもそも、お前だけの常識を世界の常識にされてもな」

「ふん、無知な奴め・・・とにかくだ!アリスを守れないような奴には、アリスはやれん!」


「お前はアリスちゃんの親父かよ・・・ていうか、それで何で付き合ってないと言い張るんだか・・・」

「いや、親父じゃねえよ。どっちかというと立場的に兄だし」


 事実、本当に兄だもんな。

 まあ、この2人がそんな事知る由もないけど。


「って、そんな事はどうでもいいが・・・さやか、そういう事だから考えておいてくれ。いや、別に考えなくてもいいけど」

「ええ~!いきなり話を戻された!?というか、何それ!?どっちなの!?」


 彼女が欲しいとはいえ、別に焦っているわけでもないから、本当にどっちでもいい。


 出来るなら、(中身が)妹以外と付き合いたい。

 そう考えた時、俺と仲が良く俺の好みでもあるさやかが第一候補として浮上する。


 ただそれだけ・・・


 まあ出来るなら、さやかと付き合えたらとは思う。

 が、無理強いするつもりもない。


 ただこのままだと、本当にアリス陽奈と付き合う事になりかねん!


 さすがにそれだけは阻止せねば!


 と、思っちゃったりなんかしちゃったりして。


 そんなやり取りをしている間に予鈴の鐘がなったため話が中途半端になり、俺以外の2人をモヤモヤさせる事になったのである。



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