09話.[これでいいのだ]

「メリークリスマース」


 いつもよりかなりテンションが上っていた。

 お店に来ているわけではなく、少しだけお菓子や食べ物を買って集まっているだけなのにこれだから意外と子どものままなのかもしれない。

 ただまあ、クリスマスにこうやってなにかを買ったりできるのはほぼ初めてと言っても過言ではないから許してほしかった。


「堤さんが来られなくなっちゃったけど大丈夫なの?」

「用事ができて無理らしいからそれは仕方がないよ、それに健太とは約束していたんだから集まれただけで十分だよ?」


 明日は絶対に来てくれるということだったから我慢できる。

 それにいま言ったように彼とも約束していたんだからこれでいいのだ。

 隆介君は帰ってくるなり車で実家へ向かってしまったから余計にそう思う。


「……未羽ってそういうところがあるよね」

「どういうところ?」


 彼はうつむいてしまったうえにそのまま黙ってしまった。

 悪いことを言ったつもりはないから「食べよ」と先に進める。

 お喋りをするのは食べ終えてからでも遅くはない。


「ちょっとは作った方がよかったかな?」

「美味しいけど確かにお金はかかるよね」

「うん、簡単に吹き飛んじゃったからさ」


 時間のことを考えれば全て購入して済ませた方がいいし、お金のことを考えれば多少は材料を買ってきて自分で作る方がよかった、ということで終わる。

 今日も普通に学校はあったわけだけど、それでもお昼に終わっていたんだから多少は努力するべきだったかと少し後悔していた。


「でも、美味しいからいっか」

「というか、お金は本当に払わなくていいの?」

「うん? あ、隆介君が出してくれたし、隆介君がいらないって言ってたでしょ?」

「でも……」

「いいよっ、私と過ごしてくれたお礼ってことでっ」


 私自身はなにもしていないけど本当に感謝しているんだ。

 恐らく隆介君のそれもそこに影響してくれているはず。


「ふぅ、もうお腹いっぱいだよ」

「量を調節してよかったね、買う前はついつい多く選びがちだけど」

「そうだねっ、あのときの私を止めてくれてありがとう」


 ちょっとはしたないけど床に寝転んだ。

 自分の家だからというのもあるけど、お腹がいっぱいになるとなにもしたくなくなるのだ。

 でも、食べることが大好きだったからこそ腐らずに生きてこられたのかもしれないといまさらながらに気づいた。


「健太も転べば? ちょっと冷たいけどさ」

「……未羽は気をつけた方がいいよ、堤さんの彼女さんなんだからさ」

「そう? 転びたくなったらいつでもいいからね」


 掃除をしていないのに汚れがひとつもない天井を見つめる。

 お腹がいっぱいになるまで食べられるって幸せだなあってそう思った。


「……ちょっと転ばせてもらおうかな」

「うんっ、そうした方がいいよ」


 少しだけ眩しいからオレンジ色にした。

 このまま眠ってしまえるような暖かさがそこにあった。

 暖房機器とかを使用しているわけではないのにこれなのは実に不思議だ。


「今日はありがとう」

「こっちこそ……ありがとう……」

「ん? もしかして眠たいの?」

「うん……」

「それなら寝たらいいよ、僕はもう帰るから」


 立ち上がろうとした健太の腕を掴んで止める。

 誰かがいてくれているから、健太がいてくれているからこれなのにそれはない。

 勝手に帰られたら嫌だから腕を掴んだまま丸まったのだった。

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