幕間 書状と森の異変

「ルーエン国王!ジャンバール帝国よりこんな書状が!」


 ベルセング王国玉座の間。そこに1人の男が一通の手紙を大事に抱えて駆け込んできた。


「ふむ、読んでくれ」


 ルーエンは玉座に肘をつきながら書状を持ってきた男を見る。少しばかり張り詰めた空気が玉座の間内に広がる。


 男は『はっ!』と大声で返事をした後、力強い口調で書状を読み上げる。


「『ルーエン国王よ、ご無沙汰している。私はジャンバール帝国女王、リケア・ジャンバールだ。この度ルーエン国王の国に炎帝と魔王が入国したとの情報を得た。私は怨敵国である王、リルリラ・ドゥルラムを討とうと考えている。そこで私は勇者一行と氷帝を送った。氷帝はあくまでも保険だ。そして、おそらく今頃勇者一行も氷帝もベルセング王国へと着いているだろう。勇者一行はどうかはわからん。だが、氷帝には街中であろうとも敵を打ち倒せと命じている。今回それでこの書状にて忠告をしようと考えた。民を失いたくなければ今すぐ避難させろ。ベルセング王国が戦いの舞台になるのは火を見るよりも明らかだからな。私は伝えたからな』との事です」 


 ルーエン国王は胃のあるあたりを押さえながら深いため息を吐く。 


「全く、ジャンバールの女王は無理を言う。それは忠告ではなく脅迫というのだ。それに、書状を書くならもっと相手の国を敬って書いて欲しいものだな。これではただ話しているのとなんも変わらんではないか。はぁ、また悩みの種が増えたな。おい!偵察部隊を呼べ!」


 男に向かってルーエンはそう叫ぶ。男は書状を手にしたまま、何処かへと走っていってしまった。


 それから数分が、黒装束を纏った数名が玉座の間に姿を現した。


「これより任務を下す。直ちに勇者一行、そして氷帝の居場所を突き止めろ。この者たちはすでにこの国内にいる。この国の命運がかかっている。直ちに行動に移せ!」


「「「「はっ!」」」」


 黒装束の者たちは、すぐさま玉座の間から姿を消した。


「頼んだぞ。全ては其方たちの働きによってこの国の運命が決まってしまうのだからな」


 ルーエン国王は右手で額を押さえて力なく玉座に身を任せるのだった。





『あぁ、痛い。痛いよぉ』


 ルーエン国王が頭を抱えているのと同時刻。ベルセング王国より南の森にて異変は起きていた。


 辺りは嫌なくらい静まり返っており、虫の音ひとつ聞こえてこない。ある一つの音を除いては。それは低く唸るような声で永遠と呟かれ続かれる。


『痛い、痛いよ。誰か助けて...』


 その日、南の森から獣は愚か、魔物も消えたという。消えた魔物たちはどこへ向かったのか、それとも全て本当に無に帰ったのか。その詳細を知るものもこの場には誰も存在しなかった。





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