幕間 すれ違い2

 勇者一行は魔族国ドゥルラムを出てからひたすら歩いていた。ただ、それも当てもなく歩いていたわけではない。そこはしっかりと歩いていた。そしてそれから数日後、目的地が見えてきた。


「あれが僕たちが目指していた国かい?」


 勇者ダランは隣を歩いている聖女チッタに問いかける。


「そうですね。あれが私たちの目指していた国、そして炎帝と魔王がいると考えられる街、ベルセング王国です」


 チッタは今見えている街壁を指差しながら三人を見る。三人は三人で各々気の引き締まった表情をしていた。


「まあ、おおよその予想はついてたわね。魔族国から帝国には行けないだろうし」


 魔導姫チェルシーら人差し指を立てながら誰にともなく言う。


「だな、うちは人間至上主義国家だから魔族が行っても追い返されるか、最悪の場合はその場で斬殺だ」


 拳聖ガルドが両拳をガシッと打ち付ける。


「そうだね、そう考えると魔族国から近くの国だとベルセング王国くらいしかないからね。今回は絞り込むのが楽でよかったよ」


「そうは言ってもここの街って相当でかいわよ。どうやって探すつもり?まさか、その足で歩いてばったり出会うまで探すなんてことはしないわよね?」


 チェルシーはキッと目を細めてダランを見る。その視線をダランは軽く肩をすくめていなす。


「僕だって何も作戦がないわけじゃない。と言っても、ものすごく単純なものなんだけどね」


「へぇ、無策よりはいくらかマシだわ」


「文句あるなら自分で作戦ぐらい立てたらどうだ?お前は魔導姫の称号を持っててこの中じゃ一番頭良さそうに見えるじゃねぇか」


 ガルドは自分の頭をトントンと人差し指で叩く。


「あぁ?何よ。私が楽をしてるって言いたいの?」


「実際そうだろ。何もしてねぇじゃねぇか」


「まあまあ、お二人とも。ここで言い争っても何も生まれませんよ。ほら、もう街もすぐ目の前なんですから、そんな怖い顔を検問の人や街の住民に見せるのですか?」


 チッタは2人にメッと注意する。それはまるで子供たちを叱りつける聖母のように。


「それにしてもこの辺は穴兎の巣穴が多いなぁ」


 ダランは辺りをキョロキョロ見回している。言われて三人も周囲をよく見始めた。


「確かにね。これはいくらなんでも多いような気がするわ」


「だな、確かにこれは多い。討伐するのはちと面倒だぞ」


 2人はうんざりした表情で言うが、聖女であるチッタは巣穴の一つを見つめて目を細める。


「確かにこれだけの数の巣穴があれば対処が少し難しそうですね。けれど、この巣穴のどれもに生命力を感じません」


「つまり、この数の穴兎を討伐したものがあるってことだね」


 チッタはコクリと頷く。


「そっか、これだけのことができるのはおそらく高ランクの冒険者よね。低ランクの冒険者は穴兎をまず地上に出すことすらままならないというし」


 チェルシーは近場に落ちていた小石を拾い、穴兎の巣穴へと投げ込む。


「さて、皆さん。やっと検問の場所につきました。ここからはいつも以上に気を引き締めましょう」


「そうだね、魔王と炎帝がこの街にいるからね。いつ戦闘になってもいいように準備はしておかなきゃね」


「えぇ、望むところよ!」


「へへっ、やっとつえぇやつと戦えるんだな。腕が鳴るぜ!」


 勇者一行は検問の場、ベルセング王国の東門へと足を運んでいった。同時刻、リアム一行は冒険者の依頼でその逆の西門から出て行ってしまったのだった。


 この両者が鉢合わせるまではもう少し時間がかかるようだ。





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