第十九話 洞窟へ

 俺たちは西門を出て、殺戮蜘蛛キラースパイダーがあるとされている洞窟へと向かっていた。だが、洞窟まで向かう道がもはや道とは呼べず、少々苦戦していた。


「ちょっと、何よこれ!なんで私たちは道無き道を進んでるのよ!」


「いや、そんなこと言われても。依頼なんだからしょうがないだろ」


「ん。冒険者をやってれば森の中を歩くなんていっぱいある」


「さっき冒険者登録したやつが何言ってんのよ。でも確かにそうね、穴兎みたいに平原に現れる方が珍しいってものよね」


 俺たちは手で目の前に生えている草をかき分けて前に前に進んでいく。上を見上げれば木々に覆われて空が見えない。だが、葉の隙間から光が刺しているのは少し幻想的だなとも思った。


「ん、また。氷槍アイスランス三連トリプル


 シルヴァが鬱陶しそうに手を前方に掲げると、勢いよく3つの氷の槍が射出された。射出された氷の槍は、寸分の狂いなく狼型の魔物を撃ち倒す。


「なぁ、さっきから思ったんだが少し魔物のの数が多くないか?」


 俺は向かってくる蜂型の魔物を炎でチリにしながら問いかける。


「確かにそうかも。少し異常な気がするわね」


 リルは迫り来る敵を槍で突きながら言う。その表情は涼しげで、まだまだ余裕がありそうだ。


「ん、ここまで魔物の出現が多いのは珍しい。たまに任務で森の中とかには入るけどここまで遭遇したことは一度もない」


 シルヴァも氷魔法で敵を裂き、時には氷漬けにしながら会話に参加する。


「これはギルドの受付嬢に言った方がいいか?」


「そうね、その方がいいんじゃないかしら?言わなかったら低級の冒険者が危ないし」


「ん、そう思う。依頼が終わったら報告する」


「だな」


 俺たちはそこから迫り来る敵を倒しながらどんどん深い森の中へと進んでいく。





 それからどれほどの時間が経っただろうか。最早体内時計もバグり始めた頃、俺たちはやっと目的地に到着した。


「やっと着いたわね。なんだか依頼をこなす前に疲れちゃったわ」


 リルは顔を手でパタパタと仰いでいる。


「まあでもあとは殺戮蜘蛛キラースパイダーを討伐するだけだし、なんの問題もないだろ。少し大きめな蜘蛛って言ってたしな」


 俺は目の前にある洞窟を見ながら言う。


 そう、俺たちの目の前には少し大きめな洞窟があった。高さは約五メートルほどで、横幅は大体四メートルくらい。三人並んで進んでも余裕がありそうだ。また、洞窟内からは少し冷たい風が外へと吹き抜けており、どうやらどこかから風が入ってきているようだ。


「とりあえず中に入る。それで早く依頼終わらせる」


 シルヴァは草をかき分けながら洞窟に向かっていく。その足は迷いなく、どんどん先に進んでしまう。


「おい、ちょっと待てよ!そんなに焦ることないだろ?」


 俺はシルヴァを小走りで追いかける。その後ろをリルもちょこちょこと付いて来る。その手には未だにリルの身長よりも長い黒い槍が握られていた。これはリルの魔法により生み出した武器だ。なんでもリルは武器と魔法を併用して戦うのが得意らしい。そういう奴らを師匠は魔法剣士と呼ぶとは言っていたが、リルは剣ではなく槍を使うし、そのところはよくわからない。


 俺とリルはシルヴァに追いつくことができ、三人で並んで洞窟内に入る。


 洞窟内はジメッとしていてとても居心地の良いものとは言い難かった。壁には水滴が付いており、ここがどれだけ湿っぽいかを物語っていた。


「うわ、これ髪の毛がベチャってなっちゃうじゃない」


 リルは自分の長い髪の毛に触れながら嫌そうな顔をする。


「冒険者やってればそのくらい普通だろ。みろよ、隣のシルヴァさんをさ。このなんとも思ってなさそうな表情を。少しは見習えばどうだ?」


「ん、これは元々。でも私は平気」


 シルヴァは表情に対しては元々と言ったが、リルとは違い湿っぽいのは平気だそうだ。


「あんたよく大丈夫ね。あぁ、もう!帰ったら絶対シャワー浴びるんだから!」


 リルは手で髪の毛を撫でる。


 シルヴァは先の見えない洞窟を見据えながら自分の綺麗な銀髪を少しつまむ。


「私がこの湿っぽいのが平気なのは自分の能力にも由来する。氷魔法を使うと嫌でも湿っぽくなっちゃうから」


「あぁ、確かにそうかもな。俺も自分の魔法のおかげで暑さには耐性があるな」


「あんたのそれはもはや耐性とかじゃないでしょ。誰が炎の海を平気な顔して歩けるのよ」


「でもリルにもそういう耐性的なのはあるんじゃないか?」


「まああるにはあるけど自慢にもならないわよ」


 リルは魔法で自分の手に持つ槍を少し小さめにする。


「ん?なんで槍を短くしたんだ?」


 リルは『あぁ、これね』と槍を少し上に掲げてから説明を始める。


「洞窟内で長い獲物を振り回すのはあまり得策とは言えないわ。できれば短めの武器、まあナイフとかね。それを使えればいいんだけど、私はこれが得意だから。だから短めの槍にしたのよ。そうすれば洞窟内でも幾らか機動力は上がるし、連携も取りやすいでしょ。本当は欲を言えばリアムやシルヴァみたいに武器なしが理想的なんだけどね」


「リルの強さなら別に武器なしでもいいだろ」


「ん、私も本来なら剣を使うけど敵が弱いから今はいらない」


 リルははぁっとため息を吐いてから呆れた表情で説明を再開する。


「何言ってるのよ、私だって別に武器なしでもどうってことないわよ。でも、何があるかわからないでしょ?常に万全の状態で依頼に挑む。それが一番なのよ」


 リルは器用にクルクルと槍を回す。


「確かにな、まあ俺は元々武器は使わないから変わらないけどさ」


 俺たちはそれからも雑談しながら洞窟内を意気揚々と突き進んでいったのだった。


 その頃、ギルドでは騒ぎが起こっていたのだが、今のリアムたちは知る由もなかった。





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