第十五話冒険者登録と例外につき...
「リアム、冒険者ギルドに行くわよ!」
俺が与えられた一室でゴロゴロと寛いでいると、リルが勢いよく扉を開けて入ってきた。
時刻を確認するとそろそろお昼を回ろうかといった感じだった。
俺は重たい体を起こしてリルを見る。リルはいつも着ていた外套は脱いでおり、いかにも動きやすそうな服装だった。用は冒険者ギルドに行く気満々なわけである。
「もうちょい休んでたいんだけど...」
俺は少し重たい瞼を擦りながら言う。そんな様子を見て、リルは深いため息を吐く。
「あんたねぇ、昨日もそんなこと言ってたでしょ。ルーエン国王はもう目を覚まして執務をしているわよ。私たちもそろそろ動かなきゃダメでしょ」
「そうは言ってもまだここに着いてから1日しか経ってないぞ?」
「私たちの手持ちのお金がないから仕事をしましょうって言ってるのよ!お金があるなら私だってぐうたらしてたいわよ」
リルは俺が腰掛けているベッドの方向へとズカズカと足を踏み入れてくる。そして、俺の手を掴むと強引に部屋から引きずり出した。
☆
そしてやってきました、冒険者ギルド!
結局気の乗らない俺を冒険者ギルドまでズルズルと引きずってリルと共に来た。てかその細腕のどこにこんな力があるんだよ。
俺はそんなことばかりを考えていた。
「ほら、着いたんだから自分で歩きなさい。ここまで運んであげたことを感謝しなさい!」
「運んだというよりはゴミを引きずってたって感じの方が言い方は正しいと思うんだが?」
俺の言葉を無視してリルは強い足取りで冒険者ギルドへと入ってしまった。俺はそんなリルについて行こうとしたが、少し足を止めた。
改めて外観を見てみると、なんというかザ•酒場!って感じの見た目をしていた。両開きの木製の扉は常に開け放たれており、そこから多くの冒険者が出入りしている。建物は見た感じ三階建といったところだろうか。外から中を見てみた限り、まっすぐ行けば受付にたどり着くらしい。
俺はとりあえずリルを追うため、中に入った。すると、ムワッと酒の匂いが鼻腔を突き抜けた。
俺は少し顔を顰めて、あたりを見回すと、入って右側に酒場があった。そこでは昼時だからか、多くの冒険者たちで賑わっていた。そして左側を見てみると、多くの紙の貼られた掲示板があった。そこには数人だが、冒険者が紙を剥がしては見て、剥がしては見てを繰り返していた。おそらく依頼が貼ってあるのだろう。そして前に顔を向けてみると、すでにリルが受付の人と話をしていた。
俺は少し小走りでリルの元へと駆けて行く。
「なんで!?私は魔王なのよ!?どうして最低ランクから始めなきゃ行けないのよ!」
俺が着くと、そんなリルの叫び声が聞こえてきた。受付の人、見た感じ獣人だろう。濃い緑色のエプロンのようなものを着て、頭の上にはホワイトブリムがついていた。そして、その後ろから二つの耳がぴょっこりと頭を覗かせていた。
そんな獣人の受付嬢は、リルの質問攻めに困り果てた顔をしていた。
「おかしいじゃない!私はお金を稼がなきゃいけないのに!」
「申し訳ありません、冒険者ギルドの規則ですので、そこはお守りください」
「おい、リル!受付の人が困っているだろ」
俺がそういうと、リルはハッとした表情になり、『取り乱したわ。ごめんなさい』と言って頭を下げた。
「いえいえ、大丈夫ですよ。それでお二人は冒険者登録ということでいいのですか?」
俺はコクリと一つ頷く。
「それではこの用紙に記入してください。はじめての登録の場合はお題は取りませんが、無くした際には5000ゴールドかかりますので、十分注意してくださいね」
俺は受付嬢から用紙を受け取り、上から下までざっと見る。
生年月日、名前、前衛or後衛、職業、戦闘スタイルなどが記載されていた。
まあ簡単なことばかりだったから、俺はスラスラと書き終えた。リルも隣で真剣な表情で書いていた。
俺とリルが書き終えるのを見た受付嬢は、すぐに紙を回収して『これを見て待っててくださいね』と言って後ろに下がっていった。
「これは冒険者ギルドのルールみたいなものか?」
「そうっぽいわね」
それから俺とリルは無言でそれに目を通して行く。
『 冒険者ギルドのルール 』
•冒険者ランクはS、A、B、C、D、Eの六段階。例外を除き、最初は基本的に最低ランクであるEランクから始めること。
(例外:騎士団、魔法師団の副団長以上の階級であること。→Aランクからのスタート
七帝であること。→Sランクからスタート)
•ランクアップはランクごとの規定数依頼を達成することにより可能。ただし、Bランク以上のランクアップには昇級試験が課せられる。
•依頼をパーティーで受ける場合、その中で1番下のランクから一つ上までのランクまでの依頼しか受けることができない。
(例:Aランク3人、Eランク1人→Dランクまでの依頼しか受けられない。)
•依頼失敗の場合はペナルティを受ける。ペナルティは主にその依頼に見合った罰金だが、失敗し続けるとランクの降格もある。
•パーティーは基本2人〜5人までで構成することが可能。使い魔はパーティーメンバーには含まれない。
•本ギルドでは、冒険者間のトラブルには一切関与することはない。また、依頼中にパーティーメンバーが亡くなってしまった場合も、当ギルドでは責任を負うことはない。
主なルールはこれらである。他に質問がある場合は、気軽に受付までお願いします。自分にあった依頼を受けることを心がけましょう。
俺は一通り目を通して思ったことがあった。
「あれ?俺Sランクからじゃね?」
リルも読み終えたのか、少し不服そうな顔をしていた。
「なんであんたが例外に入っていて、魔王が例外にないのよ。騎士団長如きに負ける魔王じゃないんだけど!」
俺の隣では未だにブーブーと文句を垂れていた。
「お待たせしました!こちらギルドカードになります!」
受付嬢は俺とリルに銅色の金属プレートを手渡してくる。だが、俺は言わねばいけないことがあった。
「えーっと、ルールが書いてある紙に書いてあったことって全て本当のことなんですよね?」
俺はまず自分が勘違いしていないことを確認する。
「そうですね、何か気になったことでもありましたか?」
「あぁ、ここなんだけど」
俺はそう言って1番上に書いてあるところを指さす。
「あぁ、ランクですね。例外を除けば皆様最低ランクのEランクからなのですが」
「そこなんですが、俺はその例外に含まれてるっぽいんだけど...」
「え?」
受付嬢はアホみたいにポカンと口を開けてこちらを見ている。
「これを見ればわかるか?」
俺は自分の手首についているブレスレットを見せる。
「え?それは...。実際外して見せてもらうことはできますか?」
「いや、これは引き継ぎの時しか外せないらしくて」
「わかりました、少々お待ちください!」
そう言って受付嬢はまた裏に引っ込んでしまった。
「ねぇ、なんで魔王は例外じゃないの?」
「うーん、魔王っていっても結局は一国の王だろ?王自身が強いなんてことそうそうないんじゃないか?」
リルは俺の言葉を聞いて納得がいったのか、何度も頷いている。
「確かに、私ほど強い王って普通いないわよね。そうね、私は王の中でも最強なのよ!それじゃあ仕方ないわね!」
「それでいいのかよ。てか王の中でも最強って、なんか聞いてて恥ずかしいな」
「世界一強くなるとかいってるあんたの方がよっぽど恥ずかしいわよ!」
俺とリルはあーだこーだと言い合いをしていると、受付嬢が帰ってきた。
「すみません、裏で確認をしていました。リアム様が炎帝であることを確認しました。よって、ランクはSランクからということでいいですか?」
「あぁ、それで構わない。てかどうやって確認を?」
受付嬢は『あぁ、そのことですか』と言って一冊の本を取り出した。
「この図鑑にはあらゆる魔道具について書かれています」
そう言ってペラペラとページをめくっていく。
「ほら、ここ。炎帝の証であるブレスレット。ここにその詳細が載っているのです。なんでも、七帝が付けているブレスレットは引き継ぎの際以外は外れないらしいので。それと、色合いとかを見て判断したって感じですかね」
なるほど、万が一魔道具を偽って冒険者登録しようとするのを防ぐという事か。
「それではこれをどうぞ」
そう言って受付嬢は別のプレートを手渡してくれた。それはシルバー色にラメを加えたような色合いで、リルのもらった銅のプレートよりも高級感があった。
「それでは登録も済みましたので、この後依頼を受けるもよし、また日を改めるのもよしということで、これから頑張ってください!」
俺は受付嬢に一礼すると、リルの手を引いて依頼の張り出されている掲示板に歩いていった。
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ここまで読んでいただがありがとうございました。また、☆、応援、フォロー、してくださった方々、誠にありがとうございます。作者や励みになっております。
今回補足ですが、この世界でのお金の価値は日本と同等の方と思ってくれて大丈夫です。
例)5000円→5000ゴールド
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