幕間 その頃勇者たちは...

 勇者一行はリアムたちと出会ってから数日後、目的の地へと着いていた。


「ここが魔族国ドゥルラムか」


 勇者ダランが魔族国の街並みを眺めながら呆然とつぶやく。なんというか無難に街って感じがする。それが最初にダランが思ったことだった。


 別に派手に栄えてるわけでもなく、それでいてど田舎というわけでもない。なんとも普通の街。それがダランだけでなく、勇者パーティーの魔族国に対する感想だった。


「とりあえず国に入ろうぜ?そうしなきゃ魔王に会うこともできないぞ?」


「そうね、とりあえずあそこで検問してるっぽいし、ちゃっちゃと中に入っちゃいましょ!」


 拳聖ガルドと魔導姫チェルシーが早く街に入りたいと急かしてくる。


「待ってください。本当に魔王を討伐するのですか?」


 聖女チッタはみんなの顔を見回しながら問いかけてくる。


「それは...。そうしなきゃ僕たちだっていけないんだ。僕たちに魔王を倒す以外の選択肢なんてないんだよ」


「だな、ほかに提案があるなら聞かせてくれよ、チッタ」


 全員の視線がチッタに集まる。それを受けてもなおチッタは狼狽えた様子はなく、ただ真っ直ぐ三人を見つめている。


「私はやはり納得いきません。魔王といっても何も悪いことはしていないのです。それなのにジャンバール女王の私的なことで討伐するのはおかしいと思います!」


「そうは言ってもそうするしかないじゃない。ほかにやり方があるなら私もそうしたいし」


 4人は一斉に黙り込んでしまう。


 実際この依頼がおかしいことは4人もわかっている。わかってはいるのだが、やはり後ろ盾になってくれているジャンバール女王の依頼を断るという選択肢はないのだ。


「とりあえず街に入りましょ。話はそこからでもいいんじゃない?」


 チェルシーのこの発言を合図に、4人は検問をしている場所へと向かっていった。





 それから無事に検問も終わり、今は街を4人でゆっくりと歩いていた。


「なぁ、やっぱ魔王に会ってから決めないか?それからどうするか決めれば良くね?」


 ガルドは頭の後ろで両手を組みながらみんなに言う。


「そうだね、それでもいいかもしれない。実際悪さをしてないからといっても、もしかしたら裏では何かやってるかもしれない」


 ダランは一呼吸置いてから話を続ける。


「それじゃあ、魔王のことを実際に見てからどうするか決めるってことでもいい?」


 ダランの言葉に三人は同時に頷いた。


「それじゃあ城を目指そうか」


 勇者一行は魔王がいるとされている城に向かって歩いていった。





「な!?魔王がいない?それはどう言うことだ!」


 ダランは目の前の門兵に勢いよく詰め寄って問いかける。いや、問いかけるというよりも脅迫に近いかもしれない。それほど今の勇者は鬼気迫る表情をしていると思う。


「そ、それが、数日前から魔王様がどこかに行ってしまって...。書き置きがあっただけで行き先は分からなくて」


「それにはなんて?」


「『政務に疲れたから少し遊んでくる。多分50年くらい経ったら帰ってくる。その間この国のことは頼んだぞ』と書き置きがありました」


「え?50年って少しなの?」


 チェルシーのその疑問に勇者一行はうんうんと頷いている。


「って、別に50年の所はいいんだよ。問題は魔王がどこに行ってしまったかだよ。せめて誰と行ったとか、向かう場所なんかが分かるといいんだけど」


 ダランがそう呟くと、門兵はハッとしてから口を開く。


「そういえば魔王様がいなくなったのと同時に、炎帝様もいなくなったと報告が上がっていましたね」


「え?炎帝?」


 それ話聞いた瞬間、4人は一斉に数日前のことを思い出していた。


「いや、いやいやいや。まさか、な」


「そうだよな、まさかそんなこと...」


「えぇ、もしかして...」


「はい、おそらくは...」


 そこで4人は一旦言葉を区切る、門兵は何が何だか分からずに、頭上にハテナマークを大量に浮かべていた。


「「「「やっぱり僕(俺)(私)たち魔王に会ってるじゃん!」」」」


 4人の言葉は思いの外大きく、辺りにこだました。門兵は急に大きな声を出されて驚き、尻餅をついてしまった。


「こうしちゃいられないですね。早くあの2人を追いかけましょう」


 チッタの言葉にみんなが頷き、駆け出してしまった。


「一体なんだったんだ?」


 門兵はそんな様子をぽかんと眺めていたのだった。





「そう、炎帝と魔王は一緒にいるのね」


 氷帝シルヴァは白銀の髪を風に靡かせながら魔王城の屋根から勇者一行を見つめていた。


「勇者一行には悪いけど、一足先に向かう」


 そう言ってシルヴァは屋根から飛び降りる。常人なら大怪我では済まないのだが、シルヴァは氷帝。常人の域を遥かに超えているのだ。


 シルヴァは空中で短く詠唱すると、背中から氷の翼が生えた。それによりシルヴァは落下するのではなく、グングンと高度を上げていき、炎帝と魔王がいるであろう方向へと向かっていったのだった。





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