第十四話 ルーエン国王と初対面
俺の目の前には立派な髭を携えた男の人が何度もため息を吐いていた。見た目だけでもこの人が偉いってわかるくらい派手な格好をしていた。赤のマントのようなものに、黒塗りのズボン。そして頭の上には黄金に輝き、宝石が散りばめられた王冠をかぶっていた。
派手な男は俺とリルに向き直ると、目を細めて問いかけてきた。
「それで、何故城の門を破壊したのだ?何かそれなりの理由があったのだろう?」
派手な男は俺とリルを交互に見ている。どうやらどちらが答えるのか気になって仕方ないらしい。
俺はピシッとまるで模範のような挙手をする。
「なんだ?やはり理由があったのか?」
「いや、理由もあるんだけどその前に一つ質問いいか?」
俺は理由を述べる前にどうしても聞かなきゃいけないことがあった。
派手な男は仕方ないといった感じで渋々頷く。
「その頭の上のやつ邪魔じゃないの?なんか妙に派手だしダサいし重そうだし。それしてなんかいいことある?」
俺はとりあえず思ったことを片っ端から言ってみた。すると、周りにいた人たちが急にざわめき始める。
派手な男はというと、顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた。
「お前は、お前は門を破壊するだけじゃなく、私の自慢の王冠までも愚弄するかぁぁぁぁぁ!」
俺はそんな男の叫びをBGMに、こうなってしまった経緯について思い返していた。
☆
「ねぇ、あんたわかってる?人様の国の城門を破壊したのよ?」
俺に手を引かれているリルは、半目でこちらを見ている。
「いや、だってここに入るには門兵も言ってたが、自分の手で道を切り開かなければいけなかったんだ」
「それはそういう意味じゃないでしょ!やっぱあんたはバカね。いいえ、最早あんたのことをバカって呼ぶとバカっていう文字に失礼だわ。もうあんたはリアムね!」
「なんで俺の名前が悪い言葉みたいに言ってんだよ。てかバカっていう言葉に失礼ってどういうことだよ!」
ふんっとリルはそっぽを向いてしまった。
だから俺が何をしたっていうんだよ。
俺はリルの手を引きながら改めて周りを見てみる。雰囲気はこちらの方が気持ち明るい気がするが、ほとんど魔族の国の宿屋と作りはたいして変わらないように思えた。壁には絵画が飾られ、高価な壺には色鮮やかな花が何本か入っていた。そして至る所にメイド服を着た使用人が多くいた。
俺はそんなメイドたちにすれ違うなり会釈して歩いて行く。メイドたちは俺たちに会釈を返してくれるが、頭上にハテナマークが大量に量産されていた。おそらく見たことない人がいることで戸惑っているのだろう。だが、関係ない。俺たちは客なのだから堂々としてればいい。
そうして歩いていると、一段と豪華な扉の前にたどり着いた。なんかリルがいつもいた部屋みたいだな。
「ちょ、あんたこれ。この城の玉座の間じゃない?」
「は?玉座?なわけねぇじゃん!ここ宿屋だぜ?アホ言ってんじゃないよ」
「アホはあんたでしょ!」
「よーし、開けるぜ!」
「どうなっても知らないからね!」
俺はリルの言葉を無視して扉に手をかけ、前に押して開く。すると、扉はゴゴゴゴゴッと大きな音を立てて開いた。リルのところはギギギギッて感じだったけど、こっちは少し重い音がする。実際扉もリルのところに比べて少しだけ重たい気がした。
「うわぁ、ここも豪華だなぁ」
「やっぱりそうじゃない。ここ玉座の間よ」
「宿屋の受付のことって玉座の間って言うのか?」
「なわけないじゃない!普通に玉座の間よ!」
「へぇー、普通にねー」
「あんた聞いてないでしょ!?」
俺はとりあえずうるさいリルを無視してズカズカと中に足を踏み入れる。歩くたびにカッカッと子気味いい音が室内に響く。それが少し面白くてわざと踵を床に擦り付け、音を鳴らす。リルは俺の後ろを俯き気味についてくる。まるで親鳥についてくる雛鳥のようだ。
「お前は何者だ?まさか侵入者か?」
椅子に座った派手な男がこちらを見下ろしながら問いかけてくる。
「あ?宿屋の店主ってみんな高いとこらが好きなのか?まるで考え方が猿みたいじゃねぇか」
俺は自分の言ったことが少し面白くてくすくすと笑ってしまう。
「お前舐めてるのか?侵入者にしては少し違和感があるな?ここへ何しに来た?」
「そんなの決まってるだろ?」
俺は人差し指を立てて問いに答える。
「ここに泊まりに来た!それも無償で!」
そして話は冒頭に戻る。
☆
「私を愚弄したことについては許そう。私は寛大だからな。それで、お前たちは何者だ?」
俺とリルを交互に見て問いかけてくる。
「まずは人に名前を書くときは自分から答えるって習わなかったか?俺たちのことが知りたければまずは自分のことについて話しやがれ!」
俺の言葉に一瞬『うっ』と声を漏らすが、ゴホンッと咳払いをしてから話し始める。
「私はこの国の王、ルーエン•ベルセングだ!私は名乗ったぞ。次はお前たちだ」
ん?こいつも少し頭おかしいのか?自分を王とか言ってて恥ずかしくないのか?まあいいか。一応名前は聞けたし。
俺はリルを見る。すると、顎で俺を指してくる。おそらく俺から自己紹介しろって言っているのだろう。しゃべれるならしゃべればいいのに。
俺は親指で自分を指差しながら堂々と言い放つ。
「俺の名はリアム!ちなみに炎帝」
「ん?今なんて?」
「え?リアムって言ったんだけど」
「その後だ!」
俺は自分の発言を思い出す。
「あぁ、炎帝ってところ?」
「そうだ!お前の名前なんて正直どうだっていい!それは本当なのか?」
なんかサラッと酷いこと言われた気がするんだが、まあ今はいいか。
「これを見せればわかるか?」
俺は自分の手首に付いているブレスレットを翳す。
「まさか、こんなにも早く炎帝の後継者に会う羽目になるなんてな。それに、頭のおかしな奴と来た。もうどうしようもないな...」
なんかルーエンが1人で頭を抱えている。
「おい、次はリルの番だぞ」
「これ、今私の自己紹介して大丈夫?なんか心に多大なダメージを負っているっぽいけど」
「まぁ、大丈夫だろ。俺早く休みたいし早く終わらせちゃってよ」
リルは『しょうがないわね』と一言言ってからルーエンに向き直る。
「ベルセング王国のルーエン国王。改めて自己紹介させていただくわ」
そう言ってリルは両手を腰に当て、目一杯胸を反る。
「私の名前はリルリラ•ドゥルラムよ!一応魔族の国、ドゥルラムで王をやっているわ」
「は?ドゥルラム?王?」
ルーエンはリルの自己紹介を聞いてますます混乱している。もう見ていて心配になるレベルだ。
「あのぉ、ルーエンのおっさん。大丈夫か?」
俺は少し心配になり、手を振ってみる。だが、返事がない。ただの屍のようだ。
それから数秒すると、ハッとしてルーエンはあたりを見回している。
「私は夢でも見ているのか?炎帝の後継者を名乗る者と魔王を名乗るものがこの城に?いやいや、まさかそんなことは...」
ルーエンは俺とリルに視線を向けると、今度ははっきりと気絶してしまった。
「なぁ、リル。あの人大丈夫か?」
「それは、なんとも言えないわね。すごく申し訳ない気分だわ」
俺とリルは顔を見合わせてどうしようかと困っていた。
その後、ルーエンは医務室に連れて行かれ、俺たちは余っている部屋に泊めてもらえることになった。
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