第十三話 道を切り開け!

 俺たちは街に入った瞬間、その光景に足を止めた。


「うっわぁ、すげぇ人の数。魔族の国とは大違いだな」


「うっさいわよ。悪かったわね、うちの国が田舎で!」


「別にそうは言ってないだろ?機嫌なおせよ」


 リルはそっぽを向いたままこちらを向いてくれない。なんとかして機嫌を直そうとしたが、ふと周りの人たちから視線を感じた。


「なぁ、リル。俺たちめちゃくちゃ見られてないか?」


 俺がそういうとリルも周りを確認し始めた。


「そうかも、多分魔族がいるのが珍しいんじゃない?」


「そうなのか?てっきり炎帝が来たから見られてるものだと思ってた」


 リルは歩き始めなが首を横に振る。


「そんなわけないじゃない。一般人は炎帝が引き継がれたなんてこと知らないわ。それに、そのブレスレットで炎帝ってことがわかるけど、どちらにせよ一般人からしてみれば少し綺麗なアクセサリーくらいにしか見えないわ」


「ほぉー、てことは俺も何かやらかさなきゃ世界一の男にはなれないのか」


「やらかす前提なのやめなさい。それは世界一のバカがやることよ。最強を目指したいなら人助けをしなさい」


 俺は気の抜けた返事を返す。その間も周りは人が行き来しており、俺たちはほぼ密着するような状態で歩いている。


「じゃあなんで魔族が注目を集めるんだ?周りを見ても人族以外の奴らも多くいるぞ?ほら、あそこにエルフがいるし、向こうには獣人がいる」


 俺は人族ではない人たちを見つけては一人一人指差していく。


「まあそうね。でも今指差した中に魔族がいたかしら?私が見た中ではいなかったわ。てか魔王が堂々と街中を歩いてるのよ?魔族が目にすれば混乱でぶっ倒れるわよ」


「いや、宿屋の店主魔王が歩いているのを見ただけでぶっ倒れる魔族とか聞いたことないんだが?てか早く魔族がいない理由を教えろよ。気になるだろ?」


 俺はチラッと横目でリルを見る。リルは前を向いて歩いており、こちらを一切見ていない。


「簡単な話よ。魔族は交流はあるけど、自分から国を出ることなんてなかなかないのよ。現に私も今回初めて国を出たわ」


「ふーん、用は魔族は種族全体がヒキニートってわけだな」


「人聞きの悪い言い方しないでよ!ただ自国を愛しすぎて外に出ないだけよ。決してニートなんかじゃないんだからね!」


 リルは顔を真っ赤にしてぷんぷんと怒っている。俺はそんなリルの頬を指先で突きながら謝るが、その行動が逆に刺激して、頭を思い切りぶん殴られた。理不尽にも程がある。

そうして雑談をしながらまっすぐ歩いていると、リルが何かに気が付いたのか声を上げた。


「見てみて、あそこに宿屋があるわ!きっと検問のおじさんはあそこのことを言ってるのよ」


 俺はリルの指差す方向を見ると、そこには二階建ての少し古びた建物があった。


「確かに看板があるけど多分違うぞ?」


「その根拠は?」


 リルは一度足を止め、こちらを見上げてくる。リルとは身長差がちょうど頭一個分くらい違うので、リルが俺を見るときはどうしても見上げるようになってしまうのだ。


 俺はリルに向かってニヤリとする。


「俺について来な。場所はわかってるからさ。多分今見えてるところだと思うぞ?」


「そう、私とあなたじゃ身長差があるからね。私の高さからだと周りの人たちが邪魔でよく見えないのよ。とりあえず案内よろしくね」


「おう!任せろ!」


 そう言って俺はリルの手を引いて目的地であろう場所まで向かっていった。





 それから数分で、俺たちは宿屋の前に着いたのだが、遠くから見たときは少し豪華だなぁ程度にしか感じなかったが、今は違う。リルなんて到着した瞬間から口を大きく広げて顔を青白く染めていた。かくいう俺も、『すげぇ豪華だな。ここで合ってんのか?』なんて口にしてしまっている。


 とりあえず俺はここで合っているのか、近場の人に聞くことにする。ちょうど大きな門の前に、門兵が2人立っていた。


 俺はその片方にここがどこなのか尋ねることにした。リルも連れて行こうとそちらを見たが、いまだに固まった状態で動けそうになかったので置いていくことにする。


「すまん、ここがどこなのか教えてくれないか?」


 俺は目の前にあるめちゃくちゃ豪華な建物を指さして門兵に尋ねる。すると、門兵は『あぁ、迷子かな?』と言ってからここがどこなのか教えてくれた。


「君が今見てるこの大きな建物はこの国の象徴でもある、ベルセング城だよ。いやぁ、いつ見ても圧倒されてしまうね」


 門兵はそう言うと、あっはっは!と笑っていた。


「なるほど、てことは俺は間違っていなかったってことだよな?」


「ん?今何か言ったかい?」


「いや、何も言ってないぞ。助かったと言ったんだ。それと、ここに入るにはその門から入ればいいのか?」


 俺がそう言うと、門兵は首を傾げた。


「ん?もしかして王城に呼ばれているのかい?」


「いや、呼ばれてはないんだ。それで、どうすればこの中に入ることができるんだ?」


 俺の問いに門兵は頭を悩ませる。


「うーん、そうだなぁ。許可証がないとこの王城には立ち入ることができないんだよ。だからまぁ功績をあげて表彰されたり、有名になって王城関係者に依頼をもらわないと無理かなぁ。ま、用は頑張って自分で道を切り開いていけよってことさ!」


 門兵はグッとサムズアップを送って来た。


「そうか、今の言葉でどうすればいいかわかった。ありがとな」


 俺は頭を下げてからリルの元に戻っていった。


「おい、リル。ぼーっとしてないで行くぞ!ここへの入り方がわかった。」


 俺が声をかけると、ハッとしてから意識を取り戻した。


「わ、私は一体...。って、ここベルセング城じゃない!」


「あぁ、なんだ。リルは既に知っていたのか。そうなんだよ、ここが俺が向かっていた場所なんだ」


「は?私たちは宿屋に向かってたんじゃ...。って、あんたまさか!?」


 リルがなんかわめいてるけど、とりあえず無視だ。長旅で疲れているから早く休みたい。


「門兵も自分の道は自分で切り拓けって言ってたよな。それならそうさせてもらうまでだ!」


 俺は門の前に立つと右手を門に向かって掲げる。門兵たちからは『君?何をやっている?』と問いかけられたが、流石に今は手が離せない。


 俺は右手に魔力を集中させていく。


「『紅炎展開:炎龍』その門を喰らい尽くせ!」


 俺が指示を出すと、右手から赤い龍が門に向かって一直線に飛んで行く。そして、ドガンッッッッ!!!と、ド派手な音を立てて門を破壊していく。そんな光景を呆然と見つめている門兵2人とリル。


 俺は門が完全に破壊できたことを確認すると、先程色々教えてくれた門兵にグッとサムズアップをする。


 すると、門兵は肩を震わせ始めた。なんだ?俺がしっかり教え通りに道を切り開いたことが嬉しすぎて泣いているのか?


 俺は門兵の様子を伺っていると、門兵2人が大声で叫び始めた。


「て、敵襲だぁぁぁ!!」


「おい、早く応援を呼べ!!逆賊を捕らえるぞ!」


「え、なんで?」


 俺は訳わからずに、リルの方を見る。だが、リルは何故か無言で涙を流していた。

俺はそんなリルに近づき、肩をポンッと叩く。


「なぁ、そんなに人の成長を喜ばなくてもいいぞ?さぁ、疲れたことだし早く宿屋王城に行こう!」


「さぁ行こう!じゃないわよ、このバカァァァァァ!!!」


 え、なんで?


 俺は理不尽にも怒られたことに首を傾げる。


 第三者がこの場を見れば、誰もが『混沌カオス状態』と答えることだろう。


 俺はリルの手を引きながら、やけに豪華な宿屋へと足を踏み入れたのだった。





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