第十二話 いざ入国!
勇者一行と出会ってから数日が経過した。その間も穏やかな時間が流れ、とても快適な旅が出来たと言えるだろう。途中小汚い一団に『有り金全部置いて行け!』なんて言われたが、流石にそんなことはできない。だから俺は『何か売ってくれるなら買ってやる』と言ったのだが、これがいけなかったのか相手は束になって切りかかってきた。まあそんな愚か者どもは、俺とリルの2人で成敗してやった。両手両足をへし折り、縄でその辺の木にくくりつけておいた。今頃魔物や野犬にでも食べられている頃だろう。人の話を聞かないからこうなるんだ。まさに自業自得と言えるだろう。
そんなわけで俺たちは野宿しながらも確実に前進していたのだが、遠くに大きな街壁が見えてきた。
「やっと到着ね。ほんと、一時はどうなることかと思ったわ」
リルは歩みを止めぬまま、両手を上げてやれやれと首を振る。
「そうは言ってるが、なんやかんやでリルもこの旅を楽しんでただろ?特にあの小汚い一団に絡まれた時なんて笑いながらいたぶってたじゃねぇか」
「え?いや、そんなことないわ。少し怖くて悲鳴をあげていただけよ」
「誰が『我は魔王!ものどもひれ伏すがいい!』なんて悲鳴をあげる奴がいるんだよ」
「ぐぬっ!」
リルは顔を赤く染めてプルプル震えている。
「そ、そんなことよりもやっと街が見えてきたわね!やー、長かった長かった!」
「露骨に話を逸らそうとしたな?まあいいけどさ」
俺は遠くに見える街壁を眺める。
グレーの頑丈な壁がぐるっと囲んでいる。これはおそらく魔物の侵入を防ぐためのものだろう。高さもかなり高い。大体二十メートルくらいはあるのではないだろうか?それでいて壁の厚さもなかなか分厚そうに見える。
それを見ていて、思ったことが多々あった。
「そういえばリルの国には街壁はなかったよな?それって大丈夫なのか?」
俺は歩きながらリルを見る。
「大丈夫か大丈夫じゃないかでいえば大丈夫よ。人族と違って魔族一人一人がそれなりに強いのよ。人族の場合は戦えない人がいるからあんなものを作っているけれど、私たちはそうじゃないもの。魔物が一匹や二匹侵入してきたくらいじゃ騒ぎにもならないわ」
「確かにな。魔族って人族に比べると魔力の保有量が多いもんな」
俺は再び前を向いく。
それから数十分くらい歩いたところで人だかりが見えてきた。
「お、なんか人が集まってるな。祭りでもやってるのか?」
俺は人混みを指差しながらリルに問う。
「あのねぇ、あれは祭りなんかじゃないわ。検問よ」
リルは深いため息を吐きながら言う。
「検問?」
俺はよくわからない単語が出てきて首を傾げる。すると、リルはギョッと目を見開いてこちらをガン見してくる。
「あんた正気?うちの国にもあったはずなんだけど。1番最初どうやって私の国に入国したのよ」
俺はその時のことを思い出す。
「なんか普通に通してくれたぞ?」
「は?あいつら何やってるのよ。帰ったら絶対しごいてやるわ」
リルは魔族の国があると思われる方向を見ながら睨む。
「で、検問ってのは?」
俺は険しい表情で未だに睨んでいるリルに問いかける。
「それで検問っていうのはね、入国していいかどうか判断する場所よ。そこで何か危険物を持っていたりすると入国できないわ」
「ほぇー、そうなんだなー」
「あんた真面目に聞きなさいよ!あんたのためを思って説明してあげてるのよ?」
「別に大丈夫だろ。危険物とか持ってないし。それに、引っかかってもお金渡しとけば入れてもらえるんじゃね?」
「その考えが危ないのよ!危険物以前の問題よ!何サラッと賄賂渡そうとしてるのよ。そんなことしたら入国じゃなくて牢獄に放り込まれるわよ!」
リルは必死に俺に対してなんか言っているが、用は変なことをしなければいいんだろう。俺はとりあえず頷く。師匠からは困ったらとりあえず頷いておけと言われている。
リルはまた深いため息を吐いてから『もういやだ、疲れる』と言って前を向いて歩いていく。
それから少し歩くと、検問している場所まで辿りついた。
「ねぇ、いい?余計なことはしないでよ?対応は全部私がやるから!」
俺は鬼気迫るその表情にコクコクと激しく頷いた。
そして列はどんどん進んでいき、俺たちの番になった。
「ほい、じゃあ次の人」
髭面の大男がやる気なさそうな声音でそう言った。
「ほぅ、見ない顔だな。魔族の嬢ちゃんに人族の青年か。それで、我が国にどのような要件で?」
検問のおっちゃんは机に肘をつきながら聞いてくる。
「私たち、旅をしているの。それでこの場にとりあえず
「なるほど、金銭稼ぎってのは具体的には?」
「冒険者になって路銀を稼ごうかと」
おっちゃんは紙にサラサラと書いていく。
「了解。この国に来たことは?」
「ないわ、初めてよ」
「へぇ、リルはないのか」
「あんたは黙ってなさい!」
俺はそう言われて口を固く閉ざす。
「まあ大体わかった。危険物がないかとりあえず体を調べさせてもらう」
おっちゃんはそれだけ言うと、棒の先に板が張り付いたものを持ってきた。
「これを体の近くに翳していく。危険物があると音が鳴るんだ」
おっちゃは『それじゃあ始めるぜ』と言ってから俺とリルの体に棒をかざし始めた。
それから数秒後、『なんも問題なしっと』と言って紙に記入した。
「よし、これで一通りは終わりだ。他に何か気になることはないか?なければそのまま入国していいぞ」
リルが小さく手を挙げた。
「お、なんだい嬢ちゃん」
「宿屋はどこがおすすめ?多少値が張っても構わないわ」
「お、それなら入国してからここの道をまっすぐ行ったところにあるぜ。看板があるからすぐにわかると思う」
「えぇ、ありがとう。それじゃあ私たちは行くわね」
俺たちはおっちゃんに礼を言ってから入国した。
目指すは宿屋。俺たちは人がごった返す街へと足を踏み入れたのだった。
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