第十一話 すれ違い
俺たちは長い長い道を歩き続けていた。途中で魔物に襲われたりしたが、全部適当に相手をして片付けた。何日か野宿をして、そしてあと半分で目的地の国に到着するというところで、前から煌びやかな一団がこちらに歩いてきているのが遠目から見えた。
「なぁ、リル。あれは貴族かなにかか?」
俺が眉を顰めながらその一段を見ていると、リルはまるで信じられないといった表情で驚いていた。
「あれは貴族なんかじゃないわ。勇者パーティーよ」
「勇者?あの邪神とかの尖兵と戦うとか言われてるあれか?」
リルは歩みを止めないまま頷く。
「そうね、それで大体合っているわ。でもおかしいわね、勇者パーティーは基本ジャンバール周辺で活動しているから、この辺で活動はしていないはず」
「勇者もたまには気分転換が必要なんだろ」
「そうだといいけど」
俺とリルは前から近づいてくる勇者パーティーを見ながら進む。すると、向こうも気が付いたのか、先頭を歩いていた煌びやかな鎧を着た青年がこちらに手を振ってきた。俺は周りを見てから小さく振り返す。もしこれで俺たちじゃない相手に手を振っていたら恥ずかしいからな。
俺が手を振り返すと、青年はにこりと笑った。とても人当たりの良さそうな笑みだ。とてもじゃないが、俺には真似できそうにない。
そして、勇者パーティーが俺たちのすぐそこまで近づいてくると、足を止めた。それを見てから俺とリルも足を止める。
構図としては、俺とリルが横に並び、その前に4人が横一列に並んでいるという感じだ。
「やぁ、初めまして、一応勇者をやらせてもらっているダランだ。よろしくね」
そう言ってニコリとまた笑みを浮かべて手を差し出してくる。俺もそれに応えるべく、手を握り返す。
「俺はリアム、それとこっちがリルだ。よろしくな、勇者」
「うん、よろしくね」
俺と勇者は熱い握手を交わし合う。だが、その横にいた気の強そうな女がワナワナと震え始めた。こいつ大丈夫か?病気持ちなのだろうか?そう思ってそちらに目を向けていると、その女が指をさしてきた。
「ダラン!こいつ、いえ、この人七帝よ!」
「え?」
ダランは一度その女を見た後、改めて俺のことを見てくる。
「それは本当なのかい?」
「まぁそうだけど、わざわざ言う必要ないだろう?」
そう言うと、はははっと乾いた笑いを浮かべた。
「リアム、そう言うことはあらかじめ言っておくことだよ。出なきゃ後で知った時、相手が驚いてしまうだろう?現に僕はものすごく驚いているんだよ」
「それは悪かったな」
俺は一言そう言ってから頭を下げる。
「ほぉ、七帝か。ちっと相手して貰いたいぜ」
「やめなさい、ガルド。勇者パーティーともあろうものたちが易々と喧嘩を売ってはなりません」
スキンヘッドの男が拳をガシッと突き合わせて前に出てきた。だが、それを白い修道服を着た綺麗な女性に静止させられる。
「俺の名はガルドだ。拳聖の称号を持っている」
「私の名前はチッタです。聖女の称号を持っております」
「そうか、よろしくな」
俺は軽く反応してからさっきから反応のないリルをみる。
「なぁ、リル。どうかしたのか?さっきから黙ってるけど」
リルは俺が声をかけるとビクッと肩を振るわせる。
「別に何もないわ」
そう言ってリルは目深に被っていた外套を外す。すると、今まで見えたなかった羊のような立派な巻ツノが見える。
「な!?魔族!?」
勇者たちは一歩下がって身構える。
「おいおいどうした?魔族がそんなに珍しいか?」
俺がそう問いかけると、冷静さを取り戻したのか、勇者たちはまた自然体に戻る。
「すまない、今ちょっと依頼を受けていてね。それがとある魔族を探すという依頼でね、その探している人と特徴が結構かぶっていたものでね」
「そうか、そんな偶然もあるのだな」
俺は心底驚いたような表情をする。
「まあ僕たちの探している人はとてもこの辺にいるような人じゃないから多分人違いだろうね。ごめんね、取り乱して」
「いや、構わない。それで、そろそろ俺たちも移動したいのだがいいか?」
そう言うと、勇者はアタフタとしてから頭を下げた。
「すまない!引き止めて悪かったね」
「いや、構わない。それじゃ行くとするか、リル」
俺がリルに向き直って合図する。
「そうね、いきましょうか。それじゃあ勇者パーティーの皆さん、ごきげんよう」
そう言って俺たちは勇者たちを置いて歩き始めた。
それから少ししてからなんとなく口を開く。
「そういえばさっきのごきげんようってのはなんだ?リルがいうとめちゃくちゃ違和感あるな」
俺は先程の一幕を思い出しながら笑う。
「な、何がおかしいのよ!高貴な私がああやって挨拶するのは当然でしょ!?」
リルは頬をぷくーっと膨らませて怒っている。
俺は空を見上げて思う。この旅も順調に進んでいきそうなぁと。だが、この時から運命の歯車が回り始めたといってもいい。そのことに、リアムとリル、そして勇者たちは気がつくことがなかった。
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