第二章 帝国からの刺客と魔物たちの行進
第十話 行き先は実力至上主義国家
とりあえず俺とリルは近場の街を目指して歩くことにしたのだが、未だにどこに行くのか決まっていなかった。近場の街なら早く着くのではないか?と思うかもしれない。だが、その近場の街というのが何通りか存在しているのだ。それで俺とリルはどこに行くのか迷っていた。
「うーん、こうして地図を見てみると魔族の国ってのは色々な国に囲まれているんだな」
「そうね、だから物資の流入なんかも盛んだし、活気のある街になっているわ。これも私の高い政治力によって為されているのよ!」
えっへんと胸を張るリルを俺は軽くあしらう。
「とりあえずどこに向かうか決めようか。ここから一番近いのは僅かにだが、ジャンバール帝国だな。次いでベルセング王国っと」
「そうね。でもジャンバール帝国は絶対なし!それは譲れないわ」
リルは顔の前で大きくバッテンを作る。
「それはまたなんでなんだ?近いし、どうやらこの国は大きいようだぞ?ここに行けば困ることなんてないんじゃないか?」
リルはやれやれと首を振りながら深いため息を吐く。
「確かに人族であるリアムには生活するにはいい環境かもしれないわ。でもね、魔族である私からしてみれば居心地は最悪。いえ、地獄ね。ここは人間至上主義国家なの。人族以外は受け付けないって有名よ」
「またなんでそんなに人族にこだわるんだ?みんな同じだろ。見た目はまあ違うけどさ」
「そう言うのは心の広い、じゃなくて馬鹿なあんたくらいよ。どうやらジャンバールの女王が他種族を毛嫌いしているようなのよ。なんでも、『薄汚れた血の混じった生き物など気色が悪い!』だそうよ」
「またひどい話だな。その女王は器が狭いのか?てか人族にこだわる理由がくだらなすぎるな」
リルは大きく頷く。それこそ、首が取れてしまうんじゃないかと錯覚するくらい。
「そうなのよね、って、その話はいいのよ。それよりどこ行くかなんだけど、私はここがいいわ」
そう言ってリルは俺が広げている地図の一角を指す。
「ベルセング王国?」
「えぇ、そうよ!」
俺はマジマジと地図を凝視する。
ジャンバールよりは狭いが、俺たちからしてみれば立地としてはまあ良さそうだ。周りが森で囲まれている。それでもやっぱり地図を見ただけではよくわからない。
俺は理由をリルに聞く。
「それはまあ色々あるけどここが実力至上主義国だからかしら?だからここには冒険者ギルドが複数存在している。大体強者を目指す冒険者はここを拠点にしていることが多いわ」
「へぇ、てことは俺たちも冒険者になれるのか?」
「なれるのか、じゃないのよ。なるのよ!じゃなきゃお金が稼げないじゃない」
俺は確かにそうだと頷く。だが、金を消費するのは多分あまりないように思う。
「まあお金を稼ぐのはいいとして、衣食住に関してはまた大きな宿屋にでも泊まればいいんじゃないか?」
そう言うと、リルはこいつ正気か?といった顔で見てくる。なんだか少し傷つくな。
「ねぇ、まさかとは思うけどまた王城を拠点にするつもり?」
「は?王城?また?何を言ってるんだ?そんなことしないっての。俺は魔族の国同様、大きめの宿屋に泊まろうとしてるんだよ。リル、頭大丈夫か?」
「頭おかしいのはあんたの方でしょ!」
俺は何がおかしいのか首をかしげる。それを見てリルは諦めたのか、首を左右に振ってから俺を置いて歩き始めてしまう。
「ほら、行き先は決まったんだから早く行くわよ!」
そう言って漆黒の外套を翻し、リルは先を行く。
「おい、ちょっと待てよ!行き先ってベルセング王国か?」
「そうって言ってるでしょ!」
俺はリルの横まで慌てて走っていく。
とりあえず目的地は決めた。あとはそこに向かって歩くだけだ。
俺とリルは足並みを揃えて、果てしなく続く道を歩いていくのだった。だが、この後思わぬ人物たちと鉢合わせることになるのだが、それはまた別の話である。
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