幕間 動き出す勇者パーティー

 魔族国ドゥルラムと隣接する国、ジャンバール帝国。この国は人間至上主義国で、他種族にとても排他的だった。そんな人間至上主義国であるジャンバール帝国は隣接する魔族国をどうにかして排除しようと考えていた。


 現在ここは王城の玉座の間。そこには玉座にふんぞり返って座っている女王が一名、それに平伏する形で4人の男女がいた。


「顔を上げよ」


 女王、リケア・ジャンバール女王がそう言うと、片膝を立てて平伏していた4人の男女が顔を上げた。


「此度ここに貴様らを呼んだのには理由がある」


 玉座の間に一気に張り詰めた空気が広がる。


「勇者パーティーである貴様らには魔王を討伐してもらう!」


 それを聞いた勇者パーティーは目を見開いて驚いていた。


「魔王の、討伐ですか?」


 最初に口を開いたのは4人の中のうちの1人、勇者の称号を持つダランだった。


「そうだ、勇者ダランよ。隣国にいる魔王を討伐してくるのだ」


「魔王といっても魔族の王。相手は一国の国王ですよ?それを殺せと?」


「あぁ、そうと言っているだろう」


 そしてまた、玉座の間を沈黙が支配する


「俺は納得いかねぇなぁ。理由を説明してもらわねぇと流石にその依頼は受けれそうにないぜ」


 この沈黙を破ったのはスキンヘッドの大男、拳聖の称号を持つガルドだった。


「理由が必要なのか?敵を滅ぼすのにか?」


「はい、必要に思います。我々は何もあなたに忠誠を誓っているわけではありません。そもそも、我々勇者パーティーは邪なる者たちを討伐するために結成されたパーティー。そんなパーティーが一国を潰すために動くのは我々の主も許しはしないと思います」


 白の修道服を着た、聖女の称号を持つチッタが手を前で組みながら女王を見上げている。


「そうね、私も反対だわ。私たちは暗殺者でも便利屋でもない。勇者パーティーの一員なのよ!」


 豪華なローブを纏った魔導姫の称号を持つチェルシーが釣り上がった目で女王を睨んでいた。


「ふむ、お前たちの言い分はわかった。だが、お前たち勇者パーティーを援助しているのは誰だと思っている?」


「そ、それは...」


「お前たち勇者パーティーは恩を仇で返すと言うのか?ふっ、なんとも馬鹿馬鹿しい。そんなこと、人のやることじゃない。猿のやることだ。猿真似ごっこがしたいのならどこへでも好きに行くといい。だがそれを選択すれば、他の国でもそれなりの扱いを受けるだろうな?」


「くっ!」


 勇者たちは歯噛みする。いったいどこで間違ってしまったと言うのだろうか。俺たちはただ、邪なる者たちと戦うため、人々の希望を背負って戦いたかっただけなのに。それなのに、俺たちはこの国の女王に援助を頼んでしまった。それが人生最大の間違いだった。援助を受けるなら、他の国とかももう少し考えるべきだった。そうすればこうも悪い方向に話が進むこともなかったかもしれない。だが、そんなこと今考えたところでもう遅い。


「それでも!僕たちは僕たちの正義のもと戦っている!一国の国取合戦に僕たちを参加させないでほしい!どうか、わかってください!」


 勇者ダランは頭を地面に擦り付けるんじゃないかというほど下げて懇願する。


「はぁ、わかった」


 女王は深くため息を吐いてからそう口にした。それを聞いた勇者パーティーの面々の顔に、輝きが戻る。


「それじゃあ!?」


「ただし!」


 勇者ダランが口を開くのと同時に、女王はそれに被せるようにして口を開いた。その気迫によって、勇者ダランは口を閉ざしてしまう。


「魔王の討伐はするように。これだけは譲れん」


「な!?それじゃあ最初の要求と変わらないじゃないか!」


 勇者ダランは声を荒げて抗議する。だが、そんなことは知らないと女王はふっと鼻で笑う。


「勇者ダランよ。私はこれでも譲歩したつもりだ。最初は魔王以外の魔族も討伐をと思っていたのだぞ?それに、いつから私が要求していたと思っていたのだ?そもそもそれが間違いなのだよ。これは要求ではない。命令だ。従えぬと言うのならそれでもいい。だが、従わないなら従わないなりに報いを受けてもらう」


「そんなの卑怯よ!」


 魔導姫チェルシーは耐えきれず立ち上がる。


「卑怯だと?結成当初から私はお前たちを支えてきたのだぞ?それが卑怯?笑わせるな。お前たちはいつから私よりも偉くなったのだ?分をわきまえろよ、猿どもが」


 勇者一行は何も言い返せず、歯噛みする。


「なぁ、女王様よ。それなら俺たちはあんたの指示通り魔王だけを倒せばいいのか?」


 女王はまたも鼻で笑うと扉の方向を勢いよく指さす。


「そうだ、わかっているじゃないか。わかったならすぐにでも出発しろ。話は以上だ。私から話すことはもうない」


 そう言って女王は玉座に深く腰掛け直して座り、目を閉じてしまう。


「僕たちは、本当に魔族の王である魔王を倒さなければいけないのか?」


 勇者ダランは気がつけばそんなことを口にしていた。


「行こう、ダラン。こんな場にいては頭ん中が腐っちまうぜ」


「その言い方はどうかと思いますが、この場を一旦出ることはいいと思います」


「そうね、立ち止まっていても何も始まらないわ。とりあえずこんな腐った空気じゃなくて、新鮮な空気を吸いにいきましょ!」


「み、みんな...」


 勇者ダランは重い足を無理やり動かして立ち上がる。


「行こうみんな!」


その言葉に三人は頷く。


 目指すは魔族国ドゥルラム。だが現在魔王であるリルは、リアムと共に旅に出てしまっている。そのことにより、すれ違いが起きてしまうことになるのだが、この時の勇者一行、そしてリアムたちは知る由もなかった。





「ふむ、行ったか」


「ん、そうっぽい」


そう言って誰もいないはずの玉座の間の柱から1人の少女が姿を現す。


「そうか、それならばお前も準備しろ」


「私?それはまたなんで?」


「あいつらだけでは不安だからだ。一枚も二枚も予備策を張らせておけば失敗は防げる。そうだろう?『氷帝』シルヴァ・リノワールよ」


 氷帝と呼ばれた少女は肩口で切り揃えられた銀髪を揺らしながら静かに頷く。


「ん、そうかも。それじゃあ私も行けばいいの?」


「あぁ、お前は奴らの補助だ。魔王討伐、魔族の王は他の国の王とは比べものにならないくらい強い。それこそ並みの七帝とならば一対一で対等に渡り合うぐらいにはな」


「そう、それだとあの勇者たちだけではダメ?」


「あぁ、お前もわかるだろう?今代の勇者たちは少しレベルが低い。あれでは魔王を追い詰めることはあっても倒すことは叶わない」


 シルヴァはコクリと頷く。


「だからお前にも出てもらう。行けそうか?」


「ん、問題ない。私が魔王を倒してしまってもいいの?」


 シルヴァはまるで買い物ついでにお菓子を買うみたいにいう。それがツボに入ったのか、女王は声を荒げて笑う。


「あぁ、構わん。やれるならやってしまえ。頼んだぞ、氷帝シルヴァよ」


 少女は静かに頷くと、その場を後にした。


「さて、これで魔王も次期死ぬだろう。そうなればこの国周囲を私のものにできる!」


 誰もいなくなった玉座の間に、女王の大きな笑い声だけが児玉した。


 だが、この時の女王はまさか魔王が旅に出ているとは思わなかった。そして、その側に炎帝がいることも。





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皆様ここまで読んでくださりありがとうございます!また、★、応援を毎回してくれる方々、本当にありがとうございます!


今回の話を持って、第一章は終了になります。次回から第二章『帝国からの刺客と魔物たちの行進』に入っていこうと思います。これからも応援よろしくお願いします。


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