第七話 報告と火の海の対処

【魔王城】


「これ、どうすればいいってのよ」


 私は手乗りサイズの水晶玉を覗き見ながら呟く。だって仕方ないだろう。魔族国の西側の森一帯が一瞬にして火の海と化してしまったのだから。耳を澄ましてみれば、城中のあちこちで悲鳴が上がっていた。おそらく作戦室置いてある水晶玉で今の状況を見ているのだろう。


 そもそもこの水晶玉を簡単に説明すると、遠くのものを映し出してくれる便利な魔道具なのである。欠点としては指定した人物とその周辺しか見れないというところだ。その指定した人物というのも、無制限に誰でも見れるわけではない。本人の許可を取らなくてはならないのだ。方法としては、許可が取れればその水晶玉に手を翳してもらう。すると、水晶玉に個人の魔力が登録されて、映し出すことが可能になるのだ。リアムには前々から何かやらかすだろうと思っていたので、早急に登録させた。


 私が深い深いため息を吐いていると、玉座の間に1人の甲冑を着た男が入ってきた。


「報告します!」


「ふむ、なんだ?」


 どうせリアム関連のことだろう。その程度のことは大体予想がつく。


「ここより西側の森にて炎が勢いよく広がっております!早急に対応した方がよろしいかと」


「そのことか、それは後で本人に責任を取ってもらうから後回しだ。それよりも、あの馬鹿リアムはまだ城に戻っていないのか?」


「はい!まだリアム様は確認できておりません!」


「ふむ、そうか。他に報告は?」 


「以上になります!」


 男はビシッと敬礼してから玉座の間を足早に去っていった。


「さて、リアムはどこにいるのかしら」


 私は水晶玉からリアムがどこにいるのか確認する。


「は?馬鹿リアムはどこにいるのよ?」


 そう、水晶玉に映し出されたのはなんとリアムが空を駆けている光景だった。


 水晶玉にリアムが映し出されてからすぐに、玉座の間の前からパリンッ!と大きな音が鳴った。非常に嫌な予感がする。


 もう一度水晶玉を見てみると、リアムはどうやら建物内に入ったようだ。それも豪華な建物の中に。


 私は玉座から玉座の間の扉を見る。すると、ギギギギと音を立てて開いた。


「リル!一応自称邪竜の黒トカゲは倒したんだけどさ、本当にあれであってるのか?」


 開け放たれた扉から私のよく知る男が入ってきた。そう、リアムだ。


「まぁあっているわ。それよりも、聞きたいことが山ほどあるんだけどいいかしら?」


 私は額に青筋を浮かべながらリアムに問いかける。


「ん?別にいいけど。で?何を聞きたいんだ?」


 こいつ、本当に何も分かっていないのかしら?


「まず一つ目、わざわざそこから入る必要はあったの?」


 私はリアムの背後、正確には窓を指差しながら問いかける。いや、正確には窓だった場所だが。


「え?あぁ、急いでたしいいかなって」


「あんた頭大丈夫?いい病院をお勧めするわよ?」


「いや、平気だよ。てかこのくらいのことでいちいち小言を言うなよな。ちょっと心の器が小さすぎないか?リルは」


 私はカッとなって立ち上がる。


「あんたねぇ、人様の城の窓ガラス割っておいてなんて態度なのよ!この反応が世間一般なのよ!」


「それはすまなかった。それで、他に聞きたいことがあるんだろ?」


 当たり前だ。一つで終わると思っているならこいつの頭の中はおそらくお花畑だ。


「じゃあもう一つ、誰が西側の森を火の海にして来いなんて言ったのよ!?あんたばっかじゃないの!?」


 リアムは心外だとでも言いたげな表情をしながら頭をぽりぽりと掻いている。


「いや、仕方ないじゃん。仮にも相手はあの邪竜と呼ばれる存在なんだぜ?まあ今回倒したのが邪竜かは別として。そんな強大な敵に出し惜しみなんてできるかよ!」


「それにしたってやりすぎでしょ!考えなさいよ、この馬鹿!」


「さっきから聞いてれば馬鹿馬鹿って。お前はそれしか言えないのか!このちんちくりんが!」


「はぁ!?一国の王に向かってなんてこと言うのよ!あんた不敬罪よ!はい、死刑確定!」


「何が不敬罪だよ、たかが宿屋の店主如きに不敬働いたからって死刑になんてなるわけねぇーだろ!てかリルが依頼してきたんだろ!文句あるなら自分で討伐してこいや!」


「おいこら、馬鹿リアム。表に出なさい、戦争よ!」


「上等だよ、かかってこいやちんちくりん!」


 私とリアムは数秒間睨み合う。だが、それに飽きてほぼ同時に睨むのをやめる。


「もういいわよ。それで、この火の海は責任持って消してくれるんでしょうね?」


「まあそれはやるよ。流石にやりすぎたと思うし」


「分かればいいのよ、分かればね」


 私はうんうんと頷く。


「そんじゃ、俺は森に広がった火を消してくるわ」


 そう言ってリアムはひらひらと手を振りながら玉座の間を出ていった。


「まったく、常識というものが分かっていないんだから」


 私はリアムが破壊した窓ガラスの破片を片付けるように部下たちに指示を出した。



 数分後、水晶玉から森の状況を確認した。だが、これはこれで少し、いや、だいぶおかしい。


「うん、たしかに炎は消えてるわ。綺麗に消えてる。でもね、誰が森も一緒に消せって言ったのよぉぉぉぉぉ!!」


私の魂からの叫び声は玉座の間で虚しく反響していたのだった。






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レビュー《星》、応援ありがとうございます!


今回はリアムの能力について少しだけ記載します。


リアムの魔法一覧

『緋炎』

深紅の炎。変幻自在の炎で、あらゆる形状変化が可能な万能な炎。基本はこの緋炎を使用して戦う。炎を武器の形にすることも可能だが、リアム自身が無手なため、武器への変換には使わない。手に緋炎を纏わせて戦うことはある。


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