第六話 邪竜から邪神判定された件

 俺は宿屋魔王城の窓から飛び出し、今は森の中を駆けている。地を素早く移動したり、時には木から木へと飛び移ったりと様々だ。


「なんだ?いやに魔物の気配がしないな。これも邪竜がいることが影響しているのか?」


 俺は木から木に飛び移りながら考える。


「となると、早急に対処する必要がありそうだな。そんじゃ、急ぎますかね」


 俺は木を強く踏み締め、先ほどよりもスピードを上げる。


 それから数分もしないうちに、目的地である洞窟が見えて来た。


「やっと着いたか」


 俺は洞窟の前に着くと、一旦足を止める。


「さて、ここからどうやって邪竜を仕留めようか。てか本当にここに邪竜なんかいるのか?」


 俺は訝しげな表情で洞窟を見る。だってそうだろう。情報によればこの洞窟内を根城にしているらしいが、全く邪竜と呼べるほどの反応がないのだから。


「まあ一つ反応があるんだけど、それも到底邪竜には及ばないしなぁ。ま、邪竜自体見たことないんだけどさ」


 俺は洞窟に向かって一歩一歩軽い足取りで近づいていく。それはまるでこれから開店する店に向かうかの如く。


 あと一歩で洞窟内に足を踏み入れるというところで、ものすごい突風が洞窟内から吹き荒れた。


 俺は咄嗟に後方へ大きく飛んで距離を取る。


「あぁ、そっちから来てくれるなら楽でいいや。早く邪竜とやらに会ってみたいものだ」


 ドスンッ、ドスンッと辺りに大きな音が響き渡る。そのどれもが洞窟内から聞こえてくる。


『ふむ、かなり強い魔力を感じて外に来てみれば、矮小な人間が一匹いるだけではないか』


 そういって洞窟内から姿を現したのは漆黒の鱗に包まれた巨大なトカゲだった。


『ちょうど腹が減っていたところだ。お前を食ってやろう。感謝しろ、この邪竜様に食べられるのだからな』


 そういうと、自称邪竜は大きな声で笑い始めた。最近大声で笑う奴が増えていて少し参っていたのに、こいつまでこんな笑い方するのか。


 俺は深くため息を吐く。それをどうやら俺が絶望していると感じ取ったらしい。自称邪竜は俺を上から睨みつけてくる。


『はっはっは!人間よ、どうやら絶望しているらしいな。そうだ、その顔が見たかったのだ。わざわざ天界から来た甲斐があったわ!』


 俺はやれやれと首を振る。


「なぁ、なんか一人で盛り上がっているところ悪いんだけどさ。もう、始めていいか?」


『ん?なにをだ?』


 自称邪竜はこれから何が起こるのかわからないらしく、首を傾げている。


「わからないなら教えてやるけどさ。俺、この国の依頼でお前のことを討伐しに来たんだわ。だからさっさと始めていい?」


 最初はポカンとしていたが、次第に自称邪竜はプルプルと震え出した。それに呼応して、この辺一帯まで揺れ始めた。


『キサマァ!矮小な人間如きが我を愚弄するか!我は誇り高き邪竜だぞ!いつの時代も人や神々から恐れられた邪竜だぞ!それなのに貴様は我を討伐するというのかぁ!寝言は寝て言えぇ!』


 なにやら自称邪竜さんがブチギレ始めた。俺の発言のどこにキレる要素があったのだろうか。それに、こっちも言いたいことが山ほどある。


「おい、しゃべる黒トカゲ!お前みたいな弱っちぃ奴が邪竜なわけねぇだろ!人や神々から恐れられてきた?お前こそ寝言は寝て言え!」


 俺はしゃべる黒トカゲに声を荒げて言う。もはやこんな奴が邪竜とかなんの冗談だ?宿屋魔王城店主魔王より少し強いくらいじゃねぇか。どこの世界に店主魔王より少し強いだけの邪竜がいるってんだよ。ほんと笑えない冗談だな。


 黒トカゲは未だに信じられないといった表情でプルプルと震えている。なんか少し面白いな。


「なぁ、もういいだろ?お前どうせ負けるんだしさ」


『ふざけるなぁぁぁぁ!矮小な人間如きが我に勝てるはずなどない!』


 それだけ言うと、黒トカゲは口の中に黒色の炎を溜め始めた。


「自分のことを邪竜というだけはあるな。それなりに強力な魔力だな」


 俺は独り言を呟きながらも、魔力を練り上げていく。


「『緋炎展開:炎壁フレイムウォール』」


 魔法を発動すると、俺の前の地面から深紅に燃える炎が天へ向かって立ち上がった。それは俺の前を覆うようにして横へと広がっていく。それに合わせるようにして、黒トカゲもブレスを放ってくる。だが、その一撃は俺に届くことはなく、深紅の炎に包まれてしまった。


『なっ!?嘘だろ?我のブレスを防いだだと!?』


 何を驚いているんだか。この程度の攻撃をする奴なんて探せばいくらでもいるってのに。あぁ、そうか。こいつは自分よりも強いやつに会うことがなかったんだな?それなら、俺が少しばかり本気を見せてやるとするか。


「おい、黒トカゲ!今度は俺からいくぞ!それと、しっかり防げよ?じゃなきゃ即死するぜ?」


 俺はそれだけ言うと、次の魔法の準備へと取り掛かる。


「『緋炎展開:地獄炎ヘルフレア』」


 俺は片手を前に突き出し、魔法を発動する。すると、俺の手から急速に深紅の炎が放たれる。それはまるで荒れ狂う海のように燃え広がっていく。地を焦がし、森を焼き尽くす。


『貴様!一体何者だ!?人間がこんな魔法使えるわけないだろ?!さては天界より追放された邪神だな?そうなんだな!?』


 なんか焦って意味わからんこと言ってるが、俺には多分関係ないことだろう。


「この程度の魔法に耐えられないようでは邪竜とは言えないな。本当の邪竜が可哀想だ。死ぬ前に邪竜に謝れ!」


『我が本当の邪竜だぁぁぁぁぁぁ!』

 

 自称邪竜は真っ赤に染まる炎に飲み込まれ、跡形もなく消えてしまった。


「あぁ、ほんとこいつ邪竜だったのか?俺は卒業試験も含めて邪竜討伐の依頼をしてるってのに。一度宿屋魔王城に戻るか」


 俺は燃え盛る森の中をゆっくりと歩き、宿屋魔王城へと帰っていった。






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