第八話 引き継ぎ完了と新たな目的

 とりあえず火は消したから文句はないだろうと思い、そのまま宿屋魔王城までルンルン気分で戻ったが、またリルに怒られた。要望通りにしたってのに何が悪いんだよ。


 西側にあった森は消失し、スッキリしてしまった。まあこの辺りには広場とかなかったしいいんじゃないだろうか?これで魔族の子供たちが走り回って遊べる。うん、誰も文句はないだろう。





「ご苦労様、依頼は達成ね。森の件に関してはもう何も言わないわ」


「お、そうか!それは助かる!」


「お、そうか。じゃないでしょ!あんた森一つ消したのよ?ちょっとは反省しなさいよ!」


 俺は「はぁーい」と、気の抜けた返事をする。


「ほっほっほ、リアム、よくやったのぉ。これで晴れてお主もわしからの特訓を卒業じゃ」


「あんなのでよかったのか?なんだか名前負けしたトカゲ倒して卒業とかちょっと拍子抜けだな」


 俺がそう言うと、師匠以外のこの場にいる人たちが深くため息を吐いた。


「リアム、あれは紛う事なき邪竜よ。本来なら一国が全兵力を上げて対応しなきゃいけないの。それをあなたは1人でおこなったのよ?とんでもないことじゃない!」


「いや、まぁ、そうは言うけどさ。実感がないんだよ。あまり手応えがなかったし」


「それはあなたが強くなりすぎたのよ」


 リルの周りにいる家臣たちも「うんうん」と頷いていた。ちょっと大袈裟ではないだろうか?


「まあその話はいいんじゃよ。もう終わったことを話していても仕方ないのじゃ」


 そう言って師匠はこの話は終わりと打ち切った。


「それで、わしの特訓を卒業ということで、この場で炎帝をリアムに引き継ごうと思う」


 師匠が言い切ると、周りから「おぉ!」と歓声が聞こえてきた。ほんとノリがいいな、ここの人たちは。


「わかった、それはいいんだけどさ。正確には何をすれば引き継げるんだ?」


 俺がそう問いかけると、師匠は右腕にはめていた深紅に燃える炎のような色をしたブレスレットを外して見せてくる。


「これをリアムにつけてもらう。それで引き継ぎは終わりじゃ」


「え?それだけ?」


 少し拍子抜けだ。こんなみんながいる場でやるのだから、もっと盛大にやるものだとばかり思っていた。


 俺が少し落胆していると、師匠はケラケラといつもの笑いを見せる。


「リアム、このブレスレットがただのブレスレットだと思ったらダメじゃよ」


「それはなんでだ?」


 俺が首を傾げて頭上にはてなマークを並べていると、玉座に座っているリルが立ち上がって説明を始めた。


「私も詳しいことは知らないわ。でも、それをつけるとなんでも特定の魔法、魔力量とかが上がるらしいのよ。それと、そのブレスレットは世界に一つしかないわ。それを身につけていればみんなリアムが炎帝なのだとわかるわ」


 なるほど。魔道具としてもいいが、目印にもなると。まさに一石二鳥だな。でもそんなに強力な魔道具なら誰か盗もうとする人もいるのではないか?


 俺がそう口にすると、師匠は丁寧に説明してくれる。


「そう思うかも知れんが、そんなことはないんじゃよ。そもそもこのブレスレットは先代炎帝の許可の元、譲り受けることができるのじゃ。それに、わざわざ炎帝を倒してまでこれを盗もうとする輩はおらんよ。いればそいつはよっぽどのアホか死にたがりなのだろう。だからそんな奴がこれからいたら遠慮なく灰塵にしてしまって構わんよ」


 師匠はそれだけ言うと、ケラケラと笑っている。流石に最後の言葉は物騒だな。まあ、敵だというなら葬り去るまでだけだな。敵に情けをかけて嫌な目に会うことなんてこの師匠の特訓で嫌ってほど理解したからな。


「それじゃあ前置きが長くなったが引き継ぎを行うぞ。右腕を出すのじゃ」


 俺は言われた通り、右腕を前に突き出す。すると、師匠はなんの躊躇いもなく俺の右腕にブレスレットを突っ込んできた。そして、ブレスレットは腕にハマるなり、シュッと手首に張り付いた。


ん?張り付く?


 俺はブレスレットを一回取ろうと、動かそうとするが一ミリも動く気配がない。


「師匠、なんかこれ動かないんだけど」


 師匠はそれを聞くと、コミカルにポンっと手を叩いた。


「そうじゃった。言い忘れていたがそれは引き継ぎの儀以外では決して外れることはないぞ」


「そういうことは先に言えよ!」


 俺は深いため息を吐く。まあいいか、デザインもシンプルでダサくはないし。てか今気がついたけど、なんか嫌に制限されているような。でも、それがしっくりくる。


「あぁ、それは炎魔法以外使えなくなったからじゃよ。そんなに強力な魔道具なのにデメリットがなかったら逆におかしいじゃろ?」


「あぁ、だから特訓の時に炎魔法以外は覚えなくていいと言ったのか」


 なるほど、これで合点がいった。まるで喉に刺さっていた魚の小骨が取れたみたいだ。


「さて、引き継ぎも終わったことだし、次の課題でもだそうかのぉ」


「え?特訓卒業じゃないの?」


 俺は首を傾げて問いかける。


「そう身構えるでない。これから言うことはお主にとって大切なことじゃ。だから心して聞くのじゃ」


 俺の喉がゴクリと自然と音を立てる。


「まずは他の七帝に会うのじゃ。それから後継者を探すのじゃ」


 またなんか厄介なことになってきた。


「そもそも七帝に会うって言ったってどこにいるのか知らんし。それに後継者探すって早すぎやしないか?俺今炎帝になったばかりだぞ?」


 俺の問いかけを鼻で笑って一蹴する。


「それじゃ考えが甘い。後継者に関しては最適な人を選ばねばならん。その辺の犬を指定したってそりゃ無理ってものじゃろ」


「まあそうだけど」


「なら早めに決めるんじゃ」


 うーん、まだ納得いかないが、まあそれはおいおいでいいだろう。


「それで、他の七帝探しじゃが、リアムもうっすらと気が付いているのではないか?」


 言われてみれば微かだがら色々な場所に引っ張られるような感覚がある。全部で六方向。


「その引っ張られる感覚こそが他の七帝のいる場所じゃよ。それを頼りに見つけるのと、他の七帝もリアムと同じようなブレスレットをしている。それはまあみればわかると思うのじゃ。そして、友達にでもなって困った時に助けてもらえ!」


 俺はとりあえず大きく頷く。


「わかった、それなら明日にでもここを出ようかな。行動はなるべく早くの方がいいだろうし」


 そう言って俺は旅立ちの準備をするため、玉座の間を出て行ったのだった。





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