第二話 行先は少し有名な宿屋さん
俺はあれから爺さんを連れて、村へと戻ってきていた。なぜならすぐにでも出発するためである。そのため、俺が暮らすにあたって協力してくれた人たちへの挨拶。これは俺が一人で暮らしているため、近隣の方達がたまに様子を見にきてくれたからだ。両親は小さい頃にすでに他界している。だから俺は今日まで一人で暮らすことを強いられてきた。中にはうちに来てもいいと言ってくれた人もいたが、全てお世話になるのはなんだか違う気がした。
まあそんなこんなで、村の人たちに別れを告げて爺さんに着いて行っているわけだが...。
「それで、爺さんはこれからどこに向かってるんだ?」
「ふむ、そうじゃな。これからお主を鍛えるためのとっておきの場所に連れて行ってやろう」
「そこを聞いてるんだが...」
俺ははぁっと深いため息を吐く。
「そう慌てるでないわ。別に特訓は逃げたりはせんからな」
爺さんはそう言ってガハハと笑っている。
まったく、この人は相変わらずぶれないというか。
俺は渋々爺さんの後をつけて行った。
★
あれからどれほど歩いただろうか。もはや何日歩いたかなんて数えるのが面倒くさくなるくらいは歩いたと思う。太陽が登っている限りは歩き続け、沈めば休む。時には魔物が出てきてその魔物について解説しながらサクッと倒す。たまに魔物相手に炎魔法を使うことなく、倒す日もあった。そんな日は俺に体術を一から仕込んでくれた。雨の日は魔法について教わる。この雨の日が一番楽しみなのは言うまでもない。俺にはどうやら魔法の才能があるらしく、簡単な魔法ならすぐに覚えることができた。といっても、爺さんは俺に炎魔法以外教えてくれることはなかった。それについて尋ねてみても、『後で必要になるのは炎魔法のみ、他の魔法なんざ覚えたところで無駄になる』の一点張りだった。
それからまた月日が経過した。
「なぁ、爺さん。目的地っていつになったら着くんだよ」
俺は痺れを切らして少し強めの口調で尋ねる。過去に何度か尋ねたことがあったが、『着いてからのお楽しみじゃ』と言って教えてくれなかった。この爺さんはなかなか秘密主義のところがある。
とりあえず俺は黙ってついて行くことにした。
それから数時間歩くことで、周りの景色が急激に変化し始めた。最初は少し薄気味悪いなと思っていたが、それがだんだん気味が悪いまで変わった。舗装された道も段々と凸凹になり始め、歩きづらくなってきた。それに、周りは相変わらず木々に囲まれているが、今が昼間だというのに森の中は真っ暗だった。それだけ木々が生い茂り、光を遮っていたのだ。
「なぁ爺さん。この辺さっきまでと全然違くないか?」
俺の問いかけに爺さんは軽く頷いて見せる。
「そうじゃな、まあ見ればわかるだろうが全然雰囲気も違う。ここから目的地まではもうすぐだ。だから最後までしっかり頑張れ」
それだけ言うと、爺さんはまた歩き始めた。
それから歩いて数時間、先程までとは比べ物にならないくらい魔物の数が増えている気がする。
「爺さん、ちょっと魔物の数が多すぎないか?」
「ん?なんじゃ。お主はこれだけの魔物で根を上げるのか?」
「別にそんなんじゃねぇし!ただ、なんていうかさっきまでとは魔物の質も量も全然違うと思っただけだし!」
爺さんは歩いていた足を止め、こちらを振り返る。
「お主のことを移動中にできる限り鍛えていたが、まだまだこんなものは序の口よ。それでもお主は世間一般から見れば強者の部類に入るのは間違いはない。ただ、これから先の特訓がこれと同じくらい楽とは思わんことじゃ。お主は世界一強くなるといったんじゃ。だから特訓もそれに合わせてレベルを上げて行く。わかったか?」
俺は爺さんの鬼気迫る表情に反射的にコクリと頷いていた。
「そうか、それじゃあ行くか。といっても目的地はもうすぐ目の前じゃ」
そういって爺さんは進行方向を指さす。
「な!?おいおい、嘘だろ?」
「ふむ、何が嘘なのかね?」
「いや、だって...。あれって...」
俺は震える手で今見えているものを指さす。
爺さんは何回か頷いてからまたこちらに向き直った。
「そうかそうか、あんなド田舎だと見たことないか。あれは無料で泊まることのできる便利な宿屋なのじゃ!」
俺は爺さんの言っていることが正直意味わからなかった。確かに俺は宿屋を見たことがない。村はそこまで大きくないため、旅人は寄り付かない。そのため、村には宿屋というものがなかった。爺さんとだって常に野宿だったし、街に入りたいというものなら特訓の時間が減ると言われてそれを素通りしていた。だからといってあれを宿屋というのだろうか?あれ?俺がおかしいのか?いや、それはない。だって、だってあれは...。
「どこからどう見ても魔王城だろ!?」
「ふむ、昔はそう呼ばれていたらしいが、今は宿屋なんじゃよ」
「んなわけあるか!!!」
こうして俺と爺さんは魔王城へと向かうべくして歩き始めたのだった。
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