第4話 本は著者の鏡である
顎、
人体の急所を的確に破壊する『元彼女』は無表情であった。まるで、未来から送り込まれた殺戮マシーンのようである。一通り破壊し終わると『元彼女』は、最後に見せたあの笑顔以上の、満面の笑みでこういった。
「今度同じようなことしたら、
なんてかわいい『彼女』何だろうか。やっぱり僕の『彼女』は最高だぜ!
こうして、引っ越しまでに解決すべき問題は無事終わったのだった。
***
桜の花びらを踏まないように、避けながら歩く小学生を横目に欠伸をする。急な引っ越しだったのもあり、ここ数日は転校準備や荷物の荷解きなどで疲労がたまっていた。しかし、そうも言ってられない。今日は大切な始業式である。この日のためにどれだけ準備を重ねてきたことか。その最たる例がこれである。
『ボッチ脱却!? イタリア人から学ぶ友達新書』
著:フレンド・リー
まあ、言いたいことは分かる。こんな本を買ってる時点で、私に友達はいません、友達の作り方すらも分かりませんと、本屋の店員に向かって自己紹介しているようなものである。正直、これほど買うのを
流石に本屋でこの本を立ち読みする勇気はなかったので、カバンの奥に本をしまい、急いで家に帰る。これでたくさんとは言わないまでも、1~2人くらいは友達ができるのではないか?そのような希望を抱きながらページをめくった。
Lesson 1 『ポピュラーな挨拶』
キスをしましょう。キスと聞いて驚いた人も安心しましょう。挨拶のキスは互いの頬を交互にくっつけることを表します。これなら、シャイな日本人でも実践できますね。距離感を近づけるのには最適です。ぜひ実践してみましょう!
気が付くと、手の中には父のライターが収まっていた。
どうやら自分が想像していた以上のゴミを2200円で購入してしまったようだ。この後も、どうにか元を取ろうと隅々まで目を通したが有用な情報はほとんどなかった。多くがボッチでは実現不可能なものばかりで、これが実行できるのは相当なイケメンか、田舎のおばあちゃんぐらいだろう。ただ、一つだけまともな情報も載っていた。
おまけ 『人間の心理』
初頭効果という心理現象があるのを知っていますか?これは第一印象が良かった人はその後の印象も良くなりやすく、逆に第一印象が悪かった人はその後の印象も悪くなりやすいというものです。つまり、最初が肝心! 笑顔を常に心掛けましょう。
これは少しは役立ちそうである。2200円の価値があったとは思えないが、自分への投資と考えれば安いものだろう。本当はすぐにでも燃やしたかったのだが、火事になったら大変なので、背表紙が見えないように本棚にしまうことにした。次の廃品回収までは部屋に置いといてやろう。
もし著者のフレンド・リーがサイン会をしていたら、ぜひ行ってみたいものである。その時は日本人のボッチがどういうものか徹底的に教えてあげよう。
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