47 #PR その2②
赤い眼、爬虫類のような灰色の鱗、大きな羽、硬い爪と牙。全長は旅客機ほどと思われる巨大なドラゴン。
画面上部にボスのライフゲージが表示される。つまりこいつを倒せということだ。
『なんでSF世界にドラゴンなわけ!?』
「どういう設定……?」
もちろん制作会社の趣味である。
ドラゴンは格納庫の天井の穴からふたりを見つめ、そして大きく息を吸い込んだ。
『来る!』
ドラゴンが息を吸い込んだとしたら、出てくるものと言えばひとつしかない。炎のブレスだ。広いとはいえ格納庫は四角い箱だ。このサイズのドラゴンがブレスを吹けばひとたまりもない。
長いゲーム歴からドラゴンの足元が安全と判断する。二人は同時に走り出し、プレイヤーが乗ってきた小型船が開けた穴から外へと出る。
ドラゴンがブレスを吹くと基地内は炎で満たされる。廊下も物陰も逃げ場はなく、無数にいた敵がまとめて灰になる。
「これ、残ってたら全滅ですね」
『初見殺しじゃんか!』
文句を言うナミ猫だが無事生き残っている。
外は多少の起伏はあるが、基本的にはだだっ広い荒野である。多数の敵に囲まれれば死あるのみだが、1体のドラゴンならなんとか……。
『なるわけないでしょ!』
ブレスが来たら死ぬ。それだけはわかるので安全なところを探して走り回る。基地内は炎に包まれていて戻ることなどできなさそうだ。外で戦うしかない。
ドラゴンは大きく羽ばたいて空へ舞い上がり、ゆっくりと旋回している。漆黒の空に灰色のドラゴンは視認性が悪いが、角度によっては恒星の光が反射して見えることもある。
とりあえず撃ってみるか。とスナイパーライフルを胴体へ一発。ライフが5%ほど減る。ドラゴンは少し体勢を崩したがすぐに立て直す。そしてミナズキを睨みつけると大きく上昇、一気に下降し鋭い爪で掴みかかろうとしてくる。
「げ」
ドラゴンの進路から真横へ飛び込み爪から逃れようとするが、わずかに攻撃判定が掠ったようで、ライフが2割ほど減る。
ローリングの距離と攻撃範囲から察するに、完全回避は不可能みたいだ。直撃すれば即死か瀕死だろう。
『いやいや命が持たないよ!なんだこれ!』
一撃を入れるたびにライフを2割も減らされたんじゃ勝つことはできない。これはあくまでゲームだから攻略方法は存在するはずだが、ぱっとみた感じ手助けになるようなモノは見当たらない。
何故だろう?前半の雑魚戦でなにかアイテムでも拾い忘れたか?いや、楽になるようなお助けアイテムならありえるが、取らないとクリア出来ないというような仕様にはしていないだろう。今どきのゲームデザインとしては有り得ない。
なら今見える範囲にヒントがあるはずだ。
ドラゴンは再度旋回をはじめ、今度は攻撃していないのに爪の攻撃が来る。ナミ猫が狙われてライフが減らされる。
「なんか、歩兵だけで戦車に勝つような感じ」
『ね、無理ゲーじゃん。それなら塹壕くらいあっても……あ!』
「穴?」
『そうそう!何か凹んでる場所とか無いかな』
戦車と戦うなら塹壕だ。地面を大きく掘って砲弾から身を護る場所。あのドラゴンの爪を防ぐには中途半端な遮蔽物では話にならない。でも塹壕のような穴であれば大丈夫……だと思う。
二手に分かれてマップを走り回る。その間にも爪による強襲は続き、共に満身創痍である。
「ありました」
これは攻略が違ったかな?と思い始めた頃、ミナズキが人が入れそうな穴を見つけた。
「サンドワームの穴だ」
サンドワーム──。見た目は巨大なミミズのようだが、胴の先端に大きな口と牙を持っており、モグラのように地面に潜ることができる。
本来は砂漠に生息し、砂を掘って移動する架空の生物だが、この星では硬い岩盤に穴を開けてそこを移動することもある。
なお、ゲーム内での正式名称はロックワームである。巨大な個体なら胴体の太さは2mを超えるため、こいつの掘った穴であればプレイヤーが入ることもできるらしい。
『え、遠いな……行けないかも』
すでにナミ猫のライフは1割ほどまで減っている。あと1回攻撃されたらそれまでだ。
ならば、攻撃がミナズキの方へ来たらいいわけだ。遠距離狙撃を叩き込むと、ドラゴンがミナズキの方を向く。
『普通その距離なら当たらないんだけどね』
ドラゴンが大きく羽ばたいて一気に距離を詰める。ミナズキが穴へ飛び込むと、まるで砲撃が来たような轟音が穴の中へ響いた。
「うるさ」
『お、ノーダメージじゃん』
どうやら正解を引いたらしい。ナミ猫も穴へ飛び込み反撃とばかりに射撃を加えようとドラゴンを見ると……。
『やべ、くるわ』
頭上で大きく息を吸い込んでいる。登場時以来のブレスだ。穴の中では逃げようがないように見えるが、外へ出て助かるようには見えない。
だがこれはあくまでゲーム。全滅の演出でなければ回避方法は用意されているはずだ。
『奥まで逃げよう!』
出ても駄目、入り口にいても駄目なら奥へ行くしか無い。
足場が悪い中、なんとか奥の方まで走る。当然灯りはないが、ゴーグルには暗視モードが標準搭載されているので問題ない。
幸いなことに分けれ道はなく、反対側には別の入り口があるだけだった。どうやらトンネル状になっているらしい。
反対側の穴から顔を出してドラゴンの様子を伺うと、ブレスを吐き出しているところだった。最初のブレスで力を使いすぎたのか、威力はやや小さめだった。おかげで炎は反対側にいるふたりのところまで到達せず、ノーダメージで回避できたということになる。
『おっけーこれで行けるね』
戦い方は判明した。飛んでいるドラゴンを撃つ。爪攻撃は穴に隠れて回避、ブレスは反対まで逃げて回避。これが基本戦術だ。
戦い方が分かればこちらのものだ。この程度でミスをするミナズキとナミ猫ではない。時間さえあれば十分に勝てる相手であった。
『ま、分かればこんなもんよ』
10分ほど同じ攻撃を繰り返し、ついにドラゴンが地面へと堕ちていった。
「シンプルな戦いでしたね」
◇◆◇◆◇
From BHプロモーション班
To 北野英美里
PR動画の件
やっぱり攻撃バリエーションがシンプル過ぎましたか?
開発班からもパターンを増やすべきと意見がありましたので、色々と検討してみます。
ありがとうございました!
◇◆◇◆◇
その後、数回の攻撃で穴が崩落し使えなくなるという修正が入ることとなった。
数カ所ある穴がなくなるまでにライフを削りきらないといけなくなり、それが難易度が高すぎると、運営サイドがプチ炎上することになるのだが……それは数ヶ月先のお話である。
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