46 #PR その2

『はいはーい!Black Hope 第2回やっていくよー!!!!』

「よろしくお願いします」

『前回はミナズキちゃんが無双しすぎたので、最初から始めていくのは諦めました!では周りを見てください』


 前回と違って、大きな基地のようなところだ。


『ここはどこでしょう!?』

「……基地?」

『う〜ん……大体正解かな!正確には宇宙船の整備工場だね』


 イメージとしては空港のジェット機の整備工場のようだ。ただ格納するモノが宇宙船なのでかなり広い。

 だが既に放棄されたのか宇宙船はひとつも存在しない。壁は崩れ、整備用のロボットやドローン、壊れたエンジンや部品などが床に散らばっている。更にところどころに残っている血の跡がこの工場に起こった悲劇を物語っている。


『ここはですね。エンドコンテンツとして用意された”基地奪還作戦”のマップのひとつです。簡単に言うと、宇宙生物に襲われて放棄した基地を奪還して使えるようにしようというコンテンツだよ』

「なるほど」

『敵は基地を襲うような宇宙生物なので、凶暴で強い!更には数も多くて一斉に襲いかかってくるよ!こわいね!』

「……こわいですね」

『本来は4人用コンテンツだけど、ミナズキちゃんは強すぎるのでハンデとして僕と2人で挑戦します。視聴者のみんなは4人で乗り込んでね』


 今いる場所は格納庫の入り口だ。作戦開始時に乗り込んできた小型船に物資が積んであるので、弾薬の補給はここで行うことができる。


『今回はさらに制限があります!ミナズキちゃんの武器はサブマシンガンと単スナのみです!』


 ここは宇宙に進出する技術のある世界だ。いちいち手動で薬莢を排出しなくても、十分に強力なライフルは製造可能である。だが、ボルトアクションの好きな現代プレイヤーのために少しだけ単発式のスナイパーライフルが用意されているのだ。


『制限かけないとゲームバランス壊しちゃうからね』


 いま手に持っているのはボルトアクション式スナイパーライフルの「dragoon B」だ。名前の由来はよくわからないが、試し撃ちをした感じではLast one のSV-98 に似ている。装填数は8発。7.62mm弾に似た大きさの弾丸を使用する。

 ナミ猫は制限無しなので、アサルトライフルとハンドガンを持っている。


『じゃ、はじめまーす。ポチッとな』


 ナミ猫が画面上でクエスト開始をクリックしたらしい。Quest Start の文字が表示されると、遠くのドアから大きな蜘蛛のような生き物が走ってくる。

 距離は50mほどあるが、図体が軽自動車ほどの大きさなので当てやすい。ナミ猫が数発叩き込み、ミナズキのヘッドショットで絶命する。

 続いて左右の通路からも蜘蛛型のモンスターが、ドアを蹴破って侵入してくる。

 左の一匹を始末した後、右の蜘蛛が上へ糸を吐き出し、天井へ張り付いた。


「うわ」


 ミナズキは思わず引いてしまうが、冷静に次の行動を予測していた。

 天井から飛びかかってくるんだろうと予想し、遮蔽物に隠れる。廃棄された宇宙船のエンジンなので、人間なら余裕で隠れることが出来る。そこへ蜘蛛が飛び降りてくるが、鉄の塊を破壊する力はないようだ。

 サブマシンガンに持ち替えて、近距離から20発ほど叩き込む。蜘蛛は崩れ落ち、エフェクトとともに消え去った。どうやら20発もあれば倒せるようだ。


『盛り上がってきたぁああ!』


 次々に敵が増えてくる。4人コンテンツというだけあって忙しくなってきた。

 撃つ。リロード。撃つ。敵の数と位置を確認して倒す順番を決める。撃つ。移動。リロード。撃つ。

 素早い状況判断と正確な射撃、そして連携。なるほど、エンドコンテンツになるわけだ。


『弾!弾!』


 叫びながらナミ猫が補給へと下がっていく。下がり際に置いていったグレネードが爆発し、熊のようなモンスターが吹き飛び、蜘蛛型の足が止まって侵攻の足が止まる。


『ごめんちょっと見てて!』


 グレネードの足止めもそう長くは持たない。仕方ないのでミナズキも少し下がって武器をサブマシンガンに持ち替える。

 大抵のオンラインゲームにはヘイト値というものが設定されてあり、最もヘイトの高いプレイヤーに攻撃が向く仕様となっている。つまり、複数の敵に少しずつ弾を叩き込むと、ヘイトが自分の方へ向いて追いかけてくるようになるのだ。

 そのまま複数の敵を引き連れてぐるっと格納庫を周る。敵はプレイヤーに向かって一直線に進んでくるため、うまいこと障害物に引っ掛ければ時間稼ぎが出来る。

 サブマシンガンのフルオートで1番近くの敵を倒し、また走る。もちろんそれで全ての敵が倒せるわけではない。

 猿のような素早い敵が大きな跳躍で距離を詰め……その身体を、横から飛んできた複数の銃弾が貫いていった。


『おまたせー!待った?』

「あ、えっと……いま来たとこです」


 補給を終えたナミ猫が戻ってきたのだ。


『おいおいそんな粋な返事、どこで学んだんだい?成長したねえ』


 補給を済ませ、軽口が叩けるほど余裕が生まれてきた。さぁ残りの敵も片付けようと銃を構えたとき、ミナズキがなにかに気づいた。


「……読み込み?」

『メタい読みをしないの!確かに一瞬カクついたけど!』


 ここには敵が多く、オンラインゲームの言葉で言うなら重いマップだ。そこへ新しいイベントが開始されると更に重くなり、一瞬だけ画面がカクつく。あくまで少しだけなので、上級プレイヤーでなければ分からない程度だが、この二人には気になってしまう。


「次のフェーズですかね」

『多分大きなロードが入ったっぽい。端へ寄っておこうか』


 と言った次の瞬間。


『は?』


 爆発とは少し違う。横からやってきた圧倒的な質量で吹き飛ばされたと言ったほうが正しい。

 上を見上げると黒い宇宙が見える。そこへ赤く光るふたつの眼……。


「ドラゴン?」

『だね』


 ファンタジー世界でよく見るような灰色のドラゴンがふたりを見つめていた。

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