43 #PR
漆黒の空には満点の星空が見える。
ここでは昼が訪れることはない。頭上には太陽のような赤い恒星が小さく見え、そのおかげでライト無しでも周囲がよく見える。
周囲は植物が育つことがない灰色の岩肌がどこまでも続き、どの方角を見ても似たような景色が広がっている。一見すると退屈な風景だが、頭上に見える美しい銀河が見るものの心を奪う。
まずはじめに「月のようだ」と思った。だが、月から大きく見えるはずの地球がここからは見えないし、太陽もない。
よく見てみると、遠くに動いている何かが見える。6本足の大きな蜘蛛のような生き物だ。その近くには硬そうな外殻の亀に似た生物がいる。
『はい!というわけで、ここが最初のマップだよ』
陰鬱な景色を吹き飛ばすような元気な声が聞こえる。
『今日はワタクシ、ナミ猫と、ミナズキちゃんの二人で、間もなくサービスが開始されるシューティング型MMORPG「Black Hope」をやっていこうと思います!』
「よろしくお願いします」
『元気だしていこう!というような雰囲気の世界じゃないけど……まぁ、星空は綺麗だからヨシとしましょう』
ヘッドセットの向こうから元気な声が聞こえてくる。
今日はナミ猫とオンラインで動画収録だ。ナミ猫が新作ゲームの紹介案件を受けたということで、美波にも声がかかった。これが初めての仕事だ。
生配信ではないので、コメントや進行のペースを気にする必要がない。しかもナミ猫が引っ張ってくれるのでかなり気が楽だ。
『説明しよう!Black Hope とは、ガンシューティング、MMORPG、宇宙探索を合わせたオンラインゲームだ!我々ユーザーはこの広大な宇宙を舞台に、新たな星の開拓、資源の確保、そして危険な生物の排除をこなしていくことになる!もちろんオンラインゲームだから、他のユーザーも参加してくるぞ!時に手を取り、時に競い合いながら、この宇宙に隠された秘密を解き明かしていくのだ!』
ナミ猫が元気いっぱい且つ台本通りに説明してくれた。
画面上には、ふたりのキャラクターが表示されている。宇宙服を着ているが、SFの話ということで、現代の宇宙服よりも小さい。サイズ的にはアイ○ンマンほどだ。
手には小銃のような武器を持っているが、SF映画に出てきそうな見た目をしていて、おそらくこれも架空の銃だろう。ところどころがゲーミングデバイスのように光っているが、バッテリーを食わないのだろうか。などと考えてしまう。
今日はナミ猫が説明をして美波がそれを聞いていくという形式で進行するため、あまり事前の説明を受けていない。視聴者目線で色々聞いていくのが美波の役割らしい。
『ボクたちユーザーはフリーの冒険家なんだけど、今日はタリッドカンパニーという資源会社からの依頼で、この星にある鉱石を採集に来たよ』
「モンスターみたいな生き物がいますね」
『そのとおり!ここは危険な宇宙生物がいる星なんだ。安全な星ならわざわざお金出してボクたちに依頼しなくても掘れるからね』
「たしかに」
『武器はメインとサブで2つ持てます。メインは遠距離のスナイパーライフル、中距離のアサルトライフル、近距離のショットガンなんかがあって、他にもライトマシンガンとかミサイル系の武器もあるらしいけど、まだ出てきません。サブはハンドガンかハンマーなどの近接武器を持つことが出来るね』
「よくある感じですね」
『変わった武器ばっかり実装しても理解しにくいからね。で、ボクはショットガン使うから、ミナズキちゃんはスナよろしく。スーパーなエイムでバリバリ撃っちゃって!』
「はい」
美波が持つ武器は、SR-C9という名前のセミオート狙撃銃だ。装弾数は20発。セミオートなので、次弾の装填は自動でやってくれる。
【指定地点のモンスターを排除しろ】
画面右上にはクエストの内容が表示されている。マップを見ると、北西の方向に赤い丸印がついていて、そこの敵を倒せばいいらしい。
『最初のクエストだけあってチュートリアルも兼ねているし、目的地はすぐそこだからササっと移動しようか』
「わかりました」
指定地点には直径1mほどの丸いエフェクトが浮かんでいる。調べてみると、【モンスターの気配がする……】との表示があらわれた。
『むむっ……!モンスターの気配!』
ナミ猫はわざとらしいい口調で叫ぶ。
直後、北の方角から狼のようなモンスターが走ってくるのが見えた。最初のクエストだけあって数は1匹だ。
『さぁ撃っちゃって!』
撃てと言われたので素直に撃つ。マウスを右クリックしてスコープを覗き、ただまっすぐに入ってくるモンスターを視界に捉えた。
ヘッドショット判定はあるのか?と疑問に思ったので、胴体と頭に1発ずつ撃ってみた。
ダメージは11と21。どうやらヘッドショットはあるらしい。いや、色々な形のモンスターが出てくることを考えたら弱点判定と言ったほうが正しいかもしれない。
2発の攻撃でモンスターは倒れ、霧のようなエフェクトと共に消えていった。
『ナイス!さぁまだまだ来るよ!』
続けて2匹。4匹と数が増えていく。
要領は分かったので、ちゃんと頭を狙って弾を叩き込んで倒していく。ヘッドショットなら一発で倒せるみたいだ。
『ヘイヘイ。残してくれてもいいんだぜ?』
「あ、つい……」
隣でナミ猫がショットガンを西部劇のガンマンのようにくるくる回している。そういうエモートがあるのだろう。
『さぁ次はたくさん来るよ。頑丈なスーツを着ているからある程度ダメージを受けても大丈夫。近づかれたら冷静にハンドガンに切り替えて……もしくはボクが……ショットガンで………………ちょっと?』
静寂が訪れる。
ヘッドセットの奥で、ナミ猫がスーッと息を吸う音が聞こえた。
『高難易度クエストに挑戦できないか、メーカーさんに相談してみるね』
◇◆◇◆◇
From BHプロモーション班
To 北野英美里
PR動画の件
動画最高でした!
次回はもっと難易度の高い企画を考えておきますので、是非よろしくお願いします!
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