36 前哨戦

『さぁ第9試合、第3の安全地帯。南西に記念館、北西にマーケット、北東は山。中心部はなだらかな丘陵地』

『記念館とかマーケットとかはいずれ外れますからね。中へ移動するならそろそろですよ』

『優勝争いのチームですと。現在記念館にHunters、マーケットにKick Rob、山にRainbow squad』

『安全地帯の外れ具合では、ここで優勝か決まりかねません。ここからはすべてのプレイが注目です』



 そのとき、Rainbow squad は山の中腹に隠れていた。山といっても徒歩で登ることは可能で、ゴツゴツした岩で姿を隠せば下の連中からは見えなくなる。

 遠くで鳴る銃声や車の音、流れていくキルログを見ながら息を殺して潜む。

 16チームが入り乱れるバトルロイヤルゲームでは、戦うタイミングが重要である。時には潜み、時には一気呵成に攻め込む。そういう押し引きがチームの勝敗を分けるのだ。

 大会も終盤ということもあり、4人とも軽口も叩かずに押し黙っている。


 一方でKick Rob はマーケット南東部の家に籠もっていた。そろそろ安全地帯から外れるだろうが、周囲の敵がもう少し減ってからでも遅くはない。


 Hunters は南西の記念館。このMontijoというマップは、ちょっとした観光地をテーマに作られているので、島の歴史を紹介している記念館があるのだ。

 大きな3階建ての建物だけあって、モンティホ囲の索敵にちょうどいい。

 今回の安全地帯は北に寄ったので、南から移動するチームがいくつかある。記念館を飛び越えて中心部まで移動するチームが多く、混戦状態にあるようだ。


「まだ早いな。次のフェーズを待とう」


 ReAtack のセンサーが危険を捉え、待機を選択。


 そうして訪れた第4フェーズ。安全地帯は張り付くように北東に寄った。

 マーケットの南東部をやや掠めているため、Kick Rob はまだ様子を見るらしい。Rainbow squad もそのまま様子見だ。


 一方で移動の必要があるのはHunters だ。想定しうる中で最悪のパターンを引いた。


『大きく外れてしまったのはHunters 。優勝に向けて、ここが正念場か!?』

『まさしくその通りですね。ここでポイントを稼がないことには、最終戦で引っくり返せません』


「移動準備だ。安置の収縮に合わせて移動する。場所は林だ」

「オッケー。任せろ」

「まぁそうなるか。やってやろうぜ」


 仲間から頼もしい声が返ってくる。

 北東の山の麓には、狭いながらも木々が生い茂る林が存在する。安全地帯沿いを反時計回りに進めばちょうど到着する。

 そのまま真っ直ぐ中心部を目指す手もあるが、それだと周囲からの射線が通りやすく、終盤まで持ちこたえるには心もとない。だが、林であれば視界を防ぐ木がたくさんあるので、その後の動きが楽になる。

 賭けに近い動きになるが、ここの選択の重要性は皆理解しているので、反対意見は出ない。全員腹を括ったようだ。


 林では2チームが牽制しあっていた。AmazonZアマゾンズstone stoneストーンストーン だ。

 山の上には別のチーム(Rainbow squad)がいる上に、場所が悪ければ平地から撃たれる危険性があり、互いに動くに動けない状況だ。

 そこへ南方向から車が侵入してきた。そのチームは車両と木を使って上手く侵入すると、スモークや手榴弾を使って近い方に敵──stone stone に攻撃を仕掛けてきた。

 被弾を避けようと場所を変えると、他所から攻撃が通る。ジワジワと追い詰められて一人ずつ倒れてしまう。


 南からの侵入者がHunters と分かったstone stoenは、一か八か北へ移動。AmzonZとぶつかることにした。


『stone stone はAmazonZ 側へ!』

『面白いことをしますね。まぁどちらへ行こうともしんどい状況ですが』

『おっと手榴弾がいいところに落ちてAmazonZ がひとりダウン!』

『人数差が縮ましました。わからなくなりましたね』


「おいReAtack。向こうでやりあってるみたいだ。行くか?」

「ちょうどいい。今のうちに稼げるだけ稼いでいこう。だが、引き際は見誤るなよ」

「了解!」


『Huners もプッシュ!山の上からも池の反対からも射線が通る!一体何チームもログが流れるんだ!』

『池側のcool runner も前へ出すぎると危ないですよ』

『あぁ!山の上からPowerGG選手の狙撃!ひとりダウンだが、これは助けられそうだ。中心部は大混戦!しかしどのチームもギリギリで耐える!全滅まではしません!』


 林は混戦だ。中は3チームが入り乱れ、外から複数のチームが狙いを定める。だが、欲を出すと自分がやられる。

 不思議なバランスの上で今の状況が成り立っている。


 そうこうしているうちに次の安全地帯が表示された。


「うーん外れたかぁどうするかなぁ」

「もしかして、私達も林に入らないといけないですか?」


 雫が恐る恐る確認をするが、どう考えてもそのルートしかない。


「池の畔にいた、cool runner だっけ?あいつらも林に入るだろうから、後ろをついていくよ」

「おし!戦いですね!」

「すみれ、慌てないでよ」

「大丈夫。ゆっくりね」

「美波もOK?」

「おっけー」


 収縮が始まる時間になって、安全地帯がゆっくりと迫ってくる。林では散発的な銃声が聞こえてくる。

 絵麻の目に池の畔から林に入っていくチームが見えた。山の上にRainbow squad がいることは分かっているはずなので後ろをしきりに警戒しているが、絵麻は草むらの影からスコープを使ってのぞいているので、こちらの姿には気がついていない。

 4人はゴツゴツした岩肌を飛び降り、ゆっくりと歩いていく。


 林の入り口で止まると、中から銃声が聞こえてきて、cool runner とAmazonZ のログが流れる。

 この2チームの向こう側にston stone とHunters だ。人数が欠けているチームも多く、自分たちにとって状況は悪くない。

 後はベストなタイミングで介入できれば……。


 その時、西の方から3台の車が林へ突入してきた。


「うげ!マズイな」

「でも、もう少し林に入らないと安置から出ちゃいますね」

「うーん……様子がわからないな」


 林はわずかな起伏と木々、そしてスモークが邪魔で、奥の方まで見えるようで見えない。人がいるとか、マズルフラッシュが見えるとか、わずかな情報は拾えるものの、全容までは掴めない。

 どこかのチームが全滅し、勝ったチームが回復をする前に攻撃をしかけたいのだが、どのチームもギリギリで踏ん張っている。


「絵麻」

「なに?」

「行こう。待っててもタイミングはこないと思う」


 絵麻は林に突入するタイミングをはかっているが、安全地帯はすぐ背中まで迫ってきている。このままでは飲み込まれて全滅だ。

 美波の経験上、この状況でベストなタイミングなどやってこない。結局の所、自分からアクションを起こしたほうが勝率はあがる。


「わかった。みんないいね?」

「おっけーです!」

「了解です」


 まずはスモークを林の中へ投げ入れて視界を限定させる。

 奥の方では銃声。新しく入ってきたチームはRED mensレッドメンズ らしい。

 どのチームも満身創痍のはずだ。恐れてはいけない。


 ゆっくりとクリアリングをするすみれの視界に、しゃがんでいる敵の姿が入る。ふと目があった気がして、さっと身を隠す。隠れた直後、激しい銃声と共にたくさんの銃弾が飛んできた。

 目が合ったときは、下手に撃たずに隠れるように指示している。すみれの場合、正面切って撃ち合ったときの勝率はあまり高くない。


「敵1!」


 報告が飛び、雫と絵麻が動く。3人が複数の方向から囲むように飛び出し敵を倒す。


「気をつけて!まだいるよ!」


 倒した敵はcool runner の一人だったが、普通ならすぐにカバーが来る。が、敵が動く気配はない。

 敵は既に人数は減っているし、この状況で無理に撃ち合うより、隠れて1キルを取る選択をしたのだろう。

 煙と木が邪魔してどこにいるかはわからない。


 じりじりと前進をする。

 美波の左前方から銃声。FAMASの5.56mmがいくつか身体に命中するが、美波の神業的フリックが素早く敵を捉え、逆にAKMのフルオートが敵を襲う。

 ライフを大きく削られるものの、無事に敵をダウンさせる。


「まだいる」


 あくまでダウンだ。確定キルではない。

 まだ敵が潜んでいる。


 スッと銃声が止んだ。わずかな膠着状態。隠れた敵が見つからず、かといって派手に動くわけにはいかない、絶妙な均衡が生まれていた。


 背中からやってきた安全地帯が、美波のすぐ後ろで止まる。

 新しい安全地帯は再び北側に寄った。


 動く必要がない分、膠着状態が続きそうだった。

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