37 そして舞台は整った

『さて、おさらいしましょう。現在第6フェーズ、安全地帯の4割から半分くらいを、東側の林が占めています。北端で4名生存がRainbow squad、その近くで一人だけ生き残っているのがcool runnerクールランナー、その近所にいるのがAmazonZアマゾンズ 2人とstone stoneストーンストーン 一人、そこに先程突入してきたRED mensレッドメンズ 3名、そして南端に4名いるのがHuntersハンターズ

『林だけで6チームですか……よく生き残れますね』

『全くです』



 嵐の前のような静けさに包まれている。この林は南北100m、東西50mほどの面積だ。それなりの広さがあるように思えるが、銃で戦うには狭い。

 Rainbow squad は一気に林に攻め入ったものの、今は足止め状態だった。


「かなりの混戦だからね。出たとこ勝負になるかもしれない、じゅうぶんに気をつけて。すみれと雫はもっと近くに」

「「はい」」


 絵麻のすぐ右前方でスモークが焚かれる。

 直後、左前方で軽い音の銃声。


「逃げた!」撃ったのはすみれのようだ。

「追わなくていいよ」


 この状況で無闇に前へ出過ぎると、隠れている敵に手痛い一撃を喰らう可能性がある。

 林の外では銃声が続き、Kick Robキックロブ が敵をなぎ倒しているらしい。


 睨み合いが長いほど、その後の展開はあっという間だ。


 始まりはAmazonZ とcool runner の遭遇戦だった。激しい銃声がいくつも重なり、AmazonZがひとり倒れる。

 それを皮切りに各チームが動き出す。


「敵!」

「無理しないで!」


 いくつもの銃声と手榴弾の爆発音が続く。


『各チーム動き出す!Hunters もこの機を逃さない!』


 戦いの音がが絶え間なく続き、数名の敵が倒れる。


『cool runner がここで全滅!AmazonZ は一人起こせるか⁉』

『無理でしょうね』

『そのようです。蘇生は諦め、隠れて回復』


 銃弾が美波の耳を掠め、はるか後方では車の爆発音がする。


「これどうなってるんですか⁉」

「追わないで!前へ出すぎないように!」


 戦場は大きな混乱に包まれている。

 冷静になろうにも、戦場の騒音が味方のボイスチャットをかき消してしまい、引っ張られるように前へ前へと戦線を伸ばされていく。


「すみれ!そこまでだよ!倒さなくていいから!」


 プロであれば一旦引くこともできただろうが、アマチュアである高校生には難しい話だ。


『RED mens も残り一人!押しつぶされるように中央のチームが崩れていきます!』


 残り一人のチームがスモークを撒き散らし、一体が白い煙で包まれる。


「引いて!下がるよ!」


 絵麻の指示で全員が下がろうとするが、タイミングがやや遅かった。

 先頭のすみれと雫の眼前、スモークと木の合間からHunters の一人があらわれた。運良く違う方向を向いていたため、ふたりのサブマシンガンが敵を葬り去った。


『ついにRainbow squad とHunters が激突!』


「もうそんな所に……?前に出過ぎたか」


 意図していたかどうかは別として、遭遇してしまった以上は決めなければならない。

 戦うか、引くか。


 だがここで安全地帯の更新が入る。次は林が全て外れて大きく西へ。


「こんなときに……ふたりとも引ける!?安置外れた!」

「なんとかします!」


 しかしここでHunters の一人が前へ出てくる。

 下がろうとしたすみれにアサルトライフルの銃弾が襲いかかる。


「危なっ!死にかけた!」

「カバーする。回復して」


「大丈夫?」

「先輩方は先に行ってください。時間は稼ぎます」


 時間は刻一刻と進んでいる。このままでは時間を無駄に浪費することになるし、今は林の外の様子もわからない。ひとり生き残った敵が、なんとか1ポイントをもぎ取ろうと狙っている。


「絵麻、先に行こう」


 絵麻の一瞬の迷いを感じた美波が意見を出す。

 ゲームとはいえ、仲間を置いていく決断は心が痛むものだ。そこへ仲間から賛同されれば決断もしやすい。


「わかった。なんとか頑張って」


 絵麻と美波は林の外、つまり西側へと足を向ける。


 一方で、すみれと雫は殿として役目を果たそうとしていた。相変わらず濃いスモークの中、近い距離を保ったまま先ほど敵がいた場所へ近づいていく。


「冷静に。勝てる勝てる」すみれが自らを鼓舞するように呟く。


 カンっ!という音がする。ふたりの目の前へスタングレネードが投げ込まれた。


「スタン!」


 すみれがサッと後ろを向き、対象的に雫は前へと飛び出す。

 前へ飛び出たことで、スタングレネードは雫の後ろで破裂した。音は聞こえなくなるが、視界はわずかに揺れる程度に収まった。


 次の瞬間、木の裏から敵が出てくる。すぐさまフルオートで敵を狙うが、敵もエース帯の上級プレイヤーだ。ライフを半分ほど削ったところで返り討ちにされてしまう。

 しかし、倒れる雫の後ろから、顔を上げたすみれがあらわれる。

 敵は一人倒したと油断していた。しかも雫によってライフが半分ほど削られている。素早い反応によってすみれに反撃を加えるが、撃ち出しの一瞬の差を埋めることは出来なかった。


「倒した!」

「まず回復して。周囲にまだ敵がいるかも」


 その時、すみれのすぐ後ろに手榴弾が落ちてきた。


「あ、死んだわ」


 RED mens の生き残りが投げた手榴弾だった。

 逃げるまもなく爆発し、すみれもダウン。

 確定キルを取ろうとRED mens の生き残りが出てくるが、煙が晴れて視界が通った隙間を、ReAtack レアタックが狙撃銃で頭を撃ち抜いた。

 そして林の中で立っている者はいなくなり、Hunters 、Rainbow squad のダウンした4人を、狭まった安全地帯が飲み込んだ。




 林の西側では、外へ出ようと絵麻と美波が様子をうかがっていた。外ではKick Rob が大暴れしているらしい。


「南の方からHunters が出てくると思うから、煙で視界を切りながら出ないと駄目だね」

「スモークならたくさん回収してきたよ」

「よし」


『各チームが安全地帯に入ろうとうかがっています。西端のKick Rob も外れましたから、どうやって入りますかね』

『西の方にちょっとした窪みがありますから、そこへ車で行くのではないでしょうか』

『あ、動きましたね。望海さんが言った通りになりそうです』


 絵麻と美波から見て西から、2台の車が走り出していた。

 だがタイミングが少し早かった。Rainbow squad とHunters の生き残り全員から激しい縦断を浴び、先頭の車が爆発して吹き飛ぶ。この爆発でKick Rob 2人が退場、一人は既に倒れていたため、残りはFENRiRフェンリルひとりだ。


 安全地帯の北東にRainbow squad がふたり、南西にHunters がふたり、中央やや西にKick Rob のFENRiR。

 残り5人。


「まだ行けるわぁ!」


 気合を入れたFENRiR が窪みから顔を出して撃ち始める。

 セミオートのスナイパーライフルを各方向へ、牽制するかのような射撃だ。そのうちのひとつが美波に当たる。


「当たった。回復する」

「あれ厄介ね」


 どうしようか思案していると、FENRiR の手榴弾でHunters のひとりがダウンした。起こされまいと更に続けて手榴弾を投擲。


「美波、あと頼んだよ」


 絵麻はそれを好機と捉え走り出す。

 その姿はReAtackから丸見えだったが、撃ってこないだろうと踏んでいた。事実、厄介な位置にいるFENRiRを片付けてくれるからと泳がされ、数秒間の移動中、一発の弾も飛んでこなかった。

 FENRiR が4つ目の手榴弾でHunters の確定キルを取ったとき、絵麻がすぐ近くまで来ていた。


「後ろが隙だらけだよー」


 絵麻はFENRiRの背中に5.56mmの銃弾を雨のように撃ち込む。

 FENRiRがゲームから退場したところで、絵麻の頭部にReAtackから銃弾のプレゼントが届き、銃弾が飛んできた銃弾で絵麻に確定キルが入る。


「美味しいところは残しておいたから、あとよろしくね」

「ん。任された」


『さぁ第9試合も最終盤!残り人数はふたり!minazukiとReAtack!』

『こういった状況でのふたりの戦い、全員が待ち望んだ展開ですね』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る