32 +8

 Rainbow squad の集落に向かっているチームは、中国・四国大会を2位で勝ち上がってきた4countryフォーカントリー だ。

 血気盛んな彼らは撃ち合いに自信を持っていて、ぜひともminazuki と戦ってみたいと熱望していた。本来ならば別の場所へ向かったほうが良かったのだが、千載一遇のチャンスとばかりに乗り込んでいき、そして返り討ちにあった。


 ひとりは遠距離からスナイパーライフルで頭を撃ち抜かれ、ひとりは到着直前にアサルトライフルで落とされ、もうひとりは到着直後に手榴弾でふっ飛ばされ、最後の1人は絵麻に後ろから撃たれて倒れた。


「まじかーつえええ」

「スナのヘッショ、狙ってやったよな」

「車乗ってる敵の頭抜くとか、普通まぐれじゃないと出来ねえよ……」

「大会じゃなかったらチートで通報してるわ」

「よし、次はHunters だな!」

ReAtack レアタックは倒す!」


 彼らにとって重要なのは、優勝よりも強いやつを倒すことだった。


 ともかく、これでRainbow squad は8キル。キル数のぶんだけ、2位のHunters との点差が広がっていく。

 全員で周囲を警戒するが、次の敵が近づいてくる様子はない。


「私も1キルとりたいなぁ」

「すみれはちゃんと役割を果たしてるよ」

「分かってるけど。それはそれ、これはこれよ。雫は敵を倒したくはないの?」

「うーん……私はちゃんと役割を果たしてチームが勝てば満足かな」

「むぅ……優等生め」


 敵が来ないと、軽口のひとつやふたつ出てくるものだ。だが、集中力が続く時間には限度があるので、合間にちょっと息を抜く時間も必要だ。頭を使うのは絵麻の仕事だ。


 キルログを見ると、おそらく学校付近だろうか、戦いが起きていてKick Rob キックロブberabou ni tsuyoiべらぼうにつよい を全滅させている。これでKick Rob も35ptでHunters に並んだ。


『すでに3チームが全滅。まもなく第3フェーズへと移ります』

『安全地帯の寄り方に比べてペースが早いですね』

『次は、大きく北東へ。展望台やコルパの町が外れます。学校が南端、マーケットはわずかに入りますが、これはほぼ外れたも同然。中心は3連丘と呼ばれる場所になります』


 スタジアムの北、マーケットの西には横に細長い丘が3つ並んでいる。(このレベルの起伏を丘と呼んでいいのかは微妙なところではあるが、ともかくみんな丘と呼んでいる)

 ここには細かい起伏がいくつかあるので、わりと射線を切ることができるのだ。

 なので、今回の安全地帯は町や建物が大きく外れたが、入る場所は結構残っていることになる。


 一方でRainbow squad のいる場所は、安全地帯の西側ギリギリだ。


「むむ。ギリギリ入ったけど……移動したいな」

「いつでも動けます」

「同じく!」

「よし!3連丘に行こう」


 4人それぞれ3つの車に別れて移動する。

 美波が運転しないのは助手席から敵を撃つためだ。移動する車からの射撃は、かなりの上級者でないと出来ない離れ業だが、もちろん美波なら可能だ。


 一行は3連丘の北へ到着。直径10mほどのクレーターのような凹みに入り、北側に車両を置けば全方向から撃たれなくなる。


『Rainbow squad 、いい位置に入ります。全チーム、戦いにならずに場所を確保しましたね』

『3チーム欠けているので、このフェーズは平和そうですね』


 全員で分担して周囲を警戒。あらゆる方向から銃声がする。フェーズが進むごとに銃声が近くで聞こえるようになり、次に入れる場所なんてないんじゃないかと不安になってくる。


「絵麻」美波が呼ぶ。

「どうした?」

「早いうちにお隣さんを潰したい」


 3連丘にはクレーターのような凹みが複数あるので、Rainbow squad の近所にも別チームが隠れている。

 そこを放置していると、安全地帯が外れたときに足を引っ張り合って共倒れになる可能性が高く、そうなる前にさっさと潰しておきたいと、美波は言っているのだ。

 もちろんリスクはあるし、今後安全地帯が寄り続ければ戦わなくても順位は伸ばせる。

 しかし、他ならぬ美波の言葉だ。言語化出来ない理屈があるのか、上級者の直感か、少なくとも、絵麻の耳には説得力があるような気がした。


「1ダウン取れたらいこう。すみれ、雫、スモーク構えてて。ダウン取れたら投げて突っ込むよ」

「りょうかいです!」


 美波はスナイパーライフルを構えて敵、東方向を見る。稜線の上からモグラ叩きのように頭が見えたり隠れたりしている。

 1…2…3…。このモグラ叩きには独特のリズムがあり、それを掴めば頭が出る一瞬を狙うことができる──と美波は言うのだが、はっきり言って絵麻には理解できていない。

 だが、その言葉が嘘ではないということを、美波が目の前で証明してみせた。


 発砲音と共に稜線の際で被弾エフェクトが飛び散り、同時にダウンログが流れる。敵はsakurazima桜島 だ。


「GO!」


 絵麻の言葉を合図にスモークグレネードが投げられ、2チームの間に煙のドームが2つ出来上がる。

 敵は選択肢を突きつけられる。仲間を起こすか、3人で敵を迎え撃つか。

 sakurazima は後者を選択。手榴弾や火炎瓶でダメージを与えつつ迎撃──をしようとした直前。絵麻の投げた閃光弾が炸裂、視界が真っ白になり、音が聞こえなくなる。

 手にしていた手榴弾を投げる先が分からなくなり、適当に投げた結果、明後日の方向へ飛んでいきダメージにはならなかった。


 次に稜線を壁に迎え撃とうとしたが、続けざまに火炎瓶が着弾。1人に炎が燃え移り、回復のために後ろへ下がる。

 残りの2人が煙の中から飛び出る敵を確認。1人は美波によって瞬殺、もう1人はすみれを瀕死の状態まで持っていくものの、雫と美波の攻撃によりダウン。


「あと1!」


 先頭で飛び出るすみれが、敵の攻撃を受けてダウンする。


「車の裏!」


 ダウンしながらも敵の場所を報告。場所さえわかれば美波と絵麻で対処ができる。2人同時に頭を出して敵を補足、そのまま倒し切る。

 雫がすぐさますみれを起こしつつ周囲を警戒。


 これで合計12キル。


『Rainbow squad がsakurazima を全滅!SumireSmile 選手は3回目のダウンですが、どうやら起こせそうです。不死鳥のように復活』

『まさにタンクですね。Rainbow squad はminazuki選手の火力を最大まで発揮させるために全員が動いていますから、こういう献身的なプレーは重要です』


「安置変わります……外れました。南西です」


 次の安全地帯は南西。学校、スタジアム、3連丘の1番南、南東には大きな丘がひとつ、小さな建物がいくつか。


「ぐるっと反時計回りにスタジアムまで行こうか。最後尾だしゆっくりでいいよ」


 キルログを見ると、既にいくつかのチームが突撃を敢行しているらしい。

 残り人数は38。残りチームは10チーム前後だろうか。


 Rainbow squad は安全地帯の縮小に合わせて移動を開始、スタジアム西側へ車をつける。中までは入らずに外で様子を見る。

 ここはスタジアムといっても、サッカーグラウンドと、北側に5000程の客席があるだけの小さなところだ。電光掲示板もない。

 北以外は中が見えないように壁があるので、中から撃たれることはない。西側なら学校からも撃たれないし、今のところは安全だ。


 銃声の聞こえ方からして、すでに中には複数チームがいそうだった。

 このスタジアムのサッカーグラウンドは、何故か(正確にはゲームバランス上の理由から)テントやコンテナが積んであって、ちょっとした塹壕のようになっている。客席からは隠れる場所が少ないのだが、その客席は周囲から丸見えなので今は誰も居ない。


「ここで様子を見よう」


 このフェーズ終了までに更に人数が減る。残り29人。


『第5フェーズはさらにスタジアムと学校へ寄ります!』

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