33 FENRiR
Kick Rob 。
大阪大会、近畿大会を共に1位で勝ち上がった強豪チームである。エース帯の選手4人で構成されており、全員がプロ顔負けの撃ち合いができるという自負がある。
全員が高いレベルを求めてチームを組んでいて、中には将来プロを目指しているメンバーもいる。
そのプロを目指している1人が
チームNo.1のアタッカーであり、大会でも数少ない女子選手の彼女は、本気でプロゲーマーになるつもりで活動している。
ライオンのような金髪に、耳にはいくつものピアスの穴(ゲーム中はヘッドセットをするので外している)、今は長袖なので隠れているが、腕には魔法陣のような幾何学模様の刺青が入っている。
誰がどう見てもヤンキー。
パソコンなんて触ったこともないように見える強面だが、実際は毎日真剣にゲームプレイに取り組んでいる。
第4試合、ゲームも後半へと進み、Kick Rob はまだ学校にいた。
第2フェーズで学校へ侵入し、1チームを撃破。その後も来る敵を跳ね返しながらポイントを重ねている。
そして第6フェーズ。遂にスタジアムと学校が安全地帯から外れた。
「よし、出るぞ。ついてこい」
リーダーの
「東の高台から射線通るからな」
安全地帯の3時方向に高台がある。そこから撃たれる場所だったが、スモークを利用して身を隠して時間を稼ぐ。
北の方では絶え間なく銃声が続いている。ログを追うと、Rainbow squad が戦っているらしい。minazukiのキルログがいくつも並ぶ。
「えげつねえ」
メンバーの1人が思わず漏らす。
この試合、序盤からminazuki のログが何度も並んできた。Hunters を倒し、
「流石や」
「なんや、FENRiRはminazukiのファンなんか?」
「当たり前やろ」
「まぁ、そらそうか」
世界一と言われた匿名のプレイヤーが、女性でしかも自分と同年代の女子高生。FENRiRにとっては尊敬し、憧れる存在だ。(さっき廊下ですれ違った時は隠れられたが……)
最高に強いプローゲーマーを倒し、チーミングをしている不正プレイヤーを倒し、チーターを倒し、その力で全てをねじ伏せてきた英傑。
そのminazukiが、すぐ近くで暴れている。
身体が震える。武者震いだ。伝説のプレイヤーがすぐそこに……。果たして、自分はその伝説と戦うに見合うレベルに到達しているのだろうか。
銃声が止んだ。
Rainbow squad は2人を欠いてしまったが、依然minazukiは健在だ。
残り10名。
Kick Rob が4人、Rainbow squad が2人、東の高台と北東の小さな小屋に合わせて4人、おそらく別チームだ。
次の安全地帯は全員の真ん中。
スモークを使って少しずつ歩を進める。高台と小屋が撃ち合う。その間にKick Rob は前進。安全地帯の中心部に大きな岩がある。そこまで行けば相当有利になる。
少し進んだところで手榴弾の爆発音。仲間の一人が倒される。
「無理や、行け!」
安全地帯がすぐ後ろまで迫っている。今から起こすことは不可能だ。
高台の連中が小屋の敵を倒したらしい。自分たちのすぐ後ろに来るかもしれない。
そう思った次の瞬間──。1番前を歩いていた仲間が倒された。高台の敵は思ったよりも北へ移動していたらしい。
「木の裏!」
倒れた仲間から報告が入る。しかし敵の行動は素早かった。アサルトライフルの射撃でFENRiRが大きなダメージを受ける。岩陰に素早く隠れようとしたFENRiRの目に、手榴弾を構えた敵の姿が見えた。
これは、やられたかな……。
負けを覚悟したその時、スナイパーライフルの乾いた銃声が響き、木の裏で赤い被弾エフェクトが見えた。
minazuki → de_yuu
minazukiが敵を倒した。助かった。
「回復いそげ!廃車の裏や!」
残り3名。FENRiRとチームメイトのRundo、そしてminazukiだけだ。
「来たか。この戦いが」
回復をしながら深呼吸をする。
minazukiが相手なら、2vs1でもイーブンとは言えない。自分たちが不利とまで言えるだろう。
自分たちは安全地帯の4時方向。minazukiは11時方向だ。今は成り行き上の理由で一つの岩陰に隠れているが、このままでは手榴弾1発で仲良く吹き飛んでしまう。
「俺が角度をつける。挟み込むで」
「わかった」
1方向からの銃撃であれば、ひとつの障害物だけで防ぐことができる。しかしリーダーのRundoが8時方向の木の裏まで移動すれば、2方向から攻撃が通るので、廃車ひとつでは防ぐことができなくなる。
最後のスモークを使って、Rundoが左方向へ走る。FENRiRは岩の右からリーンをして──つまり右に体を傾けて敵のいる廃車を狙う。こうやって身体を傾けて顔を出すことによって、岩から飛び出す身体の面積が減るので、ダメージを受けづらくなるのだ。
頭に当たれば意味はないのだが……。
minazukiはFENRiRの方を見る様子はない。
「こっちに顔は出してへん」
「わかった。もうすぐ到着する」
Rundoは煙と起伏を利用して、身体をさらけ出さないよう上手く移動していた。
敵が強ければ強いほど一瞬の隙が命取りとなる。相手が伝説のプレイヤーならなおさらだ。Kick Robのメンバーは全員が上級者、そのことは重々承知している。
いや、していた筈だった……。
minazukiの能力は、そんなKick Robの想定を上回るレベルで彼らに牙を剥いてきた。
Rundoが身体を見せたのは、木の裏へ隠れる直前の一瞬。ほんの1秒にも満たない時間でしかなかった。距離も十分にあった。
普通に考えれば問題ない動きだ。
minazukiの放った10発の銃弾は、まず最初の一発がRundoの頭に命中。その後の数発が反動で上へ逸れるも、完璧なリコイルコントロールで修正された弾丸が次々と胴体へ命中。
Rundoのライフがあっという間にゼロになる。
「クソッ!なんやねんアレ!」
これで1vs1。
「落ち着けよ」
微かに手が震える。大きく深呼吸をして気を静める。
FENRiRは、かつてない集中力で燃え盛る廃車を睨みつける。
スっと周りの音が遮断される。今なら右に出てこようが左に出てこようが瞬間的に対応できるという自信が湧いてくる。
勝てるイメージしか浮かばない。
廃車の裏から何かが飛んできた。それは二人の真ん中に落ちると、白い煙を吐き出し始めた。
スモークグレネードだ。まだ持っていたのか。
つまり、minazukiは煙を利用して距離を詰めようと考えている。
そう考えた一瞬の思考が、次の反応を遅らせた。
煙が視界を消し去る直前──廃車の裏からひょこっと顔が見えた。長いスナイパーライフルに大きなスコープを付けて、自分の方をのぞいている。
煙はブラフだ。minazukiに距離を詰める気なんてない。
気がついたときにはもう遅い。
霧のように漂う煙の向こうから、パッと銃を撃つときの発火炎──マズルフラッシュが見えた。
「あかん。負けたわ」
7.62mmの弾丸がFENRiRの頭を貫き、試合が終わる。
ヘッドホンを外したFENRiRの耳に、自分に向けられたものではない大きな歓声が聞こえてきた。
「ほんまに、凄い子やわ」
さっきはFENRiRと目があった瞬間、泣きそうな顔で隠れたくせに……。
第4試合結果
1位 Rainbow squad 20kill / 30pt
2位 Kick Rob 8kill / 16pt
(中略)
16位 Hunters 0kill / 0pt
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