28 〇〇橋を封鎖せよ②

「全員近い?」

「少なくとも2人は家に張り付きそう。ひとりは離れたところから見てる。女のアバター」

「ならもうひとりいます。こっちで男のアバターが狙ってます」


 すみれが報告を入れる。どうやら2人が家に突入して、2人が離れたところからカバーするつもりらしい。


「足音がした。すみれ、手榴弾が爆発したら撃っていいよ」

「はい」


 美波は手榴弾を手に取ると、ピンを抜いて下手で窓枠にぶつけるように放り投げた。枠に当たった手榴弾は、張り付いた2人のすぐ近くに落ちる。

 この巨大なマップには無数の家屋があるが、全ての間取りを違うものにするのは無理がある。そのため、同じ構造の家屋がたくさんあるのだ。そして、美波ほどの上級者になれば、手榴弾をどこに当てればどこに落ちるか把握している。

 この家の場合、敵が裏から張り付くなら裏口の扉付近と相場が決まっている。

 結果、敵のひとりが吹き飛び、もうひとりも大きなダメージを食らう。そこへすみれのサブマシンガンの射撃が加わりダウンさせる。


「雫、家に寄せるよ」

「了解です」


 絵麻が戦いに加わるために道を渡る。


「やべダウンした!」

「どうする?引くか?」

「そうだな。いや待て、突っ込むぞ」


 RED mensレッドメンズ のリーダーの目が何かを捉え、戦うことを決めた。残った2人が手榴弾と火炎瓶を家に向かって投げる。

 それを見た美波は反対側──つまり道の方へ降りる。

 そこへ絵麻が合流、雫は離れていたのでまだ遠い。


「一気に倒すよ……あ、やばいかも」


 RED mens が見たものの正体、それは別のチームの車両だった。

 別チーム──cool runnerクールランナー は、RED mens と挟み込むように車両を停めると、まず絵麻が狙い撃ちにされた。なすすべなくダウンされるが、美波は素早く家の中へ。


「やられた。すみれと雫は来なくていいから隠れてて」


 美波は家に入ると裏口まで走り、そのまま裏手へ抜ける。既にRED mens は家までたどり着いていたが、美波が自分たちの方まで出てくるとは思っていなかったので、完全に虚を突かれた形になる。

 その一瞬の間を逃すminazuki ではない。AKMのフルオートでRED mens を素早く全滅させる。

 これでチーム7キル。

 だがその時、角度を付けたcool runner の選手が、スナイパーライフルで美波を狙っていた。

 弾を胴体に受けて美波のライフが大きく削られる。急いで家に戻って回復しようとするが、既に家の中まで敵が詰めてきていた。

 美波は、神業的反応でひとりをダウンさせたが、後ろにいたもうひとりのカバーで倒されてしまう。


「やるなぁこのチーム」


 美波は素直に賞賛を送る。やはり全国まで勝ち抜いてきたチームだ。抜け目がない。


「すみれと雫はそのまま隠れてて」

「はい」


 絵麻も美波も確定キルを取られた。もう復活は出来ない。これでこの試合を、すみれと雫の2人で戦うことになった。


 cool runner はダウンしたプレイヤーを起こす。すみれと雫を探して倒していきたいが、次の安全地帯が空港側に寄ったことを見て、車に乗って中央の橋へ去っていった。


「助かったぁ……」


『さぁminazuki 選手のキルを取ったcool runner は、全員で中央の橋へ向かいます』

『橋を封鎖しているバスとジープを退かせるか分かりませんからね。動かしてみるには残った2人が怖いですし、それなら中央から渡った方がいいとの判断でしょう』

『この判断に助けられたのはSumireSmile、Dropの両名です。この2人はプラチナ帯の選手なのですが、プラチナ帯は全国大会に出場している全選手のうち、この2人だけなんですね』

『そうなんです。でも関東大会の様子を見る限り、簡単に倒されるとは思いません。頑張って欲しいですね』


「うちらが残っちゃったかぁ」

「仕方ないよ。まず車を退かそう」


 封鎖している車両のうち、ジープの方を動かす。タイヤがパンクしているが、時間をかければ隙間くらいはできる。これならバイクで通ることができるだろう。

 Rainbow squad は、どの選手が生き残るかで戦力が大幅に変わる。今回は強い方の2人が倒れてしまうという悪い方の結果になってしまった。


「ここから猛者の集う島へいくのね」

「すみれ、もしかしてビビってる?」

「はぁ!?誰に言ってんの!?」

「大丈夫ならいいよ。ビビってるなら私が守ってあげようと思ったんだけど」

「あんたに守られるほど落ちぶれちゃいないわよ!見てなさい!華麗に戦って、誠くんにしっかりと解説してもらうんだから!」

「なら頑張って」

「あんたも頑張るのよ!」


 上手いこと乗せるなぁと美波は感心する。自分は乗せられる側だから、たまには英美里を手玉に取るようなことを言ってみたいと思うが、それには100年早いだろう。


「今回は7キル取れたし、結果は上々だよ。あとはすみれと雫で、最低1キル狙っていこう!」

「了解です」


 雫が運転するバイクの後ろにすみれが座る。

 後ろから安全地帯が迫ってきており、それに合わせてバイクが進み出す。


「おっしゃ!どこへなりとも連れて行けぇ!」


 全速力でバイクを走らせる。遠くから撃たれるが、バイクという小さな的に当たることはない。

 2人は空港島の北東に広がる林へと突っ込んでいく。そこには何の為に設置しているか不明な小さな倉庫があり、2人で潜むにはちょうどいい大きさだった。


『Rainbow squad の生き残り2人は北東の倉庫へ。しばらくは耐えられそうです』

『安全地帯が外れなければ、ですが』

『さぁ注目の第3の安全地帯は……東!入りましたSumireSmile、Drop両名』

『西は外れましたから、ここから激しくなりますよ』

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