29 プラチナの戦い
第3の安全地帯が表示されて、閉まりきるまでを第3フェーズと言う。
今回の第3フェーズは空港島の東。まだ海が入っているため、西側のチームが大きな移動を強いられた。
当然西端のチームは移動するのだが、決断を迫られるのは中央のチームも同じだ。西から入ってくるチームと戦って今の場所を防衛するか、更に中心部に向かって移動するか。
無理に戦ったところで、次の安全地帯に入るとは限らない。ならばさっさと逃げて敵にくれてやるのも作戦だ。
『各チーム移動を開始します』
『すでに3チーム全滅して、数名欠けているチームもありますからね。そこまで渋滞はしそうにないですね』
現在、Rainbow squad が全滅させた RED mens 以外にも、2チームがすでに全滅している。ペースとしては早いが、そのぶん中盤で戦いが起きにくくなる。
北東の小屋に潜んでいるすみれと雫の耳にいくつか銃声が聞こえてくるが、キルログは流れてこないので、牽制程度の撃ち合いしかしていないのだろう。
「敵さんたち、もっと減ってくれないかしら」
「住宅地と倉庫にたくさん隠れてそうだから、そこが外れたら動くでしょうね。しばらく暇してなよ」
「ここが外れたらどうしますか?」
「うーん。駐車場の事務室かなぁ。美波はどう思う?」
「それでいいと思う」
『さぁ、静かな第3フェーズも終了し、第4の安全地帯は……東。空港施設が大きく入っています』
『ここからですね。倉庫と住宅地が外れました。試合が動きますよ』
「車の音」
「大丈夫。来ない」
すみれが東側を走る車両音に気が付くが、小屋より更に東、海岸方向へと去っていった。そこで激しい撃ち合いが発生する。どうやら先客がいたようだ。
「おぉ……やってるやってる」
「誰か来るかな?」
「小屋まで来るのは、1人か2人しか残ってないチームだと思うよ」
絵麻の予測は正しかった。まさにその話をしているとき、ひとりだけ生き残った選手が小屋に向けて車を走らせていた。Rainbow squad が橋で最初に罠に嵌めた、
島の南端に潜んでいた彼だったが、安全地帯から外れたことによって、危険を覚悟で小屋まで移動を決めた。
いくつかの銃撃を受けたが、運良くプレイヤーにダメージは入らず小屋まで到着することができた。パッと見た感じ先客はいないように見えたが、それは雫が木の裏にバイクを隠していたからであって、急いでいなかったら見つけられていただろう。
ドアを開けて小屋へと入り、彼が見たモノ……それは、自分に向けられた2つのショットガンの銃口だった。
「うわ……」
しゃがんだすみれと立った雫、近距離なら一撃でダウンさせるショットガンが2丁、上下に並んで侵入者を待ち構えていた。
銃口からドドン!と連続で火が吹き、可哀想なプレイヤーを死体箱へ変えた。いくらなんでもどうしようもない戦いだった。
「やったわ!どんなもんよ!」
すみれが興奮したように叫ぶ。
だが美波はあくまでも冷静だった。
「スモーク。外へ出て」
この安全な小屋から外へ出るのは心配だったが、超上級者である美波の言うことの方が絶対に正しい。
雫が冷静にスモークグレネードを2つ投げ、小屋の周りを白い煙が覆う。
そのまま2人して外へ出たその瞬間、小屋の中に火炎瓶が投げ込まれ、狭い小屋が真っ赤に燃え上がる。
「うわ……」
外へ出ていなかったら丸焦げだった。
美波からすると、キルログを見る限り、先程の東の海岸での戦闘が一瞬で終わったことが明白だったのだ。
そして戦闘に勝ったチームは、「小屋に隠れた敵がいるなら先に片付けておきたい」と考えて近づいてきた。小屋にRainbow squad がいることは、今しがたショットガンを撃ったことでバレている。
「冷静にね。スモークもう少し撒こう」
「はい」
煙がドンドン広がってく。
敵も接近してくるが、煙で視界が取れないので近づき辛い。ショットガン相手に近接戦を挑むのは危険性が高いからだ。
「一旦小屋に戻ろう」
ここも美波の指示に従う。すると、小屋の周囲で手榴弾の爆発音が聞こえ始めた。
敵からすると、火炎瓶を投げたことで小屋の中にいないことは確定した。だから小屋の周りの煙に向かって手榴弾を投げれば当たるはずだと考えた。そこを逆手に取って小屋へ戻ることで安全を確保した。
経験と敵の行動予測。美波は撃ち合いだけでなく、こういった立ち回りのレベルも高い。
「よし、ここからは出たとこ勝負よ。落ち着いてね!」
「はい」
「離れ過ぎなように。距離感大事よ距離感」
更にいくつかのスモークを追加し、煙の中で待機する。倒されてもすぐにカバーができるよう、近い距離で待ち構える。
その時対峙していた敵は
『これ、stone stone は固まって動いたほうがいいですよ。各個撃破されてしまいますから』
『そうですね。ショットガン相手に近接戦をしかけるわけですので、すぐにカバーを入てたいところ。さぁどう戦うか』
敵はゆっくりと歩きながらスモークの外周を回り込む。2人が反対側で再会しかけたその時、最初に撒いたスモークがゆっくりと晴れてきた。
雫の目に、煙の晴れ間から敵のアサルトライフルの先端が見えた。アサルトライフルの方が全長が長い分、雫が先に反応できた。
ドン!という銃声。が、敵は倒れない。はっきりと姿が見えなかったせいで、ダメージは与えたものの、ライフを削り切るまではいかなかった。
「外した!」
雫は反撃を覚悟したが、すぐ隣にいたすみれが立て続けにショットガンを撃つ。これも芯で捕らえることはできなかったが、すでにダメージを受けていた敵の残りライフを削ることができた。
「1ダウン!まだいる!」
2人は更に後ろに敵が潜んでいると思ったが、敵は二手に別れていたので、もうひとりはちょうど後ろに位置していた。
敵が雫の背中を見つけ、フルオート射撃でダウンを取る。
「うしろ!」
残ったすみれは素早く煙の中へ隠れる。
状況は1対1。
「すみれ、落ち着いてね」
手が震えそうになるすみれだったが、雫の声で冷静さを取り戻す。
煙で真っ白の画面に集中する。一度大きく息を吐く。
銃声。敵が、ダウンした雫の確定キルをとった、その瞬間──。
「ゴー!」
美波の声に反応して前へと進み出る。
煙から飛び出したすみれの目には、リロードをしている無防備な敵の姿があった。
アサルトライフルのマガジン容量は30発。雫へのダウンと確定キルで残弾が心もとなくなった敵が、ちょうどリロードをしていた瞬間だったのだ。
「冷静に!」雫が声をかける。
敵はリロード中で何もできない。
すみれは、敵の眼前とは思えないほどゆっくりとした動作で照準を合わせる。
冷静に。冷静に。
相手のリロードが終わるまで、じっくりと狙って引き金を引く。
弾は胴体へ直撃し、見事に敵を倒した。
「…………ふぅ!」
緊張から解き放たれた身体から汗がブワッと溢れ出し、ドクドクと心臓が高鳴った。
そして、遠くから飛んできた狙撃銃の弾が脳天を貫き、すみれのライフをゼロにした。
「あ!」
「おっけーおっけーよくやったよ!」
チームキル10。8位なので順位ポイントが1で合計11。
「だ、大丈夫でしたか……?」
「もちろん!2人で1キル目標だったのに、3キルもしちゃったんだから!」
不安そうなすみれだったが、絵麻は満足そうに話す。
「すみれ。ナイスだったよ」
雫が横から拳を差し出してくる。すみれはそれに拳を合わせる。
「そう……よかった」
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