27 〇〇橋を封鎖せよ①

『最初の安全地帯は北側、空港を中心とした通称”空港安置”と呼ばれるものになりました。望海さん、空港安置は荒れると言われますが、今回も荒れるでしょうか?』

『そうですね。空港のある島へ渡るには、3本の橋を使うか、船で移動するか、泳ぐか、なんですけれども、どれもかなり危険なんですね。更によく見ていただきたいのですが、安全地帯の半分はまだ本島にあります。次の安全地帯で本島に戻る可能性が残されているんですね』

『つまり一度空港に渡って、また戻ることになるかもしれない。もしくは、本島になるかもしれないから渡らなかったけど、やっぱり渡る必要に迫られる』

『はい。そして、外れてしまったチームの中には、こう考える人たちが出てきます。「無理に渡って倒されるくらいなら、1位を諦めてここでキルポイント稼いじゃおう」と』


 まさにそんな話をしているその時、絵麻が同じことを話していた。


「せっかく美波がいるんだしさ、本島でガンガンキルポイント稼ごうか」

「いいよ。どこいく?」


 絵麻が提案して美波が同意したら、それはもう決定事項だ。経験の浅い1年ふたりに反対する権利はないのだが、それが逆に素早い作戦決定を可能にし、チームの強みとなっている。


「東の橋」


 絵麻がえげつない作戦を提案してきた。



『さぁいくつかのチームが続々と空港島へ渡ります。画面に映っているのはRainbow squad 。バスにバイク、ジープで進みます。これは東の橋を渡るつもりでしょうか』

『そうでしょうね』

『先に着いたバイクとジープは停車、周囲を警戒します。バスが続いて……おや?事故でしょうか。斜め向きに突っ込んで欄干へ正面衝突』

『いや、これはもしかして……』

『そのままバスを切り返して、バリケードのように道を塞ぎます!空いた隙間にジープを詰め込んで……これでは完全に後続が通れないぞ!』

『検問と言うか、完全封鎖ですね。後続のチームを狩るつもりでしょう』

『なかなか見ない作戦ですね』

『そうですね。ハマらなかったときのデメリットを考えると、大会ではできませんね』

『通常の検問の場合ですと、橋の出口側で待機して、倒しきれない車はそのまま通してしまいますが、これは絶対に通さないという強い意思を感じます。さぁどうする後続のチームたち。東の橋は危険だぞ!』



「さてさて、何が釣れるかなぁ」


 当然この作戦は返り討ちに合う可能性もあるが、Rainbow squad は強気を信条にしてきたチームだ。このくらいやって丁度いいと絵麻は考えている。

 橋の入り口を車両で封鎖、更にタイヤをパンクさせて簡単に動かせないようにする。


 この網に引っかかってしまったチームは、バスセンターのすぐ近くの町マンサノスに降下していた、敗者復活から上がってきたmimintotoみみんとと というチームだ。中央の橋は混みやすいからと、東を選択したのが悪かった。

 先頭をバイクで走るプレイヤーが異変に気が付く。


「何だあれ?やっべ通れねえぞ!」

「検問なら突っ切るぞ」

「違う引き返せ!」

「は?」


 そんな会話をしている時にはすでに手遅れだった。

 先頭のバイクのプレイヤーは、空いている隙間を見つけて突っ切ろうとしたが、通れる隙間なんてなかったため、ブレーキを踏んで止まるしかなかった。

 バスの手前で急ブレーキを踏む姿は、隠れているすみれと雫にとって格好の的だった。ふたりのサブマシンガンが一瞬でライフを削り切る。


「後続くるよ!」


 後ろから続いてくる乗用車が、進路変更のためにブレーキを踏むのだが、速度を落とした車を見逃すほどminazuki というプレイヤーは甘くない。

 正確に運転席を狙った射撃が不運な運転手をダウンさせる。

 さらにもう1台は停車が間に合い、美波のいる方向とは反対側に降りるのだが、そこは絵麻の眼前、無事で居られるわけがない。

 遅れてきた最後の1台は、なんとかハンドルを切って去っていった。

 3台の車両と3人分の死体箱。戦果は上々だ。


「おっけ3キル。バイクと車は隠しておいてね。うちらで使うかも知れないから」


 鮮やかな戦いに会場からも歓声があがる。


『いきなり見せてくれましたRainbow squad !電光石火の3キル獲得!』

『mimintoto は不運でしたね。更に後続のチームは、キルログで異変に気が付けるでしょうか』

『エンシナや発電所のチームは、東の橋を渡りがちですからね』

『避けるか、手前で止まるしかないです』


 そんな完全封鎖の様子を、空港島から見ているチームがあった。Hunters だ。先に渡りきってたどり着いた高台から、望遠スコープで東の橋がよく見えた。


「これ、東の橋通れないな」

「あぁ。安置が本島に戻ったときに使えない」

「思いついても実行するかね。あんな作戦」

「でもハマってんだから正解なんだろ」


 話す3人を尻目に、ReAtackレアタック は次の移動先を考える。

 このまま安全地帯が北に寄れば問題ないが、本島になれば中央の橋を渡るしかない。

 つまり、中央の橋が詰まっていたら自分たちにとって都合が悪いということだ。


「動くぞ。中央の橋を確認する。検問してる奴がいたらどいてもらおう」

「了解」


 こうしてHunters はRainbow squad とは別の方向へと移動していった。


 一方で東の橋には、さらに1チームが侵入してきた。

 発電所から北上してきた RED mensレッドメンズ だ。だがこのチームはいきなり橋に突入するのではなく、東の小高い丘で手前で停車して橋の様子を索敵していた。


「なんだアレ。あれじゃ渡れないな」

「じゃあ手前に誰かおるやろ。キルポイント稼ぐか?」

「そうだな。よし、車は降りて歩いて近づこう」


 車で近づくとエンジン音でバレバレになるが、歩いて近づけば撃てる距離まで静かに忍び寄ることができる。

 RED mens の4人は車を降りて丘を下っていった。

 そして、その様子を上空からカメラが捕らえていた。


『これは気が付けるかRainbow squad』

『最初の奇襲でminazuki 選手を落とせればかなり有利ですが、果たしてどうなりますかね』


 4人は木や岩で身を隠しつつ、ゆっくりと近づいていく。彼らもRainbow squad が隠れている場所は把握できていないが、橋の手前にある家には誰かいるだろうと踏んでいた。

 RED mens は橋の東方向から歩いてくるが、彼らから見て近い所にいるのが美波とすみれである。逆に道を挟んだ反対側、つまり西側にいるのが絵麻と雫だ。

 その絵麻は、索敵のために場所を変えながら周囲を警戒していた。その目が、美波が隠れている家の後ろに近付く敵を捕らえた。


「美波、すぐ後ろに敵。かなり近い」

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