21 ReAtack

 Last one のMontijoモンティホ ──通称”島マップ”の南西部、ぽつぽつと木が生える丘の上に、仲良く並んで伏せている4人のプレイヤーがいた。4人は遠くの街で銃声が響くのを、望遠のスコープを使ってただ眺めていた。


「暇だなぁ……」

 FPS上級者で、人気配信者のナミ猫。


「なんでみんなして反対行っちゃうかねぇ」

 元プロゲーマー、ExplosionZエクスプロージョンズ所属ストリーマー Bazzバズ


「ここ、敵が来そうな場所なんですけどね」

 Vfan所属VTuber望海誠のぞみまこと


「まぁ、そんな日もあります」

 そして最後の一人。ExplosionZ、Last one部門への加入が決定している ReAtackレアタック


「あ、そういえばレアくん。もうすぐ全国だよね」


 現在ExplosionZはアジア大会に出場しているが、ReAtackは選手登録のレギュレーションの問題で参加できていない。今は「Huntersハンターズ」というチームで全国学生esports選手権 Last one 部門に出場している。

 試合に出られないくらいだったら、リーダーとしてチームを率いる経験をしてこいと送り出された形だ。


 ReAtackはアマチュアチームのアタッカーとして実績を積んでおり、プロ・アマ混合の大会で最多キルを獲得したことがある。その活躍を見込まれてExplosionZ に加入。日本有数のアタッカーとして、世界での活躍を期待されている選手なのだ。

 そんな選手であるから、高校の大会では敵無し……と思われていたが、出場締め切りギリギリでとんでもない選手が参加してきた。


「ミナズキが出るやつな」

「僕が解説するんですよ。いやぁ楽しみだなぁエース対決」

「せっかく北海道・東北大会で33キル取ったのに、ミナズキちゃんに39キル取られちゃったもんねぇ。残念残念」

「……」


 ナミ猫はここぞとばかりにからかってくるが、どうせ本気で言っているわけではない(多分)ので適当に聞き流しておけばいい。


「やっぱり気になるか?」

「それ聞きたいですね。何か解説で話せることないですか?」

「気にならないですし、ないです」


 全く気にならないといえば嘘になる。伝説的な正体不明のプレイヤーなのだ、戦ってみたいに決まっている。

 だが、この人たち(特にナミ猫)に話すと面倒くさそうなので、ここでは沈黙こそが1番の正解だと思う。

 どうせ全国大会で戦うことになるんだから、話すだけ無駄だ。


「ホントは今日Bazzじゃなくてミナズキちゃんを呼ぼうと思ったんだけどさ、英美里ちゃんに断られちゃって」

「そうなんですか?」

「全国前だしな、ライバルと仲良くできないってか?」

「いんや、もうすぐ期末テストなんだってさ」

「あぁ……なるほど。ん?」

「そういやそんな時期なのか……あれ?」


 Bazzと望海誠が何かに気が付いた。


「レアくん。ミナズキちゃんと同い年なんだよね」ナミ猫が問う。

「そうですね」

「もうすぐ高校生の全国大会だよね」

「そうですね」

「期末テスト、どこに行った?」

「……勘のいい猫は嫌いです」



◇◆◇



 その数時間前、虹巻高校。

 英美里は日課のエゴサをしていて、美波はぐっすりと眠っている。机に突っ伏している姿から、隠しきれない陰のオーラが漂っている。あればっかりは消せる気がしない。

 ふと良い匂いがするなと思って顔を上げると、英美里の前の席に絵麻が座っていた。髪、メイク、服装。完璧に決めた陽キャ姿をしている。


「つかぬことを聞きたいんだけどね。美波の成績はどのくらい?」


 もうすぐ行われる期末テストのことを心配してきたらしい。赤点が多いと補習が入る可能性がある。全国大会を控えた今、それだけは避けたいのだろう。


「平均前後かな?赤点は取らせないよ」

「取らせない……?」

「放っておいたら赤点だらけになるから」

「そうか……。いや、その方が安心なのか……?」


 1年生の最初の期末テストを半分赤点で終えた美波は、英美里による地獄の補習を受けることとなった。それ以降、一度も赤点を取っていない。自信がない場合は自ら申告するので対策が可能だ。


「じゃあ、美波の成績のことは任せたよ」

「今回も問題ないわよ。ところで、絵麻と1年2人は大丈夫なの?」

「あたしは平均ちょい上くらいかな。すみれと雫は結構賢いよ」

「そ、じゃあ安心ね」


 絵麻が平均以上なのは意外だと思ったけど黙っていた。


「そうなんだけど、今回ちょっと数学が自信なくてさ……」

「大丈夫?」

「英美里は自信ある?」

「私はいつも平均90点超え」

「…………教えてもらってイイ?」


 さては、こっちが本題だな?

 美波のことを探りつつ、上手いこと英美里に教えてもらう約束を取り付ける。これもコミュニケーションスキルといっていいのだろうか。上手に話を持っていくなと感心してしまう。


「いいわよ」断る理由もない。

「よかったぁ。ホント補習は回避したいの」

「どこでやる?」

「教室でいいんじゃない?誰かの家でもいいし。まぁまた考えておくよ」

「わかった」

「じゃあまた放課後よろしく!」


 こうして放課後、美波と絵麻に勉強を教えることになったのだが……。終礼後にやってきたのは、絵麻と、その友人3人だった。


「みんなも分からないトコあるらしいんよね。一緒に勉強してイイ?」


 英美里の後ろでは、美波が蛇ににらまれたカエルにように縮こまっている。

 絵麻の後ろでは、絵麻に負けず劣らずの派手なギャルが3人立っている。

 英美里は知った相手なのだが、美波には全員同じ顔に見えている。


「まぁいいけど」

「え?」


 断ってくれないの?という疑問の「え?」が、英美里にだけ聞こえる声量で届けられる。

 絵麻の友達なんだから悪い人ではないだろうし、たまには他の子とも絡んでみるべきだ。というわけで美波の抗議を華麗に無視して、計6人での勉強会がスタートした。

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