20 そして全国へ...

『さぁ、10試合に渡って行われた関東大会も、ついに最終試合の終盤へと突入します』

『1位と2位は決まったも同然ですが、他のチームも敗者復活の枠がありますからね。頑張ってほしいです』


 1位と2位は自動的に全国大会行きだが、4位と5位、成績によっては6位も、敗者復活戦を勝ち上がれば全国大会に出場することができる。


『各チーム、息を殺して周囲を窺います』


 マップ南東。発電所や水道局の北に広がる森に安全地帯が寄っている。

 東西に1km、南北に500m。広い範囲に鬱蒼と生い茂る木々が視界を切り弾丸を防ぐ。

 木の他にもちょっとして岩場や草、起伏が身を隠す場所にもなっており、不意打ちを受けやすいことで知られている。


『残りは6チーム10人。1位を独走するRainbow squad はminazuki選手ひとりですが、現在個人キル数は39。あと1キルで40の大台に乗りますので、なんとか取りたいところ』

『10試合の場合ですと最多キルは大体20前後ですから、いかに40という数字がとんでもないかが分かります』

『1試合目、個人で15キルを稼いだminazuki選手ですが、その後はカバーに徹したり後方から援護をしたりと、他のメンバーに戦わせるプレイが目立ちましたね』

『Rainbow squad にはプラチナ帯が2人いますから、全国で戦うことを考えたらなるべくたくさんの経験を積ませたいですよね』


 もちろんすみれと雫に戦わせたいという理由もあるが、初戦で暴れすぎたせいで他のチームから避けられてしまったという点が大きかった。バスセンターには誰も近づかないし、キルログでも流そうものなら、みんな頭を隠してRainbow squad の方を見ようともしない。

 おかげで順位は楽に伸ばせたのだが……。


『さぁ最終安全地帯の収縮が始まります。安全地帯は真ん中に向かって縮まっていき、最後には完全に消えてしまいます』

『最後だけは収縮がかなりゆっくりなので、焦らずに行動しなければなりません』


 各チームがスモークグレネードを投げていく。美波が残っていると、遠い距離やわずかな隙間から射抜かれるので、なるべく視界を切りながら近くの敵を倒していきたい。と、どのチームも考えている。

 特にこの森では何度も戦闘が発生しており、倒されたプレイヤーの物資がたくさん落ちている。誰かが、持っている、もしくは拾うことの出来るスモークを片っ端から投げていくと、釣られるように他のチームもスモークを投げまくる。

 こうして一面が煙で真っ白になり、数メートル先までしか視界が通らなくなる。


『画面は真っ白だ!これは相当な乱戦になるかもしれません』

『ゲームの挙動が重くなってそうだなぁ。スモークの描画って結構負荷がかかるんですよね』


 解説の言葉通り、各選手の画面はかなりカクカクになっていた。投げすぎたかも知れない……と思っても後の祭り、全員が同じ条件なので最後まで戦うしか無い。


『さぁ誰と誰が出会うのか。ゆっくりと足音を殺しながら、全員が中心に向かってじわじわと歩を進めます』

『いきなり目の前に出現しますから、反射神経と冷静さが大事です』


 いくつかの銃声や手榴弾の爆発音、火炎瓶の割れる音がする中、美波は慌てること無く周囲を警戒する。チームメンバーは「後はお好きなように」と黙って見守る。


 緊張感の漂う時間が流れ、そろそろ敵と接敵するぞと思った──まさにその瞬間だった。


「あ」

「は!?」

「え」

『あぁっ!』

『うわぁ……』


 戦いを見守る全員が、驚きの声を上げた。


「あれ…………壊れた?」


 数十のスモークと10人のプレイヤーが狭いエリアに密集。銃撃や手榴弾、火炎瓶の応酬により、美波の約5年前のパソコンに大きな負荷がかかり…………画面がフリーズした。


『minazuki選手、落ちてしまいましたか……他の選手は大丈夫そうです。これにて、minazuki選手の関東大会は終了となります。全国での活躍に期待しましょう』

『全国大会優勝の副賞が最新ゲーミングパソコンなので、minazuki選手には、ぜひ勝ち取って欲しいですね』



全国学生esports選手権 Last one 部門

関東大会 終了


1位 Rainbow squad / 122 pt / 3 Flags

2位 AmazonZ / 92 pt / 3 Flags


最多キル minazuki 39kill



◇◆◇



JAPAN eSports .net

「全国学生esports選手権 Last one 部門 地域大会終了」


 先週末、土日2日間に渡って行われた、全国学生esports選手権 Last one 部門の各地域での大会が無事終了した。その結果、まずは12チームが全国の切符を手にした。


 まず北海道・東北大会では、日本一最有力と称される北海道代表の「Huntersハンターズ」が全国最多、4本の旗を取って大差で優勝。2位は最終戦での逆転で滑り込んだ、宮城県の「cool runnerクールランナー」が手にした。

 関東大会では1位「Rainbow squad」、2位「AmazonZ」が盤石の試合運びで手堅く勝ち上がった。特に「Rainbow squad」のminazuki選手は全国最多の39キルを稼ぎ、優勝に大きく貢献した。

 中部大会では、新潟大会の1位と2位だった「jackpotsジャックポッツ」と「imayoshiDANいまよし団」がそのままの勢いで上位を独占、全国行きを決めた。

 近畿地方は大阪の「Kick Robキックロブ」が2位に20 ptの差で1位抜け、最終戦までもつれ込んだ2位争いは、わずか1 pt差で和歌山の「oyatu no zikanおやつの時間」が手にした。

 中四国大会は優勝争いが最後までもつれ込み、最終戦10キル2位だった「RED mens」レッドメンズが逆転優勝。最終戦で旗を取った「4countryフォーカントリー」が2位となった。2位と3位が1 pt差の大接戦となり、3位の「YAMA no KUCHI山の口」は惜しくも敗者復活に回ることとなった。

 九州・沖縄大会は、3位に大差をつけた沖縄の「nannkuru ruruなんくるるる」と鹿児島の「sakurazima桜島」が優勝争いを演じ、「nannkuru ruru」が最終戦で逆転優勝。


 全国大会の残り4枠は、今週末の行われる敗者復活戦によって決定される。

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