19 見守る女
月島家のリビングでは、英美里がiPadを手に大会を観戦していた。画面には順調にキルを重ねていくRainbow squad の姿が映し出されている。
『残り6チーム!安全地帯が更新され、北は
『minazuki選手がひとりなので、普通ならそこなんですけど、籠もってる選手が普通じゃないですからね』
『確かに。ひっくり返す可能性を感じますよね』
:あるぞあるぞ
:流石に厳しいだろ
:いやいやミナズキやぞ?
第一試合も佳境に入ってコメントの速度もあがっている。
だか英美里は見守ることしかできない。いくら美波が強いといっても、心配なものは心配だ。
敵と交戦する度に心臓がバクバクと高鳴っては落ち着かない。
東京大会の時は配信がなかったから、試合の様子を見ることなくのんびりと待てた。でも、こうやって画面を通して試合を見てしまうと気が気でない。
全部で10試合もあるのに、負けてしまうことが嫌すぎる。
『外れた2チームが車両に乗り込みます。行き先はやはりminazuki選手の家か?』
画面では美波が入っている家に、2チーム残り7人が突撃しようとしていた。
:これはさすがになぁ……
:RIP
流石にここまでか……。英美里も放送のコメントもそう思っていた。
『おや、minazuki選手、バイクに乗って外へ!』
:え?
:うそやろ?
『完璧なタイミングだ!すれ違うぞ!』
『突撃してくる2チームとすれ違うように移動します。これで乱戦を避けることが出来る!』
『でもどこへ行きますかね』
『大きく迂回して……優勝候補、AmazonZの4人が待つガソリンスタンドだああぁぁ!!』
『ここで1vs4するのか!?なんて強気のムーブ!』
:それは草
:度胸ありすぎぃ
:なんでそこ選んだんですかね…
:一番強いとこいくんか
iPadをスリープにして伏せるように置く。
負けるだろうと思われているんだから、素直に負けてくれていいのに。続きを見る英美里の心境にもなってほしい。
見ているだけでこんなに感情が揺さぶられるなんて……。
普段スポーツとか全然見ない英美里だが、好きなチームを応援している皆はこんな気分なのだろうかと思う。こんなの、心臓が持たない。変な汗が出る。
落ち着くために、テーブルに用意していた紅茶に手を伸ばす。一口も飲まずに放っておいたせいで生温い。
立ち上がって台所に向かい、冷蔵庫から麦茶を取り出して勢いよく飲む。熱い身体が冷まされる。
誰か話し相手でもいれば気も紛れるが、今は誰もいない。
美波の両親は離婚しており、同居している母親は土曜日だというのに仕事だ。平日とは別で仕事を掛け持ちしている。
少し迷ってiPadのスリープを解除する。
:ええええええ
:一瞬でふたり溶けたで
『minazukiの体力はあと僅か!でもAmazonZ は場所に気が付いていないぞ!』
『AmazonZ は固まって動きたいですね。各個撃破だけは避けたい』
:これ勝つんちゃうか?
:1vs4なんですけど…
「う~~美波ぃ……」
『あぁっ!スモークの中ですれ違う!minazuki、足音で気が付くか⁉後ろを取ったぞAmazonZ が全滅!!!』
「うおっ……!しゃ!」
『これでチーム18キルだ!そして次の安全地帯が近い!』
『先に他チームがぶつかりますね。まずは様子を窺いたい』
:もう勝つだろ
:このレベルじゃ相手にならんか
美波を含めて残り4チーム。
画面では別のチーム同士が撃ち合い、美波は介入しないように岩や木に隠れながら少しずつ進んでいる。
「潰しあえ~潰しあえ~」
英美里は祈るように──いや、呪うように画面に向かって念を送る。
美波は狭まる安全地帯に追われるように歩を進める。スモークの中を手探りに進んでいるが、ときおり敵チームから銃撃を受ける。
『慌てたら駄目ですよ。見えてないけど適当に撃っているんですから、そのまま回復していればいいんです』
激しい銃撃と手榴弾の爆発音。他のチーム同士が潰し合っている。
:争ってる場合ちゃうぞ
:全員でかからないと負ける
:あぁ
『
『2vs1vs1ですね。人数がいる分sushi otoko が有利に見えますが、minazukiはこの終盤で手を間違える選手ではないでしょう』
「ホントに!?言ったな!?」
『ワンダウン持っていく!だがカバーが早い、ここでTAIMANZ が全滅!sushi otoko 残りは
『無理でしょうね。これは決まりました』
:中トロー!後ろ!後ろ!
:逃げてー
:大トロなら勝ってた
『minazuki後ろから撃って……試合終了!Rainbow squad が見事Last one になります』
『チーム19キルですか……いやぁ強い』
「うぉっし!!しゃあ!」
飛び跳ねるように立ち上がって美波の部屋へ駆けていく……と、ドアが勢いよく開かれ、美波が急いで出てくる。
「トイレ!トイレ!」
「…………はい?」
英美里を放置してトイレへ駆け込む美波。
高まった喜びをぶつける相手が不在のまま、1人残されて微妙な空気になる。
「あぁ!スッキリしない!」
もやもやしたままの英美里の元へ、スッキリした顔で美波が戻ってくる。
「あ、勝ったよ」
人の気も知らずに、両手でVサインを作って得意気だ。
なんだかムカついたので、思いっきり頭をワシャワシャしておいた。
◇◆◇
全国学生esports選手権 Last one 部門
関東大会 1日目終了
1位 Rainbow squad / 82pt / 2 Flags
2位 AmazonZ / 41pt / 1 Flag
3位 STARKS / 35pt / 0 Flag
4位 Genki rengo / 33pt / 1 Flag
以下略
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