16 関東大会開幕
『みなさんこんにちは!本日は、全国学生esports選手権 Last one 部門、関東大会の様子をお送りします。この大会はChu-Tube、Twitown両方で配信しております。どうぞお楽しみください。実況は私、
『よろしくお願いします』
画面上ではメガネをかけた30歳くらいのアナウンサーと、少しぽっちゃりとした20代半ばくらいの男性が映っている。その様子を英美里はiPadで確認している。
「公式配信が始まったわ」
「いよいよ、あたしらの活躍が世界に轟いてしまうのね」
「轟くのは月島先輩1人だと思うけど……」
「雫、想像するのは常に最高の自分よ!私たちが今日のヒーロー!」
「お、良いこと言うね。ふたりには期待してるんだから」
「善処します……」
関東大会はオンライン開催だが公式配信がある。名前が広く知られているミナズキが参加しているだけあって、視聴者数は既に5万人を超えている。
Rainbow sqaud のメンバーもそれぞれ自宅から参加しており、ボイスコードを通して通話をしている。
『都道府県大会ではブロンズ帯やゴールド帯の参加者もいて、色々と珍プレイが飛び出したりしましたが、関東大会はそこを勝ち上がったチームしかおりませんので、より高いレベルのプレイが飛び出すことでしょう』
『はい。エース帯の選手も何人か混ざっていますし、熱い試合が期待されますね』
配信では出場チームの紹介が始まっている、
『まずは神奈川1位の
『映像を見させてもらいましたが、連携が素晴らしかったですね。個人の能力を過信しない謙虚さが強みだと思います』
…………
『そして、東京Bグループ1位通過のRainbow squad!』
『来ましたね』
『10試合のチーム合計キル数はダントツの83!1試合平均8.3キル!しかもその半分を叩き出したのが、minazuki選手です。10試合で42キルは都道府県大会全てを含めて1位の成績です』
『僕が入っても42キルは無理ですね』
『ご存じない方もいらっしゃるかも知れませんが、FPS界隈では知る人ぞ知る名前です。実は今日の配信なんですけれども、このminazuki選手が参加するということで、英語、韓国語、中国語でも配信がされているんですよね』
『まぁそのくらいの期待はされていますよ』
『minazuki選手がどんなプレイヤーなのかは試合中にじっくり見ていくとして、早速、試合の方に行きましょうか』
『そうですね。楽しみです』
「よし、じゃあ移動するね」
「うん」
今日も英美里は美波の部屋にいるが、試合中は別室に移動していないと後で不正を疑われてしまう。
後ろから近づいて頭を軽く撫でる。美波はリラックスできているようだ。むしろ英美里のほうが緊張しているかも知れない。
「頑張って!」
「頑張る」
『それでは、第一試合スタートです!』
最初の航路は1時から6時方向。
「素直な航路ね。すみれ、降りる場所は覚えてる?」
「バスセンター!」
「邪魔する奴は?」
「ブッコ"ロ"ス!!!!!!」
「いくぞー!」
「おー!」
すみれが特技「デスボイス」を披露したところで各自パラシュート降下をする。幸い同じ場所に降りるチームはないようだ。
すみれと雫は近くで車両を確保。美波と絵麻は装備を整える。
この広いマップを移動するには車両が必須だ。車両は道沿いか大きな街の車庫にランダムで置いてあるが、バスセンターにもちゃんと用意されている。
しかし途中で破壊されたときのことも考えると、複数台確保しておかなければならない。
このバスセンターは、島の真ん中東よりに存在する、島唯一の公共交通機関であるバス会社の拠点だ。業務を終えたバスの車庫でもあり、整備場、職員のロッカーや休憩所、そして事務所などがある。
当然それなりの規模があるため、物資もかなり集まる。
また、駐車場はだだっ広くて視界が通るように思えるが、故障して動かないバスが点在しているため、数チームが入り乱れても射線を切ることができる。つまり、後半まで安全地帯に入り続けると乱戦になりやすい場所だ。
『さぁ各チーム降下を終えました。初動被りは……2箇所ですね。マップ最南端のコテージ街と、ど真ん中のマーケットです』
『マーケットは広さの割に大きな建物が密集してます。2チームで棲み分けが出来るので戦いは起きなさそうですね』
『となるとコテージ街ですが……お互い様子を伺っていますね』
『コテージはひとつひとつは大きな建物なんてすが、それぞれ距離があるのでコテージ間を移動するのが怖いんですよね。戦うにはリスクが高すぎるので、早く4人で合流して脱出したいです』
『さぁ最初の安全地帯は、真東。中心はバスセンターです』
「あら、ど真ん中だ。一旦バスセンターに固まろうか」
「りょ!です」
車両確保後、近くの建物で装備を漁っていたすみれと雫がバスセンターに集合する。
『さぁ注目のRainbow squad は一旦バスセンターに集まりました。お、Drop選手とSumireSmile選手、珍しい武器構成ですね。サブマシンガンとショットガンですよ』
『東京大会でも同じ構成だったんで、あえて持ってるんでしょうね』
『近距離特化ということですか。どういう戦いになるか楽しみです』
Last one の武器構成は、近距離から遠距離までをバランスよく戦い抜くためにアサルトライフルとスナイパーライフルの組み合わせがほとんどだ。
美波と絵麻はその武器構成をしているが、プラチナ帯のふたりはあえてサブマシンガンとショットガンを持ってもらっている。
理由としては、経験の浅いふたりに遠距離戦は荷が重いと判断したから。これは大会であって、普段の野良試合とは違う。全員生存意識が高いため、近くに着弾すると顔を引っ込めてしまう。
しかも大会本番の緊張で、普段よりも当たらないことが予想されるとなれば、思い切って遠距離戦闘を捨ててもらったほうが良い。
その代わり、2人には索敵やポイントマン──つまり先頭を歩いて真っ先に敵と遭遇する役目を担ってもらう。
例えやられてしまったとしても、後ろを歩く美波がカバーをすれば勝てる。
この作戦が、東京大会ではずいぶんと当たった。
近くも遠くも注意するとなると、注意力が散漫になってしまい思わぬ見落としがあるかもしれないが、「遠くはみなくて良い」と事前に伝えておくことによって、2人は役割を十分に果たしてくれた。
今も南北に分かれて、バスセンターに乗り込もうとするチームがないか警戒してくれている。
「さてさて、第2安置は……またここがど真ん中か」
あまり後半まで中心であり続けると、複数チームが突撃してくる可能性が高い。
周囲では散発的に銃声がしている。
遠くを走る車両を撃っているのだろう。倒すには遠すぎるが、「先にチームが入っている」と思わせられれば別の場所に向かってくれる。
遠くでは戦いが行われているようで、いくつかのキルログが流れ始めているが、Rainbow squad はまだまだ平和なものだ。
しばらく戦闘のない時間が続き、第3の安全地帯が表示され、4人がいるバスセンターがまたしても中心となった。
そして、複数のチームが入り乱れる激戦が始まる。
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