14 いざ東京都大会

「まずは一本、旗を取りましょう!」


 絵麻の元気な声がヘッドセットの向こうから響き渡る。

 Last one において、最後の1チームに残ることを「旗を取る」と言う。1位になったチームがリザルト画面で大きな旗の下に集まることからそう呼ばれることになった。


 懇親会からあっという間に一週間が過ぎ、遂に東京都予選の日がやってきた。

 Last one の公式試合は、16チーム64人で行われるが、東京はチームが多いのでAとBのグループに分かれて行われる。

 それぞれ上位2チームが関東大会に勝ち上がるので、東京からは合計4チームが関東大会に行くことになり、また、関東大会でも上位2チームが全国行きとなる。

 つまり、2回連続で2位以内に入れば全国行きということだ。


 都大会も関東大会も全国大会も土日2日間で行われるが、各日5マッチの計10マッチの合計ポイントで順位が決まる。

 敵をキルすればキルポイントが1。それに生き残った順位に応じて順位ポイントが与えられる。キルポイントと順位ポイントの合計がそのチームの総ポイントとなる。


 都大会はオンライン大会なので、それぞれ家から、もしくは学校から参加することになる。

 ボイスコードの大会用チャンネルで連絡されたパスワードを使って、大会用カスタムマッチに入る。

 全員の入室が確認されると画面が切り替わり、狭く薄暗い部屋に飛ばされる。エンジンの唸るような轟音と、ガタガタ揺れる細長い廊下ののようなこの場所は、軍用輸送機C-130 ハーキュリーズの貨物室だ。ロッキード社が製造し、アメリカ軍は当然ながら世界各国で使用され、数多くの映画やゲームで登場した軍用輸送機の決定版である。

 ゲームが開始されるとこの輸送機から降下することになる。


 64人全員の参加が確認された後、60秒のカウントダウンが表示され、残り10秒で後部ハッチがゆっくりと開く。刺すような太陽光が室内を照らしていく。

 参加者64人の気合が入る瞬間だ。


 あるチームは参加者が集まらず、普段パソコンでゲームをしない友人に頼み込んで4人を揃えている。


「うわぁ緊張する」

「1本くらい旗取って帰りたいな」

「俺は1キル目標だわ」

「試合だああああ」


 別のチームは幼稚園からの幼馴染で、高校時代の最後の思い出として参加している。


「吐きそう」

「同じく」

「見てる分には気楽だけど、いざ自分が出るとなると緊張するわ」

「わかる」

「ま、楽しもうや」


 中には女子ひとり男子3人のチームもある。表面上は和気あいあいとしているが、水面下では誰が一番かっこいい姿を見せるかで密かに争っている。そしてその雰囲気を感じ取っている女子ひとりは、自分が姫扱いされていることに大変満足していた。


「みんなで協力しようね!ガンバロー」

「おう」

「まかせろ」

「俺たちがついてるよ」

「頼りになるぅ☆」


 当然、真剣に練習を重ねたガチチームも存在する。プロゲーマーに憧れて全員でランクを潜り続けて、4人でダイヤまで上げきった。


「目標はもちろん1位」

「当然」

「準備はしてきた」

「やれるやれる!」


 そして……。

 チーム名「Rainbow squadレインボウスクワッド」。都大会唯一の女子4人組であり、このあと全チームを蹂躙し、立ちはだかる全てをなぎ倒していくチームである。

 どのチームも、「どうせ有名選手なんて出場していないから」と、他のチームの選手名をまともに確認していなかった。


 皆が異変に気が付いたのは、全チームが降下を終えた頃である。

 定石通り車両を確保したあるチームの選手が、味方に合流しようとしたところで運悪く美波のいる建物の近くを通った。

 その時に美波が手にしていた武器は、SIG SG550 sniper という、本来アサルトライフルだったSIGシグ SG550 を狙撃用に改良したセミオート式スナイパーライフルである。

 5.56mm弾を使用しているとはいえ、ゲーム開始直後でヘルメットも装備していない状態である。カーブのために減速した一瞬の間に、二発の弾が頭を直撃、ライフを全て削りきった。

 その直後、全選手の画面に最初のキルログが表示された。


minazuki → yuzupon


「お、早いな。ファーストブラッドか……あん?」

「minazuki……?」

「まさか、そんなわけないだろ」

「いやいや、同じアカウント名は取得できねーぞ」

「じゃあ、まさか……」

「誰?有名な人?」

「有名なんてもんじゃねえよ!」

「そういえば、ナミ猫との配信で言ってたわ。あの人高校生だよ」

「…………それはやばい」

「圧倒的にヤバい奴が混ざっているぞ!」


 ある選手はちょっと外の様子を伺った隙に頭を撃ち抜かれ。別の選手は出会い頭に一方的に弾丸を叩き込まれ、二人でかかれば勝てるだろうと襲い掛かった選手たちは素早いエイムで順番に倒される。

 狭い物置小屋に隠れれば、狭い小窓から手りゅう弾が投げ込まれるし、車で近くを通れば運転中だろうが容赦なく撃ち抜かれてしまう。


「何だアレは……勝てねーよ」


 抗いようがない。


「すげえ。本物だ……」


 レベルが違う。


 反射神経、マウスの精細な操作、完璧なリコイルコントロール、マップへの理解度 etc...。


 もはやその場に存在するのは捕食者とその仲間、そして食われる側の60人のプレイヤーだった。



全国学生esports選手権 Last one 部門

東京都大会全10試合終了


1位 Rainbow squad / 156 pt / 5 flags

2位 Genki rengo / 88 pt / 2 flags


 以上2チーム、関東大会出場。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る