一矢に込める私の思い

@yuugi

一矢入魂

 今日は私の大事な日だ。

 この日のために練習を積み重ねてきた。柄にもなく緊張しているかもしれない。顔が熱い気がする。本当に火が出そうだ。

 でもいつも通りに、いつも通りにやらなきゃ。緊張して失敗しました! なんて洒落にならないからね。

 そんなことを脳内で考えながら私は一歩を踏み出した。


 「ねぇ、二人きりで話したいことがあるんだけど、いいかな?」


 ―足踏み―


 最初はとても重要だ。ゆっくりと足を進めていき場所と距離感を図る。よし……ここらへんかな?


 「こんなところまで来てくれてありがとう。」


 ―胴造り―


 呼吸はゆっくりと、吸っているときは止まって、整える、そして吐きながら動きを始める。

 今後はこれを守って動いていく。


 ゆっくりと弓を持ち上げ矢をつがえる。緊張からか手が震える。こんなところで失敗したくない。せめて最後まで……。

 呼吸に合わせてゆっくりと弓掛けをしていく。

 弓矢を膝の上に、右手を腰に据えて心を整える。


 「話したいことっていうのはね……、私、君と会って何度か話しているうちにね、君のことを意識してたの。気が付いたら君のことばっかり考えててさ……」


 ―弓構え―


 一呼吸おいてから右手を弦にかけ手の内を整えて的を見据える。なるべく目をそらさず一点を見つめて覚悟を決めていく。準備は終わり……。これからは力を入れすぎないように、あくまでいつも通りに頑張っていこう。


 私は目の前に立っている同級生の目を見つめる。


 ―打起こし―


 弓構えの位置からさっきまでよりもさらにゆっくり息を吐きながら弓を持ち上げていく、私は緊張すると肩が上がってしまう……らしい。自分ではわからないが周りから何回も言われた。


 肩が上がっているかもしれない。顔が赤いかもしれないし呼吸も忘れてしまいそうなほどに緊張している。


 ―引分け―


 打起こした弓を、左右均等に力を入れて引分けていく、ここに力は必要ない。持ってくるだけを意識する。

 そのまま弓を押しながら引いていき矢を口割りまでもっていく。ここで意識することは腕の力で引くのではなく胸を張るように、恋のキューピッドの羽を折りたたんでいくように。


 「だから……、だからね!!」

 声がかすれてしまった……、改めて声に出した瞬間自分でも驚くほどの声が出た。


 ―離れ―


 胸を張って脱力するように、それでいて今までの思いを、すべてを全力で矢に込めて放つ。


 「好きです!! 付き合ってください!!」


 ―残心ざんしん―


 あたりは静寂に包まれる。私の動きも、周りも時が止まったように感じる。言葉を放つと同時に顔を下げたため、相手の顔は見えない。この一瞬が異様に長く感じる。やがて相手が言葉を発した。



 ……よしっ

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