12.今こそ〇〇心

 まるで、何かのアドベンチャーゲームみたいだ。地震が起きて、水没していた洞窟の先が現れるなんて。

 もしゲームだったら、主人公は何をする?

 答えは決まってる。今、行動を起こさない手はない。

「穂花、この洞窟の先へ進んでみないか?」

 後で思い起こせば、男ってなんて勝手な生き物なんだと思う。

 心の半分が大切なもので満たされた。すると、残りの半分が相反するものを要求する。

 ――今こそ冒険心!

 心の男の子の部分がそう叫んでいた。

「ねえ、凛太朗。やめようよ、また地震が来るかもしれないし」

 冷静に考えれば穂花の意見の方が正しいのは明らかだ。が、この時の俺はすっかり変な高揚感に捕らわれてしまっていた。

 ――彼女の手を握っていれば、俺はなんでもできる。

 一体どこからこんな得体の知れない自信が湧いて来たのだろう。

 一度ツルハシを取りに戻った俺は、ツルハシを穂花に渡す。

「大丈夫。俺たちなら行ける」

 そう宣言すると左手で彼女の手を握り、右手でスマホライトを掲げて洞窟の先へ進み始めた。


 十メートルくらい進むと、洞窟をふさぐように土砂が溜まっていた。

 土砂の上面と洞窟の天井との間には隙間があり、水が流れたような跡が見える。きっと地震が起きる前はこの場所は塞がれていて、土砂が水を堰き止めていたのだろう。その証拠に、土砂の窪みにはまだ温泉が残っていた。

 地震の揺れで土砂がゆるみ、一番弱いところが壊れて水が流れ出たに違いない。そういえば揺れている時にこちらの洞窟からゴオッとすごい音がしたけど、あれは水が流れ出る音だったんだ。

「ここを掘るぞ」

 俺はがむしゃらにツルハシを使って堆積する土砂を掘る。すると隙間の向こう側に、洞窟の暗闇が続いているのが見えた。

「穂花もちょっと掘るといい」

 労働せよという意味ではない。もし彼女の体が冷えてしまっているなら、適度な運動で温まった方が良いと考えたからだ。

 こうして二十分くらい交代で掘っていると、人がしゃがんで通れるくらいの隙間を作ることができた。

 この隙間を通り抜けると、もう土砂が溜まっている場所はなかった。水が流れた跡を追うように、俺たちは傾斜する洞窟を下方に向けて歩く。そして五百メートルくらい進んだところで、洞窟の先に出口らしきものが見えてきたのだ。



《つづく》

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