8.今こそ〇〇食
「あったかい!」
「これ、温泉だ!!」
驚いた。
まさか洞窟の中に温かい水が溜まっているとは。
周囲の壁から温泉が湧き出ている様子は無かったから、この水溜まりの中でお湯が湧いているのだろう。それならば、もしかしたら飲めるかもしれない。
たとえ飲めなくても、足をつければ暖を取ることができる。
サバイバルに必要な水と温度が確保できることが分かって、俺はほっと一息ついた。
ひとまず俺たちは、落ちてきた穴の下に戻る。
差し込む光に照らされる穂花の表情も、安堵に満ちていた。
「あとは食料、か……。じゃあ、今こそ出番ね」
そう言いながら、穂花はニットのカーディガンを脱ぎ始めた。
おいおい、何を始めようというんだ?
ていうか、なぜ脱いだ?
まさか「私を召し上がれ」なんてバカなことを言うわけじゃねぇだろうな。
驚いた俺は、思わずスマホのライトで穂花を照らす。カーディガンを脱いだ彼女の上半身は、黒のハイネックがメリハリのある女性らしい体のラインを露わにしていた。
――こいつ、いつの間にこんなに成長したんだ!?
存在を主張する胸が、サロペットデニムの胸ポケットの部分を押し上げている。
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「ちょ、ちょっとじろじろ見ないでよ。照らすのもやめて。温泉に入るわけじゃないんだから」
恥ずかしそうに穂花は、脱いだカーディガンを胸の前で抱く。
「このニットを解くのよ」
「解いてどうするんだ?」
とりあえず訊いてみる。
穂花が何をしたいのか、全くわからなかった。
「食べるのよ」
えっ? 食べる?
このカーディガンを??
「このニットはカゼイン繊維でできているの。つまり百パーセントのミルク由来」
カゼイン繊維? ミルク由来? そんなものが食べられるのか?
穂花は歯を使って、カーディガンの袖口を解いていく。
すると袖口から編む前の毛糸がだんだんと伸びていった。
「これを短くちぎってあの温泉につけてから口に含めば、水分も取れるし、空腹を満すことはできなくても癒すことはできるんじゃないかな」
その説明で、やっと俺は理解した。
これはすごい。このカーディガンは正にサバイバル用の服じゃないか。
――今こそ繊維食!?
贅沢は言ってられない。
でもこれで俺たちは、この場所で三日間を乗り越えられるような気がした。
その時。
頭上でガサガサという草の音がする。
と同時に、何かが穴の中に落ちて来たのだ。
《つづく》
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