第9話 引き続きホテルでの事
「…………」
「zzz……」
あれ。おかしいな。寝る前は別々のベッドだったはずだ。何故アイがここにいる。何故私はそれに気付かなかった。なんなんだ一体。ステルス能力でも持ってるのか。もし彼女が暗殺者なら私は今頃殺されてるぞ。あと寝る時にzzzってイビキかくやつ初めて見た。
ひとまずアイの事は放っておいて私は日々のルーチンを開始する。外に出るわけには行かないが、幸いこの部屋は無駄に広いし防音もバッチリだから走っても問題ないだろう。もしかしたら物音でアイが起きるかもしれないがそれはしょうがない。
私は走る。それが終わったら筋トレ。型の確認。シャワー前に朝ごはんの注文。起きる気配のないアイ。シャワーを浴びる。浴槽から脱衣場に出ると目の前にはアイがいる。
「…………」
「おはようございます」
いや、さっきまで寝てたじゃん。シャワーってそんなに物音立たないと思うんだが。何でそんなピンポイントで起きてくるの?あと何でわざわざ私の裸見に来るの?
もうなんか馬鹿らしくなってきたので私は意識して前を隠す事もしない。普通にタオルで身体を拭いてからパンツを履く。
「朝食の注文は済んだか?というか、何故また脱衣場に来た」
「アイもシャワー浴びようと思って」
そう言うと彼女は服を脱ぎ出す。
「待て。何故服を脱ぐ」
「脱がないとシャワー浴びれないじゃないですか」
「そうじゃない。私が出てからにしろ。いや、そもそも君は朝シャン必要ないだろ。殆ど汗かかないんだから」
「バレましたか。……本当はですね。ハジメさんとエッチしに来ました」
だから何でやねん。
「それも分からん。何故だ」
「多分ですけど、命の危険を感じた結果、本能的に体が子供を作ろうとしているのではないかと思います」
「なるほど……」
良く聞く話ではある。でもそれ、男側の話じゃないか?
「いや待て、死のうとしても死ねないと思うと昨晩自分で言ってたじゃないか」
「これもバレましたか。……本当はただ抱かれてみたいだけです。ハジメさん、めっちゃ良い身体してるじゃないですか」
ただの性欲だった。
「それとも、アイとじゃ嫌ですか?魅力ないですかね。ルックスには多少自信あるんですけど」
「うーむ」
改めて彼女を観察してみる。化粧をしていない今、アイの顔は大分幼く見える。つり目は相変わらずでそれが整った顔と何ともアンマッチでアンニュイな感じだ。意味分からん。で、殆ど半裸の彼女の身体はなかなかメリハリがある。つーか胸デカイ。でも、だからといって私が劣情を抱くことはない。
「客観的に見て非常に魅力的だとは思うが、そういう問題じゃない。私は、君の安全が確保出来るまでは常に臨戦態勢だ。悪いが絶対にそういう気分にはならない」
「……これでも、同じことが言えますか!」
彼女は遂に裸になる。そして抱きついてくる。やはり代謝が小さいのか、無臭だ。しかし女の柔肌の感触は当然伝わる。他人と肌が触れ合うなんて何年振りだろうか。とても懐かしい感じがする。さっきはああは言ったものの、ちょっと自信ない。
「な……!?そんな馬鹿な!本当に勃たないなんて!」
君は一体何と戦ってるんだ……。というか本当に勃たなくて正直私も驚いている。むしろ大丈夫なのか心配になってくる。
「だから言っただろう?」
「……分かりました。今日は諦めます」
彼女は脱ぎ捨てた服を着る。あ、マジでシャワー浴びないんだ。私はどうしよう。もう一回浴びようかな。等と考えていると不意に殺気を感じる。
「またシャワー浴びたら流石に怒りますよ」
「……まぁ、そうだな。うん。問題ない。私はそこまで潔癖ではない」
私達は朝食を共にする。いつものスペシャルドリンクは作れないので、野菜と果物のスムージーと茹で卵で我慢する。アイは朝からローストビーフだ。元気なことだ。
食べながら今日の行動予定について話す。
「朝、トレーニングしながら色々考えたんだが、国際異人管理館までの道程には公共交通機関を使おうと思う」
「何でですか?その方が早いのは確かでしょうけど、それだと私達の居場所がバレちゃうし、一般の人々も巻き込む気がします。せめてレンタカーとか」
「昨日の件でハッキリしたが、恐らく私達の居場所は既にバレている。道中で一番危険なのは、むしろこのホテルを出た直後だ。ただそれも、いま現在襲われていない所を見ると可能性は低い。この周辺ではあまり騒ぎを起こしたくないのだろう」
私のホテル選びは正解だった訳だ。やはり裏には政府であったり、何か大きな組織の息が掛かっているのだろうか。
「また昨夜の襲撃において、私が誘導したのもあるが敵は人気のない場所まで姿を現さなかった。敵は私が一筋縄では行かない事を理解していて、ある程度時間が掛かっても問題ない場所まで息を潜めていた。他の政府警備隊を呼ばれたら何かと都合が悪いのだろう」
「実際には瞬殺されてましたけどね」
アイが得意気な顔で合いの手を入れる。
「……でだ。君を確保するにあたり、要するに敵は騒ぎを大きくしたくないわけだ。と言うわけでむしろ混雑している方がこちらにとっては良い。車も悪くないが、運転中に襲われたら何も出来ないからな」
現実ではドラマや映画のようなカーチェイスなど不可能だ。
「分かりました。でもちょっと残念です」
「残念?何か問題あるか?」
「だってほら、新幹線とか使ったらすぐに目的地に着いちゃうじゃないですか」
「そうだな。むしろ使わない理由がない」
アイの言っていることの意図が今一掴めず私は困惑する。
「もっと二人きりで話したり、こうやってホテルに泊まったり、ドライブしたかったなっていう話です」
「心に余裕があるのは良いことだが、そういう事は問題が片付いてからでも遅くはない。それにきっと君には、私なんかよりも相応しい相手がいると思う」
「そうですか?ハジメさんのパートナーとして、アイ以上の人間はいないと思いますけど」
「それは一体どういう……」
「さて、ご飯も食べ終わったことだし、そろそろホテルを出ましょう。でないと、また襲撃されちゃいますよ?」
「……そうだな」
私たちはホテルを後にする。
最後ははぐらかされて終わってしまったが、さっきのはどういう意味だったのだろうか。
そして彼女の能力が映し出す未来には、一体どこまでが見えているのだろう。
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