第16話 我儘
何処からか桜の花びらが風に乗って飛んで来た。髪の毛に触れるか触れないかギリギリの所を通って行く。卒業式の2日後、桜吹雪を見ながら中学校の近くにある公園で悠里が来るのを待っていた。朱里たちと遊んだ後、断られる事前提で一緒に写真を撮る約束をした。しかもわざわざ私が引っ越すまでの間で予定を合わせてもらった。予定を合わせてもらって申し訳ないとも思うが我儘とも取れる事を断られなくて安心している自分が居るのも事実だ。キョロキョロと辺りを見回すといつも通りの気だるさを纏った悠里が視界に入った。桜の華やかさと悠里の気だるさのコントラストがやけに綺麗に見える。
「悠里〜 わざわざありがとね〜」
「ん〜 何処で撮る?」
「何処でもいいよ」
好きな人と撮れるんなら、その一言は流石に飲み込んだ。もうあの時の答えなんて分かってる。ほんの僅かに残っているかもしれない可能性に縋り続けていることも分かっている。それでも諦められないのが好きになった代償だろうか。
「おい 聞いてるか〜?」
「ん? ごめん 聞いてなかった 」
「だろうな とりあえず桜が綺麗な所だろ?」
「あ〜 まぁそうだね」
適当にそう返した所で悠里のスマホが鳴った。
「もしもし 今?居るけど... はいはい了解。」
「陽琉が今から来るってさ」
どうやら位置情報共有アプリで私と悠里が一緒に居るのが分かったらしい。写真を撮ってから綺麗な桜が咲いている所で恋を終わらせようとしていたのに陽琉が来るのなら流石に無理だ。
約5分後。陽琉が息を切らせながら姿を見せた。何をそこまで急ぐ必要があったんだろうか。
「はぁっ... はぁっ...」
「何で走ってきたんだよ 笑」
「それな 笑」
「いや なんとなく」
「「なんとなくかよ !」」
陽琉が息を整えてから何で2人でここに居るか聞かれたので軽く説明して悠里のスマホで撮ってもらうことにした。桜が満開になっている所を背景にした。
「撮るよ〜 はいチーズ」
ピースをして笑顔を作る。引っ越す寂しさ、新しい生活が始まる不安、悠里に我儘を聞いてもらった申し訳なさ、何もかもが入り交じった複雑な気持ちを隠す。最後まで泣き顔を見せたくない。その一心で笑顔をシャッターが鳴り終わるまで保った。シャッターなんて一瞬で鳴り終わる筈なのにやけに長く聞こえた。LINEで送られてきたツーショットに写っている笑顔はそこまで不自然ではなかった。そのまま少し話して解散する事にした。家の方向に向かう2人の後ろ姿を見て泣きそうになったのはここだけの話だ。
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