第14話 思い出を抱いて

この道を歩くのもこれが最後。いつもより少し早く家を出てゆっくり学校へと向かう。初めてこの道を歩いた時にはやる気と希望に溢れていた。今は卒業する悲しみと引っ越すことに対する不安が大きい。けれど今はそんな事を言ってられない。3年間あった事を思い出しながら歩いていたらあっと言う間に校門の前に着いていた。校門の中に1歩踏み込んでしまえば最後の登校が終わってしまう。少し立ち止まってから入学式の日にも校門の前で立ち止まった事を思い出して苦笑いしながら1歩踏み込んだ。どうやらあの時の私と今の私は大差ないようだ。

いつもより少し早く来たはずなのに教室の中は既に賑わっていた。今日で卒業という事もあってか皆スマホを持ってきて写真を撮っている。きっと先生も見て見ぬふりをしてくれるだろう。朱里と鈴織も既に来ていた。


「鈴織、朱里おはよ〜」


「「千歳おはよ〜」」


2人とも教科連絡が書いている黒板の前にいたから私も後ろから黒板を覗く。普段は教科名が書かれている所に「時間後」や「ヶ月後」と書かれていて、必要な教科書類を書く所に「感動の卒業式を!」「オリンピック開催」等と書かれている。それだけでも感動するのに提出物の所を見て泣きそうになった。提出場所は「天国」、提出物は「思い出話」。その下には「慌てて提出しに来るな」と書いてある。卒業式前のあるあるだと言われればそこまでだが、実際にされると想像以上に感動してしまう。その黒板を写真に撮ってから、朱里と鈴織と一緒に写真を撮った。卒業式まで後1時間もない。最後に教室を見渡すと本当に今日が卒業式なのか疑う程にいつも通りだった。

規模が縮小されているとは言えどやはり卒業式は長いものだ。結果、私は一滴も涙を流さなかった。泣きそうにはなったが人前で泣きたくないのと近くの女子が号泣していたのとで涙が引っ込んでしまった。退場してすぐに朱里の後ろ姿を見つけた。近づいてみて私は驚いた。想像以上に朱里が泣いていたからだ。横に並んで朱里の背中をさすっているといつの間にか鈴織も近くに居た。


「鈴織ビビらせないでよ」


「ビビらせてないし〜 てか朱里泣いてる? 」


「そう言われてもさ〜仕方ないじゃん」


「朱里が泣くって以外だよね」


「それな 千歳の方が泣きそうなのに」


「え!? そう思われてたの!?」


「「うん」」


朱里が泣いていること以外は今まで通りなのに卒業なんて考えられない。後は理科室で学級会があるだけだ。

とうとう面倒だと思っていた学級会すら終わってしまった。多少面倒な人とかタイプが真逆の人とかも居たがそういう人たちが居たから行事が楽しかったんだと今になって気付いた。そういう人達の中には最後の最後までウケを狙いに行っている人も居るのに私は「1、2年で色々あったけど最後の1年がこのクラスで良かった」と本音をぶちまけただけだ。クライマックスに色紙と花束を担任に渡す時にタイミングがズレてテイク2をする羽目になったのもこのクラスらしい。

靴に履き替えて外に出ると他クラスの友達を見つけた。動物の加工を付けてみたり、男友達が変なポーズを撮っているのを撮ったりしていたら1人居ないことに気付いた。そう、悠里がどこにも居ないのだ。悠里の幼なじみである梨花に聞いてみたら「もう帰ったんじゃない? 」というまさかの回答を得られた。一旦悠里のことは置いておくことにした。

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