第13話 桜咲く
卒業式。今まで見送る側だったのに今度は見送られる側だ。感染症のせいで在校生は参加出来ないらしいがその分先生達が私達の卒業を祝福してくれるだろう。
そんな卒業式まで残り1ヶ月。早すぎやしないだろうか。ついこの前入学したばかりだというのに。少し前にはもう私立高校の合格通知が来た。まだまだ先の事だと思っていたのに想像の何倍も早かった。3年間色々なことがあった。1年の時にはいじめられ自傷行為を始めてしまった。2年の時には修学旅行を目一杯楽しんだ。抱いていた淡い物に気付かされた。そして3年。感染症と受験で友達と遊ぶ事はなかった。行事も短縮された。だけどその分思い出は濃く残っている。とは言えど思い出の殆どが下らない談笑だが。卒業式の練習中、暇で眠たくなってそんな事を思い出していた。ある一言でその回想が途切れた。
「青葉さん。ちょっと来て」
体育館に居なかったはずの担任の先生だった。何か呼び出される様な事をやらかしたか不安なまま体育館を出た。担任からかけられた言葉は意外なものだった。
「青葉さん今受験票持ってる?今日結果が来てるんだけど」
「たしか教室の鞄の中に入っているはずです」
「じゃあ今取ってきて。先生が勝手にとる訳にはいけないし」
教室の鍵を手渡され受験票を取りに行く。記憶通りサブバッグの底の方に入っていた。要らないだろうとは思っていながらも何か必要な時があるかもしれない。そう思って入れっぱなしにしていたのだ。受験票を手に持っていると入試の時の緊張が蘇ってきそうで急いで鍵を閉めて受験票を先生に手渡した。
「青葉さんには昼休みに伝えるから昼休みに放送室に来てね」
「はい。わかりました」
それだけ返して体育館に戻った。
昼休み。私は朱里と鈴織を引き連れて職員室に向かった。一応先生を呼ばないといけないと思っていたら先生も待ち構えていたらしく私がドアから少し顔を出しただけですぐに出てきた。健闘を祈る、そう言うかのように2人が小さく手を振ってくれた。実際の所受かったのだろうという気はしている。給食の前に受験票を返される時に何かを言いかけていたからだ。放送室に入ると数枚のコピー用紙の束を手渡された。先生曰く私の受験番号にマーカーで線を引いてくれたらしい。普通科の方からめくっていく。だが自分の番号の前後は見つかってもマーカーの線は見つからなかった。何回か見直してもなかった。落ちたのか。そう思いつつ福祉科の合格者の番号も確認してみる。あった。ひとつだけ色が着いた番号がある。間違いなく自分の番号だった。そう分かった瞬間複雑な気持ちになった。高校に合格出来たのはいい事だ。だが、合格通知が来たということは中学校を卒業する日が近づいているということだ。あと1ヶ月もない中学校生活、友達との思い出をたっぷり作る事を心に決めた。
放送室から出ると朱里と鈴織が喋りながら待ってくれていた。福祉科に合格した事を伝えると「千歳に向いてそうじゃん」と言ってくれた。「ありがとう」そう返してふと窓の外を見た。外にも自分にも桜が咲いていた。
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