第12話 早いなぁ

いつの間にか季節が変わってもう秋になっていた。制服も合服に変わっている。合服を着たら未だにあの事を思い出す。夏は受験勉強やらオープンスクールやらで忙しすぎて記憶が無い。しかも感染症が流行ったおかげで祭りも無くなったから思い出もない。オマケにあの時の返事もまだ聞いていない。全てが無い夏だった。なんて事を考えている内に授業がいつの間にか進んでいた。慌てて板書をノートに書き写す。悩みの種の張本人は隣で眠そうな顔をしている。何故か今年は悠里が隣か後ろの席にいる事が多い。そうじゃなくても斜め前とか比較的近い所にいる。神様が本当に居るとしたらきっと私は遊ばれている。そして「ほれほれ〜悶えろ〜苦しめ〜」とでも言っているに違いない。そう思いながらも今度はしっかりと手を動かした。チャイムがいつもより遠い気がした。



「ち〜とせ」


元気な声で名前を呼ばれて後ろを見ると今年初めて同じクラスになって仲良くなった比奈田 鈴織ひなた れおがいた。一体何処からその元気が出ているのか聞きたいぐらいに元気だ。一緒に朱里も居る。今は視界に入れたくない悠里も居る。鈴織と朱里がケラケラ笑っていて悠里が困ったような顔をしていると言う事はいつものあれか。


「ん〜 どうした?」


「悠里が鈴織にバカって言ってきた〜」


「おい悠里 そりゃないでしょ」


「そもそも鈴織バカじゃないしね」


「まず俺が言ってないっていう考えは?」


「「「そんな物あるわけない」」」


「ひでぇ」


いつも休み時間にするやりとりだ。休み時間だけじゃなくて昼休みも友達と傍から聞いたらバカだと思われても不思議ではない様な事ばかり言っている。こんなことが出来るのもあと半年もない。冬になったらもっと受験モードになるだろう。そうなったら今よりも現実を見ないといけない。私は現実を見たくない。既に県外の高校に行く事が決まっていて、簡単に友達と会えなくなる。今までみたいな事が出来なくなる。流行っている感染症がいつになったら収まるのかも分からない。だからせめてこっちにいる間にこんな下らない事を満喫したい。その瞬間は二度と繰り返されないから。そして可能ならあの時の返事も聞いておきたい。実は今までに1度だけ遠回しに催促をした事があったがはぐらかされてしまっていた。もう返事は大体分かっている。だけどこっちが面と向かって言ったんだから返事もしっかり聞きたい。どんな結果だろうと聞く覚悟ぐらいしっかりある。だからお願い。桜が咲くまでにはっきりさせてくれ。


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