第10話 あぁ

冬休みが短すぎる。今日が始業式なんて信じられない。厳密に言えば例年と日数は変わらない。体感的に短すぎる気がする。あの後クリスマスパーティもしたが何も言われなかった。プレゼント交換で私のが悠里の手に渡ったが何事も無かったかのようにしれっとしていた。悠里はどこか猫っぽい所がある。掴み所がなくてマイペース、表情に出さない。猫を擬人化の模範解答だ。こりゃ告白の返事も何時になるかは分からないだろうな。せめて卒業までに分かればいいか。

そう考えていたら既に季節が変わっていた。春休みを終えて今日はクラス替えの日だ。祈るような気持ちで貼り出された紙を見ようとしたが小柄故に他の人に埋もれてしまって中々見えない。


「あっ 千歳〜 こっちこっち」


朱里と一緒なら少なくとも埋もれることは無いだろう。頑張って朱里のセーラー服の袖を掴んだ。朱里も事情が分かっているから掴むなとは言わない。朱里はじっと紙を見ていたがぱっとした明るい表情でこっちを見た。


「やった! 今年も一緒だよ! 」


「よっしゃ! 3年目もよろしくね笑」


「うん笑」


1番の親友が同じクラスだと分かって一気に安心した。1人にならずに済むと分かったから後はどうでもいい。先生が自分のクラスが分かったら整列しろと叫んでいる。一気に静かになって皆クラスごとに分かれ始めた。前後の人と出席番号の確認をしてどうにか自分の場所を把握する。今更ながら悠里が同じクラスか確認し忘れていた事に気づいた。4分の3の確率で違うクラス。きっと諦めた方がいい。

そう思って男子の列を前から順に見ると見慣れた姿があった。襟足も横髪も校則ギリギリの長さ。皆ワクワクしているのに1人だけ気だるそうな雰囲気を醸し出している。ややダボッとした学ランがそれを引き立てている。見間違いか。何度もそう思ったが見間違いではなかった。彼は加賀宮悠里だ。

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