第6話どうすりゃいいの

昨日あんな事があったからと言って今日が来ない訳では無い。元々朝に強い方ではないが今日は特に布団から出たくない。というより学校に行きたくないと言った方が良いだろうか。かと言っていつまでもグズグズしていられる訳もない。モソモソと布団から出ていつも通りに準備をする。制服に着替えた瞬間昨日の事が鮮明に蘇ってきた。ブラウスは毎日洗濯するがスカートはそうはいかない。しかもジャンバースカートともなれば尚更だ。せめて今日が文化祭じゃなかったらいいのに。いつもの何倍も重い足取りで学校に向かう。朱里に聞かれたらどう返そうか。悠里は一体どんな態度を示すのだろうか。そんな事ばかり悶々と考えていたら校門がすぐ目の前だ。向かいから来る生徒が浮き足立っているように見える。純粋に文化祭を楽しめる人達が羨ましい。自分のクラスに入ると数名ほどが既に盛り上がっていた。馬鹿みたいに高く下品な位に大きな声で笑っている。馬鹿の高笑いとは良く言ったものだ。うんざりした頃に丁度教室に朱里が入って来た。

「千歳〜 おはよう 」


「んぁ〜 朱里おはよ 」


「千歳めっちゃ眠そうじゃん笑 」


「だって眠いんだもん笑 」


「あっ そうだ 昨日の悠里のアレなんだったの? 」


1番突っ込まれたくない事を朝イチから突っ込まれてしまった。だが私だってそこまで馬鹿じゃない。ちゃんとどう返すかはしっかり考えてある。


「作業してた教室に入るタイミング失った上に眠かったからああなってたんだって笑」


「あぁ〜確かに女子ばっかりだったもんね笑」


良かった。上手い事騙されてくれた。言い方は悪いがとりあえず切り抜けられたからどうでもいい。後はどうやって話を逸らそうか考えていたらタイミング良く始業前のチャイムが鳴ってくれた。話していた人達がサッと自分の席に帰って行く。朝礼も文化祭の合唱を頑張ろうだとかそんなことばかりだ。ぶっちゃけ合唱とかどうでもいい。とりあえず早く帰らせてくれ。斜め前の嫌でも視界に入る所に昨日あんな事をしてきた悠里が居る。席替えもまだ当分先だろうしとりあえず12月に期待する事にしよう。今日は動揺を誰にも悟られないようにする事だけに徹しよう。今日は文化祭と委員会の他のメンバーにも新聞を見せて先生に提出すればいいだけだから容易いだろう。

体育館にはステージの準備がされていた。既に1年生は整列して座っていた。その後私達2年生と3年生が整列を終えて開会式が始まった。長々と話しているが要約すると「合唱を全力で頑張って楽しもう」という事だ。面倒な話が終わったかと思いきや今度は1年生の合唱だ。自由曲は良いとして課題曲を聞くのが地獄でしかない。しかも今年は1年が5クラスになってるから同じ曲を5回も聞く羽目になる。5回も聞いてうんざりした直後に歌うこっちの身にもなって欲しい。3年生も同じような事を考えているのだろうが。そしていよいよ私たちのクラスの番だ。課題曲は良いとして問題は自由曲だ。投票の結果と言ってはいるが恐らく票の集計をした係が誤魔化したとしか思えない曲を歌わなければならない。それ自体はどうでもいいとして問題はその曲の内容だ。その曲はあろう事か恋愛ソングなのである。昨日の今日でこんな歌を歌って思い出すなという方が難しいだろう。とりあえず歌い切ればいい。そう思ってステージに立って合唱隊系に並ぶ。小柄な事が災いして最前列、しかもアルトだから真ん中という拷問に耐えなければならない。拷問に耐えつつ課題曲を歌い終えた。伴奏者と指揮者が代わった。伴奏者が自由曲のイントロを弾き始めた。愛だの恋だのと言った歌詞を馬鹿馬鹿しいと思いながら歌った。途中からは昨日の事を思い出してしまって歌所ではなかった。


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