管理人は見た(ゴミ袋の中を)

ゴオルド

分別

「私は夏井静香。60代の女性だ。夫に先立たれ、子供のない私は、会社を定年退職後、アパートの管理人として働くことにした。


なぜ管理人になったのか? お金が欲しかったのもあるが、体を動かしていれば健康に良さそうだというのが一番の理由だ。特に趣味もないから、何か仕事でもしていないと手持ち無沙汰だというのもあった。


不動産の管理会社の求人に応募した私は、ある1ルームタイプのアパートの管理を任された。


仕事内容は清掃、草むしり、トラブルの対応などだが、一番の仕事はゴミ捨て場の管理だ。

このアパートは一人暮らしの若者ばかりで、ゴミの分別なんてまるで知らないみたいなゴミの出し方をする。学校のテストや酒瓶や下着がごっちゃになったゴミ袋を開封し、中身を出して分別するのも、私が引き受けた仕事の一つなのだ。住民の皆様のプライバシーが丸見えだけれど、これも仕事だから許してっ! とても言えないようなものもつい発見しちゃうけど許してっ!


このアパートには20人の若者が暮らしている。A大学が8人、B大学が1人、C短大が2人、D専門学校が4人、あとそれ以外の子。

私が調べたところ、ゴミ出しのルールを守っているのは、20人中4人である。

どうなってんの、ルール守る人が少数派って。

この地域って、どんだけ治安悪いの。



しかし、管理会社がいうには、同じ町内でもファミリー向けのマンションは分別ルールを守っているらしい。


いやいや、どうなってんの。

逆になんでファミリーはゴミの分別ができるのか。

独身のときにできなかったことが、結婚したらできるようになるとか、そんなことある?


急にゴミの分別に目覚めるとかある?




夫「俺たちは結婚したから、そろそろ……」

妻「ええ、そうね。今夜から……」


夫婦「「燃えるゴミと燃えないゴミを分けるようにしよう」」


こうなるか?

新婚の家庭がこうなるか?

ならないでしょうよ。なるわけない。急に分別に目覚めたりしない。目覚めたら逆に怖い。



そこで、私は一つの可能性に気づいてしまった。


結婚したらゴミの分別をするようになるのではなくて、ゴミの分別がちゃんとできている人間が結婚するのではないかと。


このアパートで言うなら、結婚するのは4人、未婚のまま生涯を終えるのが16人なんじゃないか?



……いやいやいや。

未婚率8割はさすがに高すぎるでしょう。自分で言っといて何だけど、それはない。


じゃあ、どういうことなのか。


それを調べるために、ゴミを分別しない人はどういう人間なのか、徹底的に観察することにした。無趣味だった私にやっと趣味ができたのだ」






と、アパートの掲示板に書いて貼ったら、住人の皆様はゴミの分別をしてくれるようになりました。


はあ~。助かったわあ。これで随分仕事が楽になるわ。見たいDVD溜まってんのよね。卓球のサークルにも行きたいし。



めでたし。めでたし。

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