プール授業のお話③(小学四年生)
「宝探しを始めるぞ」
先生の声にみんなは歓声を上げた。
先生の言う宝探しというのは、プールの中に投げ入れたスーパーボールのような感触のブロックを拾い集めるゲームである。ブロックはいろんな色があってカラフルであり、収集魂に火をつけるのだ。
ただブロックを拾い集めるだけのゲーム。それだけなのになぜか熱中してしまう。これはゲームでああるが遊びではないのだ。
これは小学生のプール授業での人気種目の一つである。子供らしくみんなの目がキラキラと輝いていた。
「一人三つが目標だ。がんばって集めるように」
そうは言ってもより多く集めたいのが人の性というものだろう。とくに男子の目がマジである。あくまで三つは最低ラインなのだろう。いかにして多くのブロックを集めようかと思考をめぐらせているに違いない。
こういうのは運動神経がすべてじゃないからな。普段なら本郷が一番だろうが、今だけは男子全員負ける気がしないといった表情だ。
先生が次々とブロックをプールへと投げ入れていく。真剣にやろうって子はたくさん落ちたと思われるポイントを目で追いかけていた。
「高木、負けないからな」
本郷が真剣な面持ちで俺に宣言する。ゲームは男をシリアスにさせるね。
「それはこっちのセリフだ。負けないぞ本郷」
そして俺もまた童心に火をつけられた者の一人だったりする。燃えてきたぜ!
「よし、始め!」
先生のスタートの合図で俺達はプールの中へと潜って探し始めた。
とりあえず近いところから回収することにした。目についたブロックのもとへと向かう。
まずは一つゲットだ。水面から顔を出すと、ちょうど本郷と目が合った。
本郷は得意げに二つのブロックを見せつけてくる。俺はまだ一つだけ……、負けてらんねえ!
さて、宝探しゲームではみんな自分なりの戦略を持っている。
単純にブロックがたくさんあるところへと向かう子。逆に少し離れてしまったところにあるブロックを求めて、競争率の少ない場所へと向かう子。
「ぷはぁっ。う~……全然取れないよ~」
「……」
葵ちゃんのようにプールの底まで潜れなくて、まったくブロックを取れない子もいる。というか葵ちゃんだけなんだけども。下手なことを言うまいと口をつぐんだ。
「ふふふ」
怪しい笑いが気になって振り返る。
葵ちゃんとは反対に潜りっぱなしでブロックを回収しまくっている子もいる。それは赤城さんである。この子の潜水技術はレベルが高すぎないだろうか。
「離せよ! これ俺のだろ!」
「いいや、俺の方が速かったから俺のだよ!」
ケンカの声が聞こえたので顔を向ける。二人の男子が一つのブロックをめぐって取り合っているようだ。
どちらも退く気はないみたいだ。たかがブロックの一つと思われるかもしれないが、ケンカをしてしまうほどに真剣にゲームに取り組んでいるのだ。
「ちょっとあんた達! 何ケンカしているのよ!」
男子のケンカに割り込んだのは瞳子ちゃんだった。
瞳子ちゃんはまったく臆する様子がない。興奮している男子なら手を出してもおかしくないというのに。心配になって俺も近寄る。
だが俺の心配に反してケンカしていた二人の男子はしゅんと大人しくなった。瞳子ちゃんの存在感は男子の頭を冷やさせるようだ。
「ジャンケンしなさい。それで勝った人のもの。いいわね?」
ケンカしていたのが嘘みたいに素直にジャンケンをする。見事です瞳子お奉行。
なんてことをしているうちに制限時間がきた。俺が拾えたのは三つ。最低限しか拾えなかった悔しさが込み上げる。
宝探しゲームでのトップの記録を叩き出したのは赤城さんだった。やっぱりあの潜水スキルは小学生レベルじゃないって。
結局葵ちゃんだけは一つも拾えなかった。肩を落として見るからに落ち込んでいる。
「……俊成」
「……うん、そうだね」
そんな葵ちゃんの姿を見た俺と瞳子ちゃんは気持ちを一つにしていた。
「トシくん、瞳子ちゃん、ありがとう!」
一つも拾えなかった葵ちゃんに俺と瞳子ちゃんは自分が取ったブロックを一つずつ分けてあげた。満面の笑顔になった葵ちゃんを見て、俺と瞳子ちゃんは釣られるように笑ったのだった。
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